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人間には向いていない  作者: 咲紫きなこ
それぞれ
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12ページ

 朝、登校して直ぐに僕は二年A組に向かった。

 今日は真希がもういた。


「おー、くろき。おはようフレンド!」

「おはようくろきさん」

「おはようまき、ゆいらちゃん。今日も僕は美しくて、かっこいいだろ? ふふ、どんな王子も嫉妬する、そう! そんな僕は麗しき、青薔薇の、プリンス! 黒木さ」

「うっぜー、おはようしか言ってねんだけど、今日もかっこいいねとか誰も言ってねーんだけど。頭大丈夫かよ」

「くろきさん今日も元気だね」


 青薔薇のプリンス。

 そう、それは僕のなりたかった者。

 幼い頃から家のためにかわいくお淑やかで、黒木家にふさわしい女の子になってねあやめちゃん。と言われて育ってきた僕だったけど、内心はかわいいもお淑やかも息苦しかった。

 あやめちゃんと呼ばれるのも嫌だった、だってかっこよくないし。

 そう、僕は幼い頃からかっこいいと美しいが好きだったんだ。そしてずっと、あの絵本に出てくる王子の様な、かっこいいプリンスに憧れた。

 ずっとずっと憧れて、今やっと家の事とか全部投げ出して自由を手にし、プリンスになるべく長い髪も切り、ヒョロかった体も見た目からでは女を感じさせないくらいには鍛えた。

 そうさ、僕は今やっと青薔薇のプリンスになれているのさ。

(まだまだ至らないところはあるけれどね)

 僕はプリンスになって大好きなプリンセスの近くに居て守りたいと思っている。同性だからこそ、プリンセスの気持ちをどのプリンスよりも理解して、大切なプリンセス達を守りたい。

 あ、だからって男になりたいわけではないよ? 僕は男が大嫌いだからね。


「てかさ、なんで青薔薇だよ、普通の薔薇じゃダメだったのかよ」

「名前も黒だし、見た目からしても黒薔薇かとおもってたよ」

「僕は青が好きだからね」

「それだけかよ」

「あとは……」


 こんなこと言ったら馬鹿にされるかもしれない、という考えが頭をよぎる。でも二人は大切なプリンセスであり、僕の大切な友達だから、話したいな。


「あとは、幼い頃から読んでいた絵本に、青薔薇の王子が出てくるんだ。僕はその王子が大好きでね、憧れているんだよ」

「へぇーマジかよ、気になる」

「そりゃ初耳だね、その本学校にもあるかな?」


(あれ?)

 二人共当たり前のように受け入れてくれた。

 馬鹿にしないし笑わない、むしろ興味を示してくれている。

(嬉しいなぁ)


              ***


 放課後、僕達は図書室へと足を運び、絵本を探すことにした。


「本好きなゆいらが知らねえんだからマイナーなのかな」

「私絵本はそんな読んでないから、これから色んな絵本読んでみようかな」

「な、なんか僕だけがこの歳になっても尚絵本読んでるみたいで恥ずかしいんだけど」

「まずくろきが絵本読んでてそれを未だに好きな事に驚いたぜ。マンガとかアニメも見ないお前がまさか絵本の王子が好きとはな」

「あ、これ? くろきさん」

「あ、うん。それだよ」


 家以外でこの本を見るのはなんだかおかしな気分だ、学校にあったんだ。見慣れた表紙に顔がほころぶ、早く読みたい。


「読もうぜ」

「うん」


 絵本と言っても話が長いので子供向けではないのかとは思う。

 どんなストーリかというと、ある国に青薔薇の王子がいる。

 世界には花の国がたくさんあって、国にはそれぞれ花が咲いているんだけど、一つの国に花は一種類しか咲いていない。

 自分の国の花が皆一番美しいと思い、他国の花なんて何の価値もないと皆思っている。

 そんな中で彼は自分の国の花がこんなにも美しいのだから、他国の花も美しい花なんだろうと思い、見てみたいと願う。

 そしてなんやかんやあってアイリスの国に彼は行き、アイリスを目にする。

 なんて美しい花なんだろうと感動して、一つの国に一つだけの花なんてこと言わずに、世界を様々な美しい花で満たしたい、花の美しさを皆で分かち合いたいと思って、アイリスの国と話をする。

 しかし皆は自分の国の花が一番だと思っているから、彼は世界を乱す悪だと思われ処刑されそうになる。

 そんな時、アイリスの姫がやってきて彼の王冠についている花を見ると、なんて美しい花なんでしょう、その花の事をもっと知りたいです。

 と、彼と意気投合する。

 そんな中青薔薇の民が彼を探しに来る。

 そしてアイリスの民が彼を誘拐したと思い戦おうとする、アイリスの民は彼がアイリスの国を滅ぼしに来たのだと思い戦おうとする。

 このままでは戦争が起きてしまう、どうにか戦いを止めようとする彼と姫は、お互いの花をお互いが身につけて皆の前で歌い踊って見せた。

 それぞれしか美しくないと思っていた民は、王子と姫が共に手を取り合い踊る姿を見て美しいと思う。

 そして青薔薇の民は、彼がアイリスを身につけても尚美しいのは、アイリスが美しい花だからと気づき、アイリスの民は、姫が青薔薇を身につけても尚美しいと思うのは、青薔薇が美しい花だからと気づく。

 こうしてお互いを理解し合い、共に世界中に花の美しさを広めようと手を取り合うのである。

 それぞれの花を、世界を認める証に、彼はアイリスの花にキスを、姫は青薔薇にキスを送り合うシーンでこの本は終わる。


「絵本にしては長いね」

「そうだね」

「子供の頃に読んでわかるのかよ内容」

「おばあちゃんにわかるまで何回も聞いたさ、暗記するくらいには」

「くろきさんはこの本が本当に大好きなんだね」

「はは、うん。大好きさ」

「なんでこの王子に憧れてんだ? 男だぞこいつ」

「彼は男か女かの記載がない。でも、男だろうが女だろうが上からの物言いをしない。女を馬鹿にしたりしない。民を愛し、皆に手を差し伸べられる。自分の意見をしっかり持てて、自信もある。そしてすべての花は美しく特別だと愛している。その姿、憧れるよ」


 そう、彼は素敵だ。優しくて、かっこよくて、美しくて……。


「お前がそんなに褒めるなんて珍しい」

「彼は素敵だ。素敵な王子様」

「この人がくろきさんの王子様なんだね」

「え? うん。彼は理想の王子」

「お前の王子様かー、お前恋できたんだな! 女の子なんだなお前も」

「なっ⁉ Non! 恋じゃないだろ。憧れているんだ、僕は彼を尊敬しているんだ!」


 そんなわけないだろ、なに言ってるんだと思って、でも彼の事を考えると幸せで……かっこいいと思って……ああ、なんかとても恥ずかしいよ。そんな事言われたら気にするじゃないか。


「えー? 恋だって絶対。なあゆいら」

「さあ、それは私にはわからない。くろきさんの気持ち次第。でも、くろきさんにとっての王子様なんだーって思ったから恋してるのかな? とは思った」

「ゆいらちゃんまで……そもそも恋、って、何? どんな、感情なんだぃ?」

「大切でずっと一緒にいたい、とか?」

「その人と一緒の時間、むしろその人を考えるだけで幸せだー。とか?」

「それが……恋? そしたら僕はゆいらちゃんとまきに恋している事になるな」

「それは友情だろ」

「?」


 その後も色々話したが、結局恋とは何かはわからなかった。

 恋じゃない。僕が誰かに恋するはずが無い。

 その考えが頭でずっとぐるぐるしている。

 家に帰って絵本を見ながらごろごろして彼と目が合った瞬間に、まきに言われた言葉が思い出され、急に恥ずかしくなった。


「だっ! だから、恋じゃない……」


 絵本を閉じて目をつぶったらいつの間にか意識が飛んだ。


              ***


「やあ、僕は青薔薇の王子。見ない顔だね? 君も青薔薇が好きなの?」

「え、あ、あぁ。僕は青薔薇が大好きなんだ」

「あはは、嬉しいな。ありがとうプリンセス、青薔薇を好きでいてくれて」

「なっ⁉︎ Non、僕はプリンセスじゃない。青薔薇の、青薔薇のプリンスだ!」

「後ろから見た時にプリンスかなって思ったのだけど、顔を見てわかったよ。君はプリンセスだってね」

「僕は麗しき青薔薇のプリンス。大切な全てのプリンセスを守るプリンス。同性であるからこそプリンセスの気持ちを一番に理解し守れるプリンスなんだ」

「それは、失礼な事を言ったね。そうか、君の思い、かっこいいよ。うん、君は素敵なプリンスなんだね。では、改めてよろしくね。麗しき青薔薇のプリンスさん」


 彼がすぐに僕の事を認めてくれたのが嬉しかった。

 流石だと思った。


「君の国の青薔薇も美しい。薄い色だね」

「そうだね。シルバーブルーだ」

「シルバーブルー、美しい。素敵だね」

「ああ、青薔薇は美しい。でも青薔薇だけじゃない、花はみんな特別。どの花も皆美しい」

「ふふ、僕もそう思う。こうして素敵な青薔薇のプリンスさんと巡り合えたし、今日も花達のおかげで、僕は幸せだ。ありがとう花達。そして青薔薇のプリンスさん、出会ってくれてありがとう」


 そう言って彼は僕に美しくもかっこいい笑顔を向け、僕の手を両手で包み握った。

 ドキリとした。

 なにを言ってるんだ、かっこいいって、君の方がずっとかっこいい。素敵って、君の方がずっと素敵。僕だって今幸せだ。胸が熱くなって、何か息苦しくて、悲しくもないのに涙が目にたまるのがわかる。

 あれ? どうしたんだ。

 なんでこんなに苦しくて、泣きたくなるんだろう。

 握られた手、嫌な気分にならない。触れられた手が熱くて、体に熱が広がる。急いで離れたいんだけど、でも、手に力が入らない。涙が耐えられない、溢れそうになる。急いで俯いた。なんだこれ、かっこ悪い。僕はプリンスなのに。


「僕 」

「どうしたの?」

「いかなくちゃ」


 涙が目から溢れた瞬間に手を振りほどき、涙を拭った。

 情けない、こんな姿、見られたくない。

 僕はプリンスなのに。

 拭っても涙が止まらない。恥ずかしさは紛れない。

 いつもは彼を見ると、彼を思うと嬉しい気持ちになるのに、どうして今彼を思うとこんなに幸せなのに、苦しいのか。


「泣いているのかぃ?」

「――ここの、ここの花々が、ね……美しくて、ね。ここに、いたいよ……でも、行かなくちゃ」

「そうか、そうだね。君は世界中の花が美しいと思い、世界中の花を愛するプリンスだから、全世界の花をみようと世界中を旅してたりするのかな? そんな中で、ここ、青薔薇の国を見つけて、足を運んでくれて、青薔薇を素敵だと言ってくれて、ありがとう」

「僕の、方こそ……ありがとう。ずっと、ずっと……会いたかったから。君と、君と言葉を交わせて……良かった」


 俯く僕、その頬に彼はそっと触れ、僕の顔をじっと見つめた。近くに彼の顔、目が離せない。

 透き通る青色の瞳、綺麗な白い髪、白い肌。

 ああ、やっぱり全てが美しい。

 見た目も、心も、振る舞いも。


「君のこと忘れない、君の言葉も、君の思いも、君の顔も。今この目に、心に焼き付けておいたよ」

「あ」

「?」

「顔は、やめてくれ。今、とても酷い顔してるだろ僕」

「化粧してたんだね? かわいい青薔薇のプリンセス」


 かわいい、プリンセ……なっ、くっ、ああ、もう。


「僕は、プリンスだ」


 その台詞とともにぱっと目が開いた。

 急に目が覚めて、でも気持ちは夢の中と同じ。

 溢れる涙を両手で拭いそのまま顔を覆った。大きなため息がこぼれる。

 彼が大好きなのに、どうしてこんな苦しくて泣いてしまうのかがわからない。

 嫌いになった? 触れられたのがそんなにやだったのかな? と思ったけど、嫌気はなかったんだ。

 じゃあなんだっていうんだ、誰か教えてくれ。


「あ」


 はっとして、こんなこと前にもあったなと思い出した。

 あの時、あの時もなんで泣いたのかわからなかったんだ。

 僕があやめちゃんをやめて、おばあちゃんに髪を切ってもらって、兄にトータルコーディネートをしてもらって鏡を見た時、僕はその場で泣き喚いた。美しくて、かっこよくて、素晴らしいと思って、やっとプリンスになれたと幸せな気持ちだったのに、涙が溢れて止まらなかった。


「……感動の、涙か?」


 涙とは嫌な涙だけではない事をまた知れて、僕はとても満足した。

読んでくださりありがとうございます。

よろしければブックマークや評価や感想やいいね等お願いします。

次回もお楽しみに。

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