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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
三人
8/33

7*

「あれ……結居蘭ちゃん?」

「お、おはよう。黒木様」

「なんで……結居蘭ちゃんが?」


(え、あ……ここに居ること、もしかして知られたくなかったのかな? 私帰った方が良かったのかな)


「ご、ごめんね」

「どうして謝るの?」

「えっと……私が、私がかすみ先生に、黒木様がここで寝てるって事聞いて、その……黒木様、大丈夫かなって、その、思って。――でも、迷惑だった、かなって。勝手に、傍に居て、友達面みたいな事して……頭痛の事も聞いて」


 「怖い、怒ってるかな?」と、結居蘭は怖くて黒木の顔から目を逸らした。


「うふふ、あはははは!」

「⁉︎」


 急に笑った黒木に結居蘭は体全体でびっくりしてしまった。

 そして黒木は、そのまま結居蘭の顔を見つめた。


「結居蘭ちゃん。友達面って、いいんだよ。だって僕達友達じゃないか。君は、僕の大事な友達さ」


 彼女の笑顔とその言葉に、結居蘭は胸が傷んだ。


「黒木様……」

「それにね……僕、今とても嬉しいんだ」

「どうして?」


 さっきまでの笑顔から、急に真面目な顔へと替わり、結居蘭を見つめてくる。

 目を合わせてるのは苦手だけど、今はそんなことを考えられない。彼女から目が離せない。


「結居蘭ちゃんに、嫌われてると思ってたから」


 その言葉を脳が認知して、体中にドンと衝撃が走った。


「え、あ」

「いや、いいんだよ。無理に僕と仲良くなんてしなくて」

「いや、違うよ、黒木様」

「結居蘭ちゃんって、派手な人とか静かじゃない人とか嫌いなんだよね? ほら、僕ってかっこよくてプリンスだから、人気者だろ? だから周りが騒いでしまうし、結居蘭ちゃんは男が苦手だったよね? だから、僕の振る舞いや見た目とか全部が、君の苦手なのかなって」

「違うよ!」


(あ……。思わず大きな声を出してしまった。黒木様は頭が痛かったのに頭に響いたかな? いや、むしろ話をぶった切ってしまった。どうしよう……)


「え、と、あ……ご、ごめ――」

「謝らなくていいよ。さあ、続けて?」


 結居蘭を安心させるように微笑みかけて、手を優しく握った。

 出会ったあの日も、黒木は、結居蘭を安心させようと、手を握り、微笑んでくれたのを思い出した。

 そんな彼女の笑みは、少し安心した。


「私……黒木様の事、何も知らなくて」

「うん」

「このまま顔を合わせる時に笑ってればいい、黒木様が勝手に喋ってくれるから、それを聞いてればいいし、答えたり相槌を打ってれば、平穏に暮らしていけるんじゃないかって思った」

「うん」

「でも、それでも私は……私は、黒木様と、ゆずき経由ではあるけれど、面識を持って、顔合わせした時に、よろしくねって黒木様言ってくれたよね。その言葉、怖かったし不安だったけど……嬉しかったんだ。私を、私を見ても……気持ち悪いとか、不気味だとか、言わなかったし。だから、嫌われるかもしれない、友達に、なれないかもしれない。――でも、それでもいい。それでも、本当の私で、黒木様と、話をしてみたかったんだ」

「……結居蘭ちゃん」

「あと、まだ本当に友達かもわからないのに、さっき黒木様が体調悪いって聞いて、ほっとけなかった……。勝手に心配して、不安になって、顔が見たくなって。顔みたら今度は、傍に……傍に居たくなったんだ……だから、その」

「僕のマリア」

「……は?」

「目を覚ました時、マリアがいるって思ったんだ」

「え、えっと」

「そう、君はマリアだった」

「?」

「こんなにも素敵で、優しい女の子だったんだね。――ごめん。僕こそ友達といいながら、君の事、なにも知らなかったんだね。こんなにも僕の事を思ってくれて、考えてくれて、心配してくれて、歩み寄ろうとしてくれるなんて……やっぱり、僕達は友達だよ」


 黒木の顔を見ると、嬉しそうだが、目がキラキラしてて泣きそうだった。


「大丈夫?」

「え?」

「泣きそうだけど」


 結居蘭はこうして人に何か聞いたりするのが苦手だ。黒木も結居蘭の事ばかり聞いてくるからと、結居蘭はいつもその理由で逃げていた。

(聞いてくるから、じゃない。私が歩み寄らないから、何にも知らないんだ。そうだ、私は黒木様の事を全然知らない。知りたい……彼女の事、これからもっと)


「泣いてもいいよ。黒木様の思ってる事、もっともっと話して」

「うふふ。結居蘭ちゃん、僕の事、もっともっと知りたくなってくれたんだね?」

「う、うん。だって、その……黒木様は」

「うん。僕は、何?」


 そのまま黒木は結居蘭の顔をじっと笑顔で見つめた。


「ともだ……いや、くろきさん。今日から……今日から私と……本当の友達になろう!」


 心臓がドキドキしている。

(あ、言えた。やっと、言えた)


「もちろんさ。僕も君の事、もっともっと知りたくなって、近づきたくなったよ。これからもよろしくね、僕のマリア」

「え、いや。マリアでは、ない」

「僕はね、青が好きなんだ」

「……え?」

「そう、ゆいらちゃんの瞳の様な、美しい青がね」

「えっと、あ、ありがとう。でも、なんで今言ったの?」

「君の顔を見つめてたら、言いたくなったんだよ」


(あー、これは女子が勘違いしてもおかしくないと思う。てかこんな人現実にいるんだな、見た目も全部含めて。ゲームとかではよくいるけど)


「くろきさんって、天然のスケコマシ?」

「えっ? 何? 今の日本語かぃ? その言葉知らないなぁ、日本語で頼むよ」

「日本語だよ」

「えっ? そうなの?」

「まあいいや、気にしないで。あとさっきの発言に物申す」

「どれ?」

「くろきさんがさっき言ってた、僕の振る舞いや見た目が、男みたいだから嫌だよねってやつなんだけど」

「うん」

「くろきさんは、そもそも男じゃないでしょ?」

「え、あ……うん」


 なんだか驚いた様な顔を黒木はした。


「見た目で判断する私もいけないけど、最初はそりゃナンパな人で、女子と遊びまくって女の子の事しか考えてない、チャラクソ野郎だと思ってたけど」

「なっ……」

「でも今は見た目は自分がなりたいかっこいいを実現出来ててすごいって思うし、かっこいいや綺麗の為に努力をしっかりしてるんだろうな、とてもかわいい子だなって思ってるよ」

「かわいい? 僕の事が? 僕はかっこいいだろ?」

「いや、必死にお化粧や髪型も気にして学校来てるとか、私達の中で一番女子だよね」

「なっ、や、やめてよ」

「だから、くろきさんの事、嫌じゃないからね」


 黒木は目を泳がせ、顔が赤い。

 自分は女子への甘い囁きが得意なのに、いざ自分が言われるとダメな様子だ。


「かわいくはないけど、ありがとう、僕の事女だと思ってくれて」

「かわいいよ」

「ゆいらちゃんの方が、かわいいよ」

「え? なんか言った?」

「Non! 聞いててよせっかくウィンクまでしたのに」

「ふふっ」

「あのね」

「ん? どうしたの」

「僕も、君に話したい事があるんだ」

「うん、わかった。聞く」

「僕ね、友達が出来て嬉しいんだ」

「うん」

「友達って、全然できた事なかったから」

「え?」


 結居蘭の返事に、黒木は困った様な顔をした。

(え? それって……どういう)

 なんだか彼女が怖い人に見えた。

 嫌な震えがする、あの人を思い出す。

(――もしかして、彼女も、飽きたら私やゆずきを、捨てるんじゃ)

 そんな人じゃないと信じたい心、でも中学の頃の記憶が、自分が、震えを生み出す。


「みんな、僕と友達にはなりたくないんだって」

「?」

「みんな、僕の彼女になりたいって言うんだ」

「そ、そうなんだ」

「みんな、僕を女だと思っていない。女だとわかっても、彼氏になってくれって言ってくる」

「ち」

「え?」


 聞こうとして、言葉が喉で詰まった。

 決めつけるのは良くない。

 彼女がこうして自分の話をしてくれているのだ。大切な話なんだ。しっかり聞こう。と結居蘭は思った。

 黒木の表情は、どんどんと曇って行く。こんな黒木は初めて見た。


「僕は……男になりたいわけでは無い」

「うん」


(あ、違うんだ)


「女の子と付き合いたいからこんな身なりなわけでも無い」

「うん」


(あ、違うんだ)


「僕はね……」

「うん」

「麗しき青薔薇のプリンスなんだ」

「……え?」


(え? ええーーーー⁉︎ ごめん、ごめんごめんごめん。意味わからないんだが)

 黒木の曇っていた表情は嘘のように、今はキラキラと輝き、いつものうるさい黒木の顔だ。


「プ、プリンスって……王子、だよね?」

「そうだよ」

「王子って、男……」

「そんな事、決まってないだろ?」

「ま、まあ男って漢字入ってないしね」

「僕は世の中の固定概念が大嫌いなんだ。自由であるべきだ」

「は、はあ」

「僕はね、女の中で一番のプリンスになりたいと幼い頃から憧れていた。同性だからこそ女の子の気持ちを一番に理解し、寄り添える、華麗に守れる、助けられる、そんな存在になりたいんだ!」


 黒木はいわゆるキメ顔をしてから結居蘭の方を見た。結居蘭はそれを真顔で受け止めた。


「話はそれたけれど、僕はそう言う人間って事、ゆいらちゃんに分かってもらいたかったんだ」

「う、うん。話してくれてありがとう。分かったよ」

「うふふ、ありがとう。これからも友達として、よろしくねゆいらちゃん」


 黒木はそう言うと左手を差し出した。結居蘭は右手でその手を握り返し握手をした。

読んでくださりありがとうございます。

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次回もお楽しみに。

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