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新学期初日、結居蘭は校門の近くで真希を待っていた。
あの日から結居蘭は柚木真希と言う低身長でいつも右目に眼帯をしている、ちょっとおかしな少女と友達になり、毎日を過ごしていた。
周りからは「柚木と一緒にいるから、加藤とも関わりたくない」や「加藤柚木にいじめられてるの? 大丈夫?」等、色々な事を言われたりしたが、真希との生活は楽しい。
自分とは違った感じの人ではあるが、真希の妄想世界の話を聞くのが、結居蘭は楽しいと感じていた。
自分も好きなゲームの事に夢中になったりする。それと似ていると思ったから、きっと楽しいのだろう。
結居蘭が真希の姿を探していると、校門の前に高そうな黒い車が止まった。
それを見るや否や、周りの女子生徒がその場に集まっていく。
何事かと結居蘭はそこに視線をやれば、車から和服のお姉さんが出て来た後、一人の少年と思わしき人物が出て来た。
(ええー……。現実に居るんだ、ああ言うお金持ち)
結居蘭はドン引きしながら、その少年と思わしき人物を見た。
濃桔梗色のウルフカットをし、サイドの毛が外ハネに大げさなくらいにはねている。襟足だけ長く、襟足はグラデーションになっており毛先の辺りは菫色だ。
褐色肌を持ち、アイメイクを施してある派手な目元。つり目気味に見える。黒のワイシャツに青いネクタイを着用し、グレーのチェックのズボンをはき、黒の編み上げブーツをはいていた。
結居蘭は全部ひっくるめて「関わりたくない」と思った。
次の瞬間、女子生徒達の黄色い声が響き渡る。
「きゃー! 黒木様ー!」
「おはようございます黒木様!」
「やあ、おはようみんな。今日もかわいいね」
結居蘭は黒木という人物をもう一度見てから「そう言えばあの人、一年B組の学級委員長だった気がする」という事を思い出した。
そんな事をぼんやりと考えていると、黒木と目が合ってしまった。黒木は結居蘭に対して笑顔を向けた。
結居蘭はドキリとしてからすぐに視線を下に向けた。
(間違っても声をかけられたくない。こわー)
黒木とその取り巻き達は組み分け表の方へと向かっていった。
しばらくすると真希が走って結居蘭の元へとやって来た。
「おはようフレンド! 新学期だな」
「おはよう。うん……少し不安かな」
「あ? なんでだよ、あたしとゆいらは契約で結ばれてるから、離れる事なんて、ねぇのさ!」
変なポーズをとった後、ドヤ顔を結居蘭に向ける真希。
「そのポーズ何」
「決めのポーズ」
「そっか」
「おう」
「クラス表見に行こっか」
結居蘭達は下駄箱前に張り出された組み分け表を見に行く為、ニ年生の下駄箱へと向かった。
そこには人が溢れていて、紙も見えなければ、人が多すぎて正直近付きたくもないと、結居蘭は思った。
「うわぁ……むり」
「あたしが見てきてやるよ。ゆいらはそこで待ってろ。どけどけ! スカーレット・ウィザードの柚木真希がお通りだぜ」
小さな彼女はすぐに見えなくなった。「ありがとうゆずき」と思いながら、結居蘭は近くの木陰へと移動した。
すぐに真希が帰って来て、結居蘭に抱きついた。
「わぁ」
「やったぜ! 同じクラスだった!」
その言葉に結居蘭も安心し、笑顔がこぼれた。
「よかった」
「おう! 二年A組だぜ」
そのまま二人は靴を履き替え、二年A組の教室へ向かった。
***
「きおつけ、礼。さよなら」
今日は初日であった為、ホームルームだけで終わった。
結居蘭と真希の席は隣同士ではなかったが、結居蘭は真希とクラスが一緒なだけですごく嬉しいと思っていた。
真希が結居蘭の元へとやってくると何やら話があるという。
「話って何?」
「おう……あのさ、あたしのもう一人のフレンド、そろそろ紹介しようと思ってさ」
もう一人のフレンド。それは真希個人の話だろうか。
結居蘭は首を横に傾げた。
「ゆずきの友達なら、別に私の友達ではないような……」
「そういうと思ったぜ。でもさ、そいつゆいらと仲良くしたいって言ってたぜ」
「へぇ」
「ちょっと呼んでくるから待っててフレンド!」
そう言って真希は教室から出て行った。
他のクラスの子なのだろうか、結居蘭はどんな子だろうと考えたが、全く浮かばなかった。
そんな事を思っている内に教室のドアが開き、真希が入ってきた。が、真希の後にはもう一人居た。
「ほら、自己紹介しろよ」
結居蘭の目の前には真希と、朝見た金持ち美少年であろう黒木の姿があった。
「やぁ、かわいい君よ。はじめまして。僕は黒木。よろしくね」
女性を虜にするような低めのウィスパーボイス。
だが結居蘭にはきかなかったようだ。
「は、はじめまして。えっと……加藤結居蘭です、黒木様」
「Non。僕達友達なんだから、様はやめて欲しいな結居蘭ちゃん。気軽に黒木とでも呼んでおくれ」
「はいはい、もうそのくらいでいいかくろき」
「うふふ、結居蘭ちゃんがかわいくて、つい沢山話したくなってしまうよ」
その言葉に結居蘭は虫唾が走った。
「まあこんな変なやつだけど、一応あたしのフレンドだから、よろしくなゆいら」
「こんなかわいい子と友達になれるだなんて、僕はなんて幸せなんだろう」
三人で下校する事になり、居心地の悪さを感じる結居蘭。
そんな結居蘭の気も知らず、真希は話を始めた。
「この後うちにゆいら来るけどさ、お前も来る?」
「――いや、やめておく。今日は普通に帰るよ。車を呼ぶから乗っていくか?」
「おお! サンキュー」
結居蘭は黒木が来ない事にホッと胸を撫で下ろした。
そしてしばらくすると朝見た高そうな黒い車が、黒木の元へとやってきた。
そして和服のお姉さんが一人車から出てきで黒木に声をかけた。
「お疲れ様です」
「ああ。まきと結居蘭ちゃんをまきの家まで送る」
「かしこまりました」
そのまま三人は学校を後にした。
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