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2.アルスタイン国

 

 太平洋の島国であるアルスタイン国は魔法発祥の地と呼ばれている。


 勇者が建国したと言われており、今も王がトップとして国を治めている。


 由緒正しき王国であるが、この現代においては街にビルが建ち車が走るなど科学技術との融和が進んでいる。


 社会も権利強化が訴えられ、平等な生活と平等な学習と平等な政治参加が国民に与えられている。


 しかし、人々の中に古来から根付く深層心理は中々枯れてはいなかった。


「なんか夕方、バラックで乱闘があったらしいぞ」

「マジ?やっぱり紋章付きってヤバいよね」


 街を歩くカップルがバラック街で起きた騒ぎを口にしている。


 二人は内容を詳しく知らないというのに、紋章付きが悪いかのような口ぶりをしている。


 紋章付きに対する印象が悪い。これはカップルだけでなく、この国全体の問題だ。


 紋章付きというだけで不当に捕獲され処刑されるという悲しき時代がある程、彼等の歴史は迫害の歴史である。


 ようやく現代となり、紋章付きに平等の権利を国が保証したが、差別は既に人々の根底に根付き手遅れとなっている。


 カップルの心無い言葉を耳にしたアスラは、憂いを帯びた表情を浮かべている。そこには諦めの感情も混ざっている。


「おっ、王室の広報映像だぞ」


 彼氏がニュースモニターに映る映像に気が移る。

 アスラもそれにつられモニターを凝視した。モニターを見る表情は先程の哀の感情とはまた違ったものとなっていた。


『リュウミン王妃は被災された村へお見舞いの訪問をされ、支援物資の配給を手伝われました』


 リュウミン王妃。


 誰もが美しいと口を揃えて称賛する、天ノ川の様な黒髪が魅力の東洋美女。

 凛としたクールな印象と慈愛の深さで国民からの人気が高い。


 アルスタイン国の王妃だ。


『王妃殿下は被災された人々の言葉に耳を傾け、凛としつつも慈愛の溢れた言葉をおかけになりました。配給にも汗を流しつつ尽力されています。王妃殿下のお言葉です』


『各地で起こるダンジョン出現による災害で被災された方々に哀悼の意を表します。ダンジョンに関してはまだ謎の多い部分が多く根本的解決には時間が要します……しかし私は信じております、アルスタインの民の強さを。王室は皆様と共にあります。この難局を一丸となって乗り切れることを私は確信しています』


「やっぱり王妃は若くて美人で……何より胸がデケェな!眼福だぜ!」

「あんた……近衛に突き出すよ!」

「イテテテ!悪かった!お前が一番だよ!」


 王妃に鼻の下を伸ばす彼氏に怒り、彼女は耳を引っ張り引きずり歩く。


 そんな彼女よりも怒りの表情を浮かべている男がいた。


 アスラだ。


「王妃殿下のお気持ちに耳を貸さないで……下劣な目ばかり。腹立たしいな」


 美貌とスタイルばかりに目が行くアルスタイン市民に常々怒りを覚えている。


 彼はリュウミン王妃を敬愛している。


 彼女の心意気に感銘を受けている。


 しかし、それだけではない。


 彼の昔の体験によるものが大きい。


 幼少の頃にまで遡る。

 彼は思い出す度に、胸に心地よい熱さを感じている。

 一度だけ、一度だけ語らえた。


 きっと本人は覚えてはいない。


 でも、アスラにとっては人生で一番影響を与えられた一時。


 彼女から貰った暖かな言葉、その熱を糧に紋章付きで天涯孤独な境遇を物ともせず生きてこられた。


 必要ならば多少の危険はいとわない、使えるものは全部使う。


 きっと二度と会える事はないだろうが、アスラは王妃に恥じない男になろうと誓った。


 その彼の覚悟はとある界隈で一時代を築こうとしていた。


「さて、そろそろいくか」


 そろそろ夜が老け込む時間。


 彼は走る。森の奥へと風のように。

 処々に立入禁止のバリケードや鎖が張り巡らされていたが飛び越えてゆく。


 そして、彼が立ち止まった。


 その目線の先。そこには大きな岩山が。横穴が空いている、洞窟だ。

 周りの木々が生い茂る環境に、ごつごつとした岩山が不自然にそびえ立っている。


「さて……お金取られちゃったから頑張んなきゃ」


 そう言って、彼はポケットからある物を取り出す。

 握られていたのは、ドラゴンの顔が書かれたマスクだった。


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