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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
偽り
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3ページ

 結居蘭は今日も、偽りの自分で過ごしていた。

 やっと長い一日が終わり、帰れると思った所で、結居蘭は隣の席にいる柚木真希に声をかけられ、手を引っ張られ何処かへと向かう。


「え、あ、あの」


 結居蘭にとってこの状況はとんでもなく怖いのだが、このまま手を振りほどく方が、よっぽど怖いと思い、結居蘭は手を振りほどけない。

 真希は話し方もぶっきらぼうで、授業もよくサボってどこかに行っている事が多い。更にはいつも右目に眼帯を付けていて、結居蘭はそんな真希に対して「絶対に関わりたくない」といつも思っていた。

(なんだろう、私何かやらかしてしまったのかな……これだけ階段登るって事は屋上だろうな。――どうしよう落とされでもしたら。あぁー……人生の終わりかもしれない)

 真希の顔は険しく、そして歩いている最中、何一つとして喋らなかった。

 結居蘭の予想は当たり、屋上のドアを真希は空いた左手で乱暴に開け、結居蘭を押し込んでからまた乱暴にドアを閉めた。

 そして、結居蘭を見る。

 険しい顔の真希と対面する事になり、目が一瞬合っただけで怖くなり、急いで目を逸らす。


「なっ……なんですか?」

「つまんねぇ」

「――えっ?」

「つまんねぇんだよ! てめぇ、もっと真っ直ぐ生きれねぇのかよ⁉」


 胸ぐらを掴まれ、唾がかかるほどの距離で真希に怒鳴り散らされる結居蘭。

 何故そんなにも怒っているのか、訳がわからない。

 だが、その言葉に結居蘭は苛立ちを覚えた。静かに拳を握りしめ、静まれと、落ち着けと自分に言い聞かせる。

 だが、真希はそれを許してはくれない。


「おい、なんだよその拳は。何が言いてぇんだ?」

「べつ……に」

「じゃあなんでそんな顔すんだよ? あぁ⁉︎ はっきり言ってみろ!」


 何もない。ただそれだけ言えば良かったのに。結居蘭はそう言えなかった。


「――くせに」

「あ?」

「何も知らないくせに……勝手なこと言わないでよ!!」


 結居蘭は真希を両手で突き飛ばした。

 その場に転げる真希を横目に、結居蘭は強く下唇を噛み、声を荒げたまま話を続けた。


「私だって……私だってまっすぐ生きたいよ! ――でもダメなの! それじゃダメなの!!」

「なんでだよ、なんでダメなんだよ?」


 涙が込み上げてきて、溢れそうになる。

 結居蘭はスカートを両手で握りしめながら天を仰いだ。


「排除されるから……最悪な場合、イジメにあう。――そんなの、もう嫌なの」


 そんな様子を見た真希は結居蘭に駆け寄ると、そのまま結居蘭を抱きしめた。


「――あたしが、居場所になってやる」

「――えっ?」

「お前がお前で居られる、本当のフレンドになってやるって言ってんだよ!」


 結居蘭と真希の視線が交わる。

 真希の顔は、真剣そのものだ。

「信じてみろよ」と言う夢での誰かの言葉を、結居蘭は思い出し、そのまま真希に自分から抱きついた。

 結居蘭の目から、大量の涙が滴り落ち、静かに泣いた。

 そして掠れた声で言った。


「――助けて」

「任せとけ」


              ***


 次の日、結居蘭は学校の校門前で真希を待っていた。

 髪は結んでなく、スカートも長いままで、化粧もして来なかった。

 しばらくすると赤いスカートをはいている低身長の栗色ショートヘアの女子が見えた。

 顔を見れば、その右目には今日も眼帯がしてある。

 結居蘭の姿に気づくと、その場で手を振り、駆け足で近寄ってきた。


「おはよーゆいら!」

「お、おはよう……ございます。ゆずきさん」

「はぁ? まきでいいぜ!」

「えっ、あっ、いや……でも」

「あたしがいいって言ってんのに……まぁいいや。ゆいらが呼びやすいやつでいい」


 困る結居蘭を見た真希はそう答えた。


「えっと……じゃあ、ゆずきで……いい?」


 遠慮がちにそう返す結居蘭に、真希は笑顔を向けた。


「おう!」


 二人は同じクラスである為、教室まで一緒に向かう。

 教室の前まで来た二人だったが、そこで結居蘭の足が止まった。あとドアを開けて入れば教室に到着するというのに。


「ゆいら?」

「――怖い」


 昨日決意した心が、また揺らぎ始めていた。

 怖いと言って体を小さく振るわせる結居蘭の右手首を、真希は右手で掴み、教室のドアに手をかける。


「大丈夫だ! あたしがついてる」


 そう言って真希は歯を見せてニカっと笑って見せた。

 その笑顔は、結居蘭に安らぎを与えた。

 結居蘭はその場で目を閉じ、深呼吸をすると、ゆっくりと目を開けた。


「うん。――大丈夫」


 その言葉を聞き終わると、真希は教室のドアを勢いよく開けた。

 教室に居る皆の視線が集まる。

 結居蘭は下を向きながら歩き、真希は堂々とした顔で歩いた。自分の席につくと、真希は結居蘭から手を離し席に座った。

 それを見ていた派手グループの女子達は、早速結居蘭の周りに集まってきた。


「結居蘭おはー」

「柚木に絡まれたんだね。可哀想に」

「何そのダッサイ格好。また先生に怒られたの?」

「ほら、メイク道具貸してあげるよ」


 楽しそうな雰囲気の中で、結居蘭は下を向いたまま、ゆっくりと口を開いた。


「ごめん」

「えっ?」

「何結居蘭? どうしたの?」

「化粧は必要ない。スカートも……長い方が好き。あと、テレビはそんなに見ない。ゲームしてる時間の方が……長いから」


 結居蘭は覚悟を決めて、その顔を上げた。

 自分の話を、派手グループの女子達は怪訝な顔で聞いていたと分かった。

 それに怯む事なく、結居蘭は震える声で言い放った。


「私……本当は今まで、みんなに合わせてたの! 嘘ついててごめんなさい。――本当の私は……これなの」


 自分からそう話すのは、どれだけの勇気がいるだろうか。


「よく言ったゆいら!」


 真希は大きな声を出し椅子から立ち上がり、ガッツポーズを結居蘭に向けた。

 教室内に沈黙が広がったが、すぐに派手グループの女子一人が舌打ちをした。


「あっそう。キモっ」

「せっかく仲間にいれてあげてたのに。うざっ」

「てかうちらより柚木と友達になるとか馬鹿じゃん。絶対後悔するよ」


 あからさまに苛立った声のトーンで結居蘭をせめ続けたが、結居蘭は涙を目にいっぱい溜め、スカートを両手で握りしめながら声を上げた。


「しないよ! 後悔しない。――だってゆずきは、本当の私を、見つけてくれた人だもん!」

「ゆいら……」

「気分わるいわー。――みんな、行こう」


 その言葉を最後に、派手グループの女子達は教室から去っていった。

 結居蘭の目から涙がこぼれ落ちるのと同時に、真希は結居蘭を抱きしめた。


「ゆいら……お前、最高フレンドだぜ!」

「ゆずき……怖かった」

「よくやった……よくやったよ」


 そのまま結居蘭が泣き止むまで、真希は結居蘭の背中を優しくぽんぽんと叩いた。


 それから学校での毎日を、結居蘭は本当の自分で過ごした。

 不登校にもならず、学校が嫌とも思わず通えている。

 それは隣に真希が居てくれるからだ。

 やっと本当の自分で居られる場所を見つけ、結居蘭は笑顔を見せる事が増えていった。

 そして真希との一年は、あっという間に過ぎ去っていった。

読んでくださりありがとうございます。

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次回もお楽しみに。

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