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p.03 毎日書かなければ勿体ない気がしてしまうのです

 昨日今日で揃えた道具や素材を念入りに確認し、魔術師はようやくひと息つけるぞと煙草を取り出した。

 魔術の使用には、まず場を整えることから始めなければいけない。時と場所を選び、言葉を重ね、無限にも思える道筋の中から結果に繋がる道だけを掴み取るのが魔術だ。そのために必要なものであれば、魔術師はなんだってしてきた。この煙草も、嗜好品ではあるが、重要なのは魔術の道を敷くための楔だということ。初めは嫌悪感を抱いていた材料もそのうち気にならなくなった。

 ふわりと吐き出した煙の、紫がかった色を見つめる。時折ぱかりと光るのは煙草の材料となった《《なにか》》の瞳だが、魔術師と目が合うたびにぴゃっと怯えて逃げていく。

 ほどよく甘くほどよく苦い複雑な味は、肺から染みるようにして逆に思考を明瞭にするものだ。

 厄介な契約をしてしまったとは思う。

(だが、あのまま戦いを続けていれば、共倒れの可能性もあったからな)

 いつもの暇潰しに裏の住人で遊んでいたところを、あの森の魔女に邪魔されたのだ。ただの暇潰しなのだから、常であればまあいいかと放り出せる程度のもの。しかし魔術師は魔女と対決することを選んだ。

「ご主人サマ。珈琲、できタ」

「……ああ」

 魔術で動く人形からカップを受け取り、口をつける。無意識にひそめた眉は、自分で淹れたほうが美味しいと思うからだ。けれどもそうしないのは、ひとえにこの時間が魔術の要素を含んでいるから。

(素晴らしいおもてなしをしたほうが勝ち。勝敗を決めるのは自分たち。……ならば、あいつの紡ぐ祝祭の物語をこちらが上回り、「負けた」と言わせるしかないな)

 そのための道筋はすでに決めてあった。夜の魔術師の名は伊達ではない。祝祭という街全体が浮わつく日を舞台とするなら、正攻法でも、奇策でも戦える分野なのだ。

 ふと、視界の端でろうそくの火がちらついた。

 それは昨日購入した香草のメッセージカード。狙った相手に道を繋ぐのであれば、こうして直接言葉を送ることのできるメッセージカードが最適である。

 魔術師が生まれた頃にはすでに大陸中に名を馳せていたのがあの魔女なのだ。森を味方にし、森を支配する力を持つ魔女。自身の夜と悪意であれば相性はいいはずなのに、互角より先には進めない、進ませてくれない魔女。

「メッセージ、届いタ」

「知ってる」

 魔術師に自損の趣味はない。自身の安全が大前提で、愉快な物語を紡ぐのが面白いのだから。

(それでも……)

 表紙に描かれた燭台にはゆらりと火が灯り、新しく魔女からのメッセージが届いたことを知らせている。中のカードを取り出せば、魔法で書いたのであろう、金色に揺らめく端正な文字が並んでいた。

『魔術師さん、本日もメッセージを書いてみました。限定ものなので毎日書かなければ勿体ない気がしてしまうのです。……ただ、素敵なカードを使うことができてわたくしは楽しいのですが、ご迷惑ではありませんか? お返事は気が向いた時だけで構いませんから、どうかご無理はなさらず』

(……限定ものに対する感情が間違ってるだろ…………)

 それでも、この暢気で偉大な魔女を壊すことができたのなら、さぞ愉快な物語になるだろうなと、そう、魔術師は思うのであった。

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