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p.04 妖精さんはいい匂いがしました

 街外れの森の奥深く、木々の小径を抜けた先にその家はある。雪を纏ったかのように白く輝く木に囲まれたその家は、小屋というよりも礼拝所のようであった。

 玄関アプローチにぺたりと座り込んでいるのは、家の主である魔女だ。普段着の簡素な薄墨色のワンピースの上に同色のニットカーディガンとガウンをもこもこ羽織り、ご機嫌で鼻歌を披露している。

 魔女は、乾燥させた、しかし鮮やかな色を残した花を露店のように並べ、こしょこしょと(くすぐ)っては華やかな笑いを誘い、その香りを集めた。

「ほらほら、あんまり地べたに座ってはいけないよ。冷えてしまうだろう?」

 作業に勤しむ魔女に降り注いだのは、花の蜜を垂らした氷のような、甘やかでありながらも凄絶な鋭さを孕んだ声。ともすれば拒絶だと受け取ってしまいそうな声だが、今はただ、魔女に対する親愛の響きだけがあった。

 そんな声をかけられた魔女は、ふふっと微笑みながら家のほうを振り返る。

「すぐに終わるから、大丈夫よ。それにほら、このガウンには火の精が育てた綿が入っているのだもの。ほかほかして、むしろ暑いくらいだわ」

「それでも、だよ。もう帰っておいで」

「……この作業は、あなたの中ではできないのよ」

 あまり世間に知られていないことではあるが、魔女の住む家というのはたいてい喋る。

 一般的なところでは、長命の魔女が同じ家に長く住むことで魂が宿ったり、魔法で家を建てる際ついでに魂を吹き込んだり、といったものだ。この森の魔女の場合は、なぜか不動産から引き渡された瞬間から喋るようになり、それどころか他所へ引っ越してもついてくるものだから、これはもう懐かれたなと魔女は放置していた。

(なんだか不満そう。そろそろ指導が必要かしら)

 一人暮らしの魔女にとってはよき話し相手であることも確かだが、とはいえ、作業の邪魔をするのはいただけない。こういう時は厳しい姿勢を見せることも大事なのだ。

「そんなに心配なら、こうするわ」

「……っ! ちょ、ちょっと、外でやるには大胆すぎるのではないかな……」

「なにを言っているのかわからないけれど、それよりほら、いい匂いがすると思わない?」

「君はいつもいい匂いがするよ」

 見当外れな回答を寄越す家。魔女は、言いたいのはそういうことではないのだと首を振る。

「このメッセージカードを売っているお店にはね、うちみたいにたくさんの香草があったのだけど、すっごく優しい香りがしていたのよ」

 人をもてなすのであれば、必要なのはきっと、あのような余白だ。そこにある物語を想像させ、その先を期待させるような。

 しかしこの家にはそんな情緒の欠片もないらしい。そう理解した魔女は、直接聞いてみることにした。

『魔術師さんは、どのような香りがお好みでしょうか? やはり花束のような、優雅で華やかな香りがお好きですか? せっかくおもてなしをするのですから、参考にしたいなと思いまして……。ええ、ペーパーショップの妖精さんはいい匂いがしました。ふふっ、そんな彼女に憧れてしまったのは秘密ですよ!』

 書き上げたカードを台紙に挟むと、妖精の魔法が動いて光る。あの店主の羽と同じ若草色の光は、夜空の柄に淡く馴染んだ。

「……彼の好みに合わせる必要はないんじゃないかな」

 面白くなさそうな家の言葉に、魔女はわけあり顔でふふんと笑う。

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