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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
三人
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6ページ

 今日も昼食は三人で集まった。

 結居蘭の中の不安は消える事はない。


「いただきます」


 三人で食べる中で、真希と黒木が主に話をしていた。結居蘭はその会話に入る事はない。

 黒木は結居蘭の様子を気にしながら、結居蘭のお弁当を見ながら話しかけた。


「結居蘭ちゃんのお弁当、美味しそうだよね。お母さんが作ってくれてるの?」

「んえっ、えっと……あ、はい」

「ゆいら、気おつけろ。くろきははらぺこゴリラだからとられるぞ」

「僕をそんな品のない奴みたいに言うのはやめろ。あとゴリラじゃない」

「ははは」


 結居蘭は苦笑いをした。

 どうすれば結居蘭と仲良くなれるのか、黒木は検討もつかない。いつも女の子は自分に寄ってきてくれるのが当たり前だから。

 それから結居蘭は何も言葉を発する事なく昼休みが終わってしまった。

 黒木は自分のクラスに帰った後も結居蘭の事を考え、気にした。真希を通じて知り合ったとは言え、友達だから。

 確かに結居蘭は少し変だと、黒木も思っていた。自分を見ても騒がないし、好かれようとしてこない。

  だが、せっかく友達になった結居蘭をもっと知りたいし、もっと仲良くしたいと黒木は思っていた。


 六時間目も終わり帰りのホームルームも終わった。

 黒木は今週掃除当番ではなかった為、終わってからすぐにニ年A組を訪ねた。教室では真希が掃除をしていたので、話しかけた。


「お、くろき」

「おい、結居蘭ちゃんは?」

「ゆいらは掃除当番じゃねぇから、どっかにいる。多分ベランダじゃねぇか?」

「わかった、じゃあ僕もそこで待っているからな」

「おうよ!」


 黒木はA組から出て、A組は一番右端にあり、A組の裏には非常用に外に出られる為の場所があるので、そこへ向かった。

 黒木と真希はたまに授業がめんどくさい時とかにはそこに集まっては、おにぎりを食べたり、お菓子を食べたり、真希はゲームをしたりする。

  ここに来る人は全然居ない。

 非常用という事もあるが、そこから出たところで、下に繋がっている訳ではなく、学校外に出られる橋みたいなのがかかっているだけなので、穴場だ。

 ドアを開けて、まっすぐには鎖で封鎖された橋があり、横には小さなベランダの様なスペースがある。

 そのスペースがある方に視線を向ければ、結居蘭が地べたに体育座りで座っていた。

 イヤフォンをしていて、黒木に気づいていないようだ。

 黒木はそのまま結居蘭に近づき、隣に座った。

 流石に気づいたのか、結居蘭は黒木の方に顔を向け、目が合った。


「――あ」

「やあ、結居蘭ちゃん」


 結居蘭は急いでイヤフォンを外し、視線を落とし、少し横にずれて、黒木と距離をとった。

(あぁ……ちょっと傷ついたなぁ今の)


「ど、どうしたんですか?」

「結居蘭ちゃんがここに居るって、まきに聞いたんだ。一緒に、まきを待っても良いかな?」

「え、あ……う、うん」

「うふふ、ありがとう。結居蘭ちゃん」


黒木は離れた分自分から結居蘭に近づいた。


「六時間目は、A組なんだったの?」

「あ、えっと……英語で、単語のテストです」

「へぇー。君は頭が良いだろうから、楽勝だったかな?」

「ま、まあ、出る範囲は勉強してきたし。全部当たってたかな」

「すごいね、流石結居蘭ちゃんだ。ありだな」


 黒木は結居蘭が満点だった事を褒めるつもりで、左手を伸ばして、結居蘭の頭を撫でた。


「偉いえらっ――」

「やめて!!」

 

 黒木は大きな声にびっくりして、撫でていた手の動きを止めると、結居蘭は全力で黒木の左手を両手で引き剥がし、立ち上がって後ずさりをした。


「う……あっ、あぁっ……」

「あ、えっと、結居蘭ちゃん?」

「うっ……っ……」


 そのまま結居蘭はずっと俯いて、両手でスカートをぎゅっと握り涙をこらえた。

 それでも、彼女の悲しみの色は零れて、地面を濡らした。

(泣いてる)

 黒木は自分が結居蘭を傷つけてしまった事を理解した。


「だ、大丈夫かぃ? ご、ごめんよ! 結居蘭ちゃん」


 黒木も立ち上がり、結居蘭を抱き締めようと両手を伸ばして、彼女を引き寄せると、右手で勢いよく手を弾かれた。


「やめて! 優しくしないで!」


「結居蘭ちゃっ――」

「触らないで!!」


 悲しみと怒りが混ざるそんな声は、彼女の辛さが、痛みが、伝わって来る。


「やめっ……やめ、て……っ、やめて……」

「……」

「ひっ……ぐっ」


 結居蘭が何かの感情を露にする姿を始めて見た。

 でも、これはきっと、出させてはいけない感情だったと黒木は思う。

 見ているこっちまで悲しくなって、どうしよもなくなる。

 彼女を助けたい。

 彼女を安心させたい。

 でも、触れると余計に、彼女は苦しんで行く。

  (どうしたら、どうしたら良いんだろう)

 焦りと、謝りたいと思う気持ちでいっぱいで、上手く考えられない。


「……ごめんよ」

「うっ……っ」

「……結居蘭ちゃん、もう絶対触れないから、聞くだけ、僕の話を聞いて欲しい」

「うっ」

「――どうしたら、その、どうしたら、君を、君を安心させられる?」

「……」

「どうしたら、君は、笑ってくれ――」

「ごめんなさい」

「えっ?」

「……ごめん。黒木様。違う、黒木様は、悪くない」


 結居蘭は辛そうに泣きじゃくるのが収まったと思えば、黒木が悪くないと言い始めた。


「そんな訳ない。僕が、僕が君を傷つけてしまったんだ。君を泣かせてしまって、嫌な事をしてしまった。本当に、ごめん」

「……違う。ごめんなさい。私が……」


 黒木は、仲良くなるどころが、結居蘭を傷つけてしまった。


 結居蘭と友達になると言う自分の勝手な願いは、もしかして結居蘭を傷つけてしまうだけじゃないのか? と黒木は思った。

  それに、自分が話せば、相手も話してくれるなんて、勝手な期待で無理をさせたのかもしれない。

(どうせ、離れる日がやって来るんだろ?)

 自分だって、面倒事を増やしたくない。

 だったらもう仲良くしない方が、お互いの為じゃないかと黒木は思い始めた。

 今の出来事で、黒木の頭の中はいつもの淡々とした、真実の考えに切り替わって行く。

 今まで友達が出来ない、作らなかったのは、周りが黒木を否定したり真実を見抜けなかったり、勝手な好意で自分を傷つけてくる人間ばかりだったから、作らなかっただけで、自分を認めてくれるかもしれない人がまた一人出来たのは嬉しい。


 だが、結局世界で自分を理解できて、信じられて、受け入れられて、愛せるのは、自分自身しか居ない。

(だってそうだろ、バタフライちゃん……)

  そんな自分は真希と、仮に結居蘭も友達になったとして、自分の為にこの子達を裏切り、傷つけ、邪魔にするんだろう。

(めんどくさい)


「ういーお待たせフレンド!」


 そんな気まずい空気を一気に破って真希が来た。


「――まき、結居蘭ちゃんを頼む」

「は?」

「僕は帰る」


(なんで泣いたんだろ)

  黒木は人の感情がよく分からない。


 女の子達の告白を断ると、いつも泣かれたり、頬を叩かれたりするけど、あれってなんなんだろう? と思っている。

 人が泣くのは、悲しくて泣くものだって事は知っている。

 友達でもない子達の涙は、正直何も感じない。

 むしろ、彼氏になってくださいと言われるこっちの身にもなって欲しいと思っている。

 黒木は女だ。プリンスではあるが、女で最高のプリンスだ。

「勝手に男を望まれ、勝手な欲望で汚されるなんてNonすぎ」と彼女は思う。

 そんな奴等はクズだなとしか思わない。


 だが今、黒木は結居蘭の涙に興味を持って、心配になった。

 彼女と友達になりたいという思いは、本当だから。

 本当だからこそ、黒木は今とてもイライラして、でも、そんなのめんどくさいし、かっこ悪いと思った。

(だから、諦めちゃおーって、今思ってる)

 もう結居蘭に近づくのはやめにしよう。

 絶対嫌われた、それに自分の顔だって見たくないだろう。


「ちょっと待てよ! 何があったんだよおい」

「結居蘭ちゃん、本当にごめんよ。それじゃあ、さよなら」

「……」

「おい!!」


 真希が追いかけ、黒木のシャツの裾を引っ張った。


「なんだまき、うるさいぞ」

「何があったか話せよ」

「結居蘭ちゃんを傷つけたんだ。僕と彼女は友達にはなれない」

「は?」

「明日からお前の所にも行かない。一年生の時みたいに、たまに会うことにしよう」


  真希は裾から手を離し、今度は黒木のネクタイを引っ張り、黒木は強引に引き寄せられた。


「痛い、やめろ」

「ゆいらがそう言ったのかよ」

「え?」

「ゆいらが、てめぇとは友達になれねぇって言ったのか?」


  ここで違うと言えば、じゃあまだ大丈夫とか続けられても嫌だな。と黒木は思った。

(もう今は全てがめんどくさい)

 よくよく考えれば、さっきの事だって自分は普通に彼女に触れただけで泣かれて、自分は仲良くしたいって思って、彼女の事考えて考えて考えたのに、結果空回りだなんて。

(そんな僕、かっこ悪すぎだよ。Nonすぎ)

  だったらその事実を全部否定して諦めたら、もうそんなかっこ悪い自分を引きずらなくて済む。

(考えたから何? ほら、友達にならなかったよ。じゃあもういっか、あんな子の事なんて、諦めちゃお。泣かせちゃったー、傷つけちゃったー。でもまあいいかー、友達じゃないし。ほら、これで良いだろ?)

 

 何よりも黒木は、かっこ悪い自分はごめんだ。


「そうだよ。結居蘭ちゃんは僕が嫌なんだって」

「……わかった」


 真希はネクタイから手を離し、ベランダの方へ戻った。

 黒木は自分のプライドのため、彼女のせいにした。


「ちっ」


 苛立ちがどうしもなく、つい舌打ちが出てしまった。

(あぁ……そんな僕、美しくないな)

  いや、今の自分は、何一つとして美しくない。


「ねぇバタフライちゃん? 今だけ、今だけだよね? こんなに心がぐちゃぐちゃなのは……」


 黒木は空虚にそう問いかけ、目を閉じた。

 そして答えが返って来たのか、思い出したように言葉が口から吐き出された。


「大丈夫、いつも通りに戻るだけさ」


 瞼をゆっくりと開ければ、そこにはいつも通りの黒木が居た。

読んでくださりありがとうございます。

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次回もお楽しみに。

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