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第三十七話 俺はお前のお姉ちゃんだからな

 

 壁をぐるりと周り、やってきたのは町の外れに位置する俺の実家だ。


 古びた洋館のような作りになっている我が家は庭師を雇っていたり、央都からそれなりに離れているだけあって敷地もそれなりにある。

 

 つっても正門の前から自分の家が確認できるほどなので、元の世界の海外セレブのお家やこの世界の貴族なんかと照らし合わせると見劣りしてしまうこと請け合いであるが。


 その正門に灰色のローブに身を包んだ不審人物がうちをジッと覗いているのである。


 俺達は敷地の角からその光景を顔を出して観察している形だ。

 はてさてどうしたものか…。


 「そもそもあれだけ怪しかったらジローさんが気付いて何らかの対処をしてくれると思うんだけど…。どこ行っちゃったのかな?」


 うちの庭師であるジローさんには門を戸締まりしていない昼の間は来客の取り次ぎや警備なんかも一緒にやってもらっている。

 まぁ自分ちの庭の手入れだけじゃ手持ち無沙汰になるだろうからね。


 本来なら来客室に入れるか、追い払うかしてくれそうなハズだが。


 「おい、いかんのか?」


 「えー、なんか怖いし先に行って誰だか聞いて来てくださいよ師匠ー」


 「人使い荒いなこいつ…まぁええか」


 俺の上から同じく顔だけを突き出していたけむくじゃらの男に仕事を依頼する。


 すまんなドンダスさん。

 腐っても俺は貴族だから人を顎で動かす技術には長けているんだ。


 ずんぐりむっくりした体をノシッノシッと揺らして堂々と眼前の怪しい奴に相対する。


 「おい、おまん誰じゃ?名を名乗れぃ」


 (うわー、おわったー)


 ファーストコンタクトでそれはないだろう。

 明らかな人選ミスを今更ながらに悔いた。


 しかもここからじゃ、あのやたらでかい図体が邪魔で向こうの様子がわからないし。

 フードのやつはゴニョゴニョ言ってほとんど聞こえない。


 とりあえずここは静観することにするか…。


 「名を名乗るときは自分からじゃと?儂をからかうんじゃない!」


 何が彼の琴線に触れたのか、一瞬で沸点に到達した彼が昭和の教育的指導よろしく拳を振り上げる。

 恐らく不審者の頭に軽く振り下ろされるものであったそれは最上段で動きを止める。


 突如、


 「うびびびびびびびび」


 熊の体が小刻みに振動したかと思うと煙をあげ崩れ落ちる。


 (えっ、ちょ、は?)


 「ドンダスさんっ!?」


 あまりに突然の出来事に状況を忘れて、思わず身を乗り出し自分を主張してしまう。

 そしてそれは灰色の不審者の視線を受けることにより、己のミスであったと気づくがもう遅い。


 意を決して倒れ伏す彼に近づく。


 「おい!無事かっ!?」


 仰向けに横たわるドンダスさんはプスプスと音を立てていた。

 勿論死んではいない。

 あの倒れた時の挙動からして、こいつが彼に何をしたかは想像はつくがここは一旦置いておこう。


 「お前は一体誰なんだ?」


 「はい?あなたもそこに転がっている獣と同じことを言うのですわね?」


 その声ははっきりと少女のものと分かる声音だった。


 「ちっ、俺はアノア。ここヴィデルチェ領の領主アーサー・ヴィデルチェの長男坊だ」


 「あら、貴方がアノアだったのね」


 「そういうあんたは?」

 

 「私?そうですわねー…」


 「私も貴方と同じアーサー・ヴィデルチェの子供といえばいいのかしら?」


 「え…?」


 ちょっとアーサーさん?

 まさかの隠し子ですか…?


 俺は即座に否定をしようとしたが、可能性を鑑みて言葉を飲み込む。

 まだ分からん。

 何せレオノラさんより先に側妻との間に子供を作って爵位継承をややこしくするような人間だ。


 滞在先でまた子供をこさえていてもおかしい話ではないのだ。


 「ともかく、入り方がわからないのだけど?いれてもらえるかしら?」


 「…分かった」


 隙をついたとはいえあのドンダスさんを一瞬でノックアウトさせる実力の持ち主だ。

 入りたかったら無理矢理押し入っていることだろう。

 そう考えつつ、俺は彼女の危険度を一旦下げることにした。


 それにしてもどうやらジローさんはいないようだな…。

 横目で庭先を確認しつつ、勝手知ったる顔で門に併設されている料金所のような小部屋に入り、机の南京錠を開け、緊急用の鍵を取り出してくる。


 「さて、それでは行くとしましょう」


 「…」


 庭を進んで洋館の入口に立ち、ドアの叩き金を鳴らす。

 流石に家には誰がいたようだ。

 直ぐに人の気配がして鍵が開く音がする。


 「アノア様…?」


 「あぁ、ハンナさんか」


 ビクビクとしながら扉を開けて出てきたのは弟の側付きメイドであるハンナさんだ。

 ちなみにオドオドしているのはデフォなので心配は無用である。


 「みんなはいる?」


 「はい…、えーっと…、セバス様はいらっしゃいますかね…」


 「ん?他の皆は?」


 「えーっと…、ジロー様とマイラ様は無期限休暇にさせて頂いております。マルガレット様はマイラ様の付き添いでお休みに、私達もレオノラ様のことで手一杯で…」


 「色々混み入ってそうだな…」


 「とりあえず上がらせてもらえるかしら?」


 隣からずいっとフードが出てくる。


 目深に被りすぎてなのか何か魔法がかかっているのか顔が認識出来ないにも関わらず、声色や語尾が特徴的で若干気持ち悪いことになっているのにこいつは気づいているのだろうか。


 「この方は?」


 「私は…」


 「あー!この人は俺の連れだから気にしないで!」


 「はぁ…」


 お前は喋るな。

 余計話がややこしくなる。


 ちなみに本物の連れは門の前に置いてきた。

 身包み剥がされてないといいが…。


 まぁ自業自得か。

 今後はその喧嘩っ早い性格はなんとかしてほしいんだけど。


 「とりあえず皆様、客間に案内致しますね」


 「あぁ、出来ればセバスを呼んでこの街が今どうなっているのか状況を説明してほしいんだが…」


 「はい、賛成ですわね」


 ん?そういえば…。

 玄関を上がり、一階の客間に入る。 


 「お前はここに何しにきたんだ?」


 「お姉さんですわ」


 「はぁ…、姉貴はここに何しに来たんだ?」


 「アーサーが今手を離せない状況に会ったので私が代わりにここで悪事を働いている魔族を蹴散らしにきたんですの」


 「魔族っ!?」


 「あら、知らなかったんですの?まぁこの続きは後で」


 「後でって…」


 ドアが再び開かれ、ハンナさんが出ていった扉。

 今度はセバスさんが入ってくるのであった。


 

申し訳無いです、インフルになって更新遅れました。

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