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第三十八話 光り輝く例のアレ


 「あぁ、アノア様。お帰りになられておいででしたか…」


 待ちかねた人物に会えた拍子にソファーから軽く腰が浮く。


 「セバスさんッ!俺がいない間に色々あったみたいだな…。東西の門は閉まっているみたいだし。早速で悪いけど何があったか話を聞かせて貰える?」


 「はい。ですがまずはアノア様にはこれを…」


 セバスさんから手渡されたのはこのファンタジーの世界では見慣れないものであった。


 「これは…、マスク?」


 「はい」


 しかもただのマスクではない。

 布マスクくらいであればこの世界の技術で十分模倣可能であるがこれは明らかに違う。


 ガッチリしたフォルムは見るからに進んだ文明を思わせる。

 合成樹脂で出来たそれはいわゆる微粒子マスクと呼べるものであった。


 「こんなもの一体どこで?」


 「そんなことはいいですから。早くつけないと死んでしまいますよ?」


 「え」


 そんな脅さないでよ…。

 まぁ形は少し違うとはいえ俺には比較的馴染み深いアイテムである。

 いそいそとそれで口を覆い隠す。

 

 ちなみにセバスさんも同じやつを身に着けていた。


 「ねぇ、私の分は無いのかしら?」


 不意に隣のソファーで座っていた灰色の不審者が声を発する。


 「アノア様?こちらは?」


 「あーえっと」


 「私は…」


 「友達だよ友達。ちょっと訳あって顔を見られるとまずいんだ。気にしないで」


 「はぁ、そもそもこの品物は2つしか持っていませんでしたので…」


 後ろから負のオーラが漏れ出るの感じる。

 

 ちょ、落ち着けって。

 お前強いんだから魔力パワーでなんやかんやできるだろう…多分。

 それか自己紹介を何度も遮ってることに怒ってんのかこいつ?


 「貰えるものはもらったし話を聞かせてもらえる?ほらほら座って」


 とりあえずここは話を切り替えるに限る。


 「はい、早速で恐縮なのですが今回何故ここまでの苦境に陥ってしまったかのあらましについてお話ししたいと思います。事が起こったのはちょうど2週間は前のことでしょうか」


 それはセバスが腰を下ろすと同時に始まった。


 「あれは昼の14時を過ぎた辺りでしょうか?いつものように私とレオノラ様は執務に従事しておりましたところ、凄まじい轟音と地響きが央都に起こりました」


 「何が起こったのかを確認しようと執務室の外に出たのも束の間、再度の凄まじい物音。建物が軋む音と共に天地がひっくり返るかのような衝撃が領館を襲い、気づいたときには大きい柱のようなものが1本、建物の中央に深々と刺さっていたのです。」


 「館内はそれはもう、誰しもが狂乱状態で我先に出口へと向かう始末。今思えば1階へと降りる階段や正面玄関などは渋滞してしまい、却って避難には非効率になってしまっていたのでしょうね。これも領内は安全であると私を含めて全員が高を括っていたせいでもあります。その隙を敵に狙われたわけです。」


 「その緑色の物体はしばらくして紫の煙を噴出し始め、その煙を吸い込んだ者はすぐさま倒れていきました。私とレオノラ様だけではどうすることもできず、遂にはレオノラ様までもが巻き添えに…」


 「…え?それじゃあ今レオノラさんは?」


 「はい…。ご自分のベッドにて昏睡状態であります。私がついていながら全く申し訳ございません」


 (…は?)


 俺は軽く眩暈を覚えてソファーにへたり込んでしまう。

 それと同時に、何となく去来していた嫌な予感の正体はこれだったのかと思い至る。


 「い…、今すぐ行かないと…」


 「ちょっと、お待ちなさって」


 「なんでっ!?」


 思わず、語気が荒くなってしまう。


 「あなたがたが今その口に着けているものを常時外せない程、状況は逼迫しているのではなくて?少しは頭を使って考えてみては?私はもう少しこの方のお話を聞きたいのだけれど」


 「なっ!?」


 もっともである彼女の言うことに思わず言葉が詰まり、口をもごもごとさせながら冷静になる。


 「ふぅ…。セバスさん続きを」


 「はい。なんとか気絶してしまったレオノラ様に肩を貸しながら、馬車にのせて、私達は一旦この屋敷まで戻ってきました。奥様をマルガレットに預けてとんぼ返りで領事館前まで戻ってくると余剰の警備隊をかき集めて、今回の事件の調査に乗り出し始めたのです。」


 「私が戻ったときには既に煙は霧散していました。すぐさま生存者がいるかの確認をしに少数の警備と共に中へ侵入したのです。これはその時に分かったのですが、どうやらその巨柱は周囲で動いてる人間に機械的に反応して蠢き、毒性を持った煙を放出する挙動を見せました。」


 「それを頭に入れつつ陣頭指揮を取っていたのですが、倒れている方は軒並み息を引き取っている者ばかりで…。息がありそうなものもまるで瘴気を放つように紫煙に取り巻かれていてまるで手の施しようがありませんでした。そして、領館2階の中央部。まるで支柱のように立っている緑の敵生命体の一部分が、中から光輝いているのを確認して私は警備隊に撤退を命じました。『あれは刺激してはまずい。』そう考えたからです」


 「戻って来た時は領館は良く見えなかったが、それじゃあ…」


 「はい。幸い最初の事件から直接の被害を被る領民が出てはおりませんが、一応あの区域一帯は閉鎖と監視をしております。そして大勢の領館職員を殺害した元凶は未だ放置したまま、ということになりますな。さらにそれが原因かはわかりませんが、街中で体調不良をを訴える人々が殺到いたしました。それに応じてこの領から一時的に非難をする人が急増したのです。私といたしましても領民の命が最優先ですから、積極的に受け入れ先の町に使い魔や人を飛ばして協力を依頼しました。ヴィデルチェの領民の避難先での安否は確認しておりませんが、今は無事であることを祈るのみです」


 「なるほどなぁ。最低限の正門だけ開けて、他は閉めてたのか。町から人がいなくなっていたのもこれで納得がいったぞ。領内の現況報告ありがとう。色々大変だったな」


 「いえいえ、これもヴィデルチェの為。拾っていただいたアーサー様の為でございます」


 「そして問題の奥様ですが、未だ目を覚ましておらず。私と致しましても執務のかたわら手を尽くしてはいるのですが、どんどん具合が悪くなる一方でして、恐らくこのままですと私が考えるに…」


 「死ぬ…、か」


 「はい。領館で倒れていたもの同様、いつ体中から紫煙が出て私達が近づけなくなるのかもおかしくはないかと愚考します」


 「そう…、か。よし!差し当たっては病状を見ておきたい。レオノラさんの部屋に行ってもいいか?」


 「是非そうしてください。」


 善は急げと言うし、今の俺には領がこんな困難に見舞われているというのにじっとしているという選択肢はなかった。


 「全くこんな時にお父さんはなにやってるんだか…」


 「あら、アーサーを悪く言うのはよして」


 スッと俺や扉前のセバスさんをフード付きローブがすり抜け、ドアが少し開く音がした。


 「彼も色々と忙しいの、ここに構っている暇はないということよ。それに今回は代わりに私がいる。ほら早く行くんでしょ?ついでにちゃちゃっと問題を解決しちゃいますわよ」


 思わず俺達は呆気に取られてしまう。


 つーか自分の領だぞ?構っている暇はないってことはないだろ。

 一言余計なんだっつーの。


 俺は苛立ちを覚えつつも、虚勢を張っていた自分に一人ではないと暗に教えてくれたのではないか?

 そう感じ、彼女を信用しても良いのではないか?

 そう思い始めていたのもまた事実であった。

 


 

 



テーンテテンテン テンテン テーン

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