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1. 出会いと始まり

彼女の名前はリーシャ・ジョンストン。

フレア王国の公爵令嬢として生を受けたが、以前は平凡な会社員生活を送っていた転生者だったりする。

この世界での私は幼い頃から何度も攫われ、そのうち命まで奪われるのではないかと心配した父によってリュートという名で10年間"男性"として育てられてきた。

何故、女性だと気づかれないかと言えば、この世界の上流階級の男性が容姿端麗で中性的な顔立ちをしているからだろう。

切れ長の瞳と薄い唇。

男性向けのショートヘアにしていればどちらか判断に困る。

そして、気付かれては意味がないと礼儀作法はもちろん剣術や馬術等男性に必要とされるものは全て叩き込まれたのだ。

自衛のためでもあるが、15歳になった彼女の剣術は既に師範を優に超え、並大抵の者では勝つことができない程の腕前で。

新入生実技試験でもトップの成績を修めていた。

努力した日々を思い出して満足行く結果にほっとしながらシャワールームに移動していると聞こえてきた声に歩みを止める。


「どうしてですか!?いきなり婚約破棄するなんて…わたくしは、ずっと貴方をお慕いして…。」


「そういう重たい感じ、迷惑なんだよね。俺は君みたいなのが一番嫌いだ。」


冷たく言い放った言葉に女性は泣き出してしまったようだ。

理由はどうあれ、他にも言い方があるだろう。

顔だけでも覚えておこうと移動すると視線が合ってしまった。


「覗き見なんて趣味が悪いな。」


「女性を泣かせるような方に言われたくありませんよ。」


「俺の勝手だ。」


「随分と最低な言い草ですね。大丈夫ですか?」


座り込んでいた女性に声を掛けると顔が上がっていく。

色素の薄い茶色の髪に紫色の瞳。

容姿端麗な彼女の何処が気に入らないというのだろうか。

こんな綺麗な女性に慕われるなんて同性の私でも羨ましいと思いながら、労るように支えればやっとこちらに視線を向けてくれたようだ。

軽く笑みを返しながらハンカチを渡してみると彼女の頬が赤く染まっていく。

泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのかと自らの配慮不足を反省していると背中に感じた鋭い殺気。

私の行動は彼の機嫌を損ねるには十分だったようで。

軽くため息をこぼす。


「喧嘩を売るつもりなら買うぞ。」


「そんなつもりはないですよ。ただ、同性として少し気になっただけです。」


「それが喧嘩売ってるっていうんだろ。いいよ、相手してやる。」


「僕の話、聞いてました?」


そう問いかけてみてもやる気満々のようで、いつの間にか剣を手にしている。

彼も試験を受けたのかと納得しながら仕方なく剣を構えた。

この世界での男性は試合を申し込まれたら受けるのが習わしで拒否権など与えられていない。

もし、断りでもすれば弱虫というレッテルが後世にまで続くといわれ。

負けることが前提であっても受けて立つ。

それが男としてあるべき姿だと教わってきた。

今回に関しては自ら首を突っ込んだだけに仕方ないと彼を見据えれば、一瞬で目の前にまで迫ってくる。

受け止めた強い斬撃に腕の痺れを感じ、何度も受けるのは無理だとすぐ理解した。


「っ。」


「こんなので辛いなら俺の本気で腕が折れるんじゃない?」


余裕そうにニヤニヤと笑みを浮かべている彼に呆れながら次の斬撃を手から絡め取るように受け流せば、剣が宙を舞い彼の後ろに刺さる。


「っ!? 」


「勝負ありですよね。シャワーを浴びたいので僕はこれで。」


驚いた表情を見せる令嬢に軽く会釈してから当初の目的であるシャワールームに向かって歩き出した。

王子や王女はもちろん、子息令嬢達が通うこの学園では個室のシャワールームが完備されており、鍵を閉めておけば男性用に入っていても誰かが来る心配はない。

鍵をかけたことを確認してから汗ばんだ制服を脱いでいった。

しっかりと巻かれた更紙を外せば、綺麗なバストが目に入る。

大きくはないとはいえ、形の整ったそれは容姿端麗な女性に転生できてよかったと思える理由の一つだ。

紺色のウィッグを外せば、特徴的な紅い長髪が現れ。

これも男装だと気付かれないようにする手段の一つで、生徒以外の学園に関わる全ての人が協力してくれている事でこの生活が成り立っていく。

感謝しないといけないな。

そんなことを考えながらほんのり薔薇の香る石鹸で身体を丁寧に洗い、備え付けのシャンプーとリンスで髪を綺麗に洗い流していった。

シャワーを浴び終え、準備されていた新しい制服に着替えてから髪を乾かしていく。

ウィッグは少し湿らせておこう。

更紙を巻き直したりと時間の掛かる作業を終え、1時間程で個室を出ると腕を組んだ青年が見える。

見覚えのあるその姿に何か用かと視線を向ければ、彼が口を開いた。


「…お前、名前は?」


「リュート・ルースベルです。」


「俺はエドワード・クロスティアだ。」


「どうも。」


「他国出身?」


「そうですが、何か?」


「いや、ここで俺を知らない奴なんて居ないからさ。ちょっと気になったんだ。」


「そうですか。では急ぎますのでこれで…。」


「おい、逃げるなよ!」


彼の言葉に聞こえないふりを決め込んで足早に去れば、追いかけてくることはなく、ほっとする。

なんとも厄介な人物に関わってしまったものだ。

さっさと寮に戻ってしまおう。

割り当てられた部屋は2階にあるというが、同じような作りの扉ばかりだ。

ネームプレートを見ながら移動すると、角の部屋に名前を見つける。

二人部屋と聞いていたが、プレートがないところを見ると空きなのだろうか。

それなら一安心だ。

扉を開けると広々としたリビング。

右側には大理石で出来たバスルームがあり、冷蔵庫や簡易キッチンは専属侍女を連れてきた人のためだろう。

左側にはベッドに続く扉が2つ。

リビングやバスルームは共用だが、ちゃんとプライベートは確保されているらしい。

窓側の扉を開けるとすでに荷物が運び込まれており、お気に入りの抱き枕がキングサイズベッドに置かれていた。

私服や制服もこの部屋の中にあるウォークインクローゼットに綺麗にしまわれている。

学園内にも従事する侍女や従者達が居るため、食事は勿論。

掃除、洗濯も彼らによって行われるという。

流石の好待遇に居心地の悪さを感じながら疲れたという身体をベッドに沈めていく。

少し痛む掌を見ると一度受けただけの斬撃によってマメができたようだ。

試合で無ければ負けていただけに、あの態度も頷けると関心しながら目を閉じるとやってきた眠気に逆らうことなく意識を沈めるのだった。

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