第三十五話 風雲は急を告げる為にある
「……は?」
あれから1ヶ月が過ぎた。
季節が過ぎるにつれて、俺を取り巻く環境も変わる。
俺は未だにここオースの地であいも変わらず冒険者稼業をしているが俺をこの道に引きずり込んだ当のエニグマさんはすでにここにはいない。
と言っても見放された訳では無いぞ?
正確には散々お転婆した彼女にお迎えが来たといったところだろう。
何処から彼女の居場所を突き止めたのか分からないが、ほんの数日前に剣のエンブレムを携えた大層な馬車とご対面。
その場で連行、あとはさよならまた二学期で会いましょうだ。
わけも分からずその場に取り残されるこちらの身にもなって欲しいものである。
もう少し能動的に自分の身の上を話してほしいものだ。
人のことは言えんか。
まぁ夏休みに家にも寄らずに見知らぬ土地で冒険者をしていたのだ。
幾ら彼女が実家と何らかの確執があったのだとしても彼女の家は貴族で貴族は貴族なりの世間体というものがある。
エニグマさんは恐らく残りの休みを実家で親戚や懇意にしている貴族とのパーティーや顔合わせに費やされることになるだろう。
もしかしたらその場で許嫁同士で婚約というのも貴族ならあり得なくはないのだ。
まぁそうしたら俺はあくまで抵抗するけどね?
何のために俺は今一人で冒険者してるんだ?って自暴自棄になるから。
そういえば俺も弟のアトスが跡継ぎに正式に決まるまでは一応貴族だったのか。
今の今まで忘れていた。
「おい、どうしたんだ」
「あ、師匠」
場所は冒険者ギルド1階正面の一角、ボードが掲げられていて、ギルドを運営していて入ってくる精度の高い情報をこうしてピックアップして掲載してくれているのだ。
まぁ簡単に言えばニュースだな。
この世界には勿論大商会がそのネットワークを利用した新聞というものが存在するが、あちらは何というか、情報の新鮮さや精密さは一段劣る。
その分、政治情勢やより幅広い地域の情報、そして有名人のゴシップに至るまで、まるで週刊誌のような側面も持ち合わせている。
そして目の前の熊のような茶色の毛むくじゃらの人間。
名前はドンダスさんだ。
彼は元々Bランク冒険者として、各地を回ったいわゆる俺の先輩に当たる方だ。
今は引退後にギルドの組員として高い地位に抜擢される為に日々問題のありそうな初心者のチームやソロにメンターとして割り当てられる役目を務めることで奮闘しているそう。
彼が元いたチームが最近色々あったことで現在は次の問題児が現れるまでは待機中とのことである。
色々あったんだ…。ホントに…。
中身はまた長くなるので言及したくない。
まぁ暇つぶしにサバイバルのイロハや対モンスターとの戦い方、そしてダンジョンのことなどを教えて貰っている。
いわば俺の冒険の先生だと思ってもらって構わない。
「これ…」
「おーん、何々…。ヴィデルチェ領央都に隕石が落下した模様。被害は軽微…か。お前確か出身は?」
「ヴィデルチェです。アノア・ヴィデルチェ」
「んあ?お前、貴族だったのか?」
「そっすね。俺も今気づいたところです」
「…?」
おい、何を言っているんだこいつ?みたいな目で俺を見るな。
「ところで隕石の落下ってなんだ?」
「うーん、なんて言ったらいいんでしょうね…。身を超す程の大きな石を遥か上空から落とすことですね」
「『流星の打撃』みてーなもんか?」
(もんかって言われてもメテオストライクが分かんねーんだが?)
まぁでも、
「多分そうだと思います。」
英語の意味合いを見るに大体あってんだろ。
「でもそうすっと、よく軽微で済んだな」
「確かに…」
彼の想像してる魔法と俺の中の想像が合致しているとは言い切れないが、なるほどそういえば確かにおかしいな。
何故だろう。
何処からか言いしれぬ不安がふつふつと浮き上がっていくのを感じる。
いや、それは勘違いだ。
俺はこの記事から気をそらすことができなかった時点で、その不安は元々心のなかに生まれ出でているものだったのだ。
ただそれを認識しようとしなかっただけで。
帰って確かめたい。
家族同然の館の皆に会って、無事かどうかを聞きたい。
果たしてうちの領の被害はどれくらいだったのか?隕石というのは本当だったのか?
ここで膨らましても無意味な妄想ばかりが、頭をよぎる。
それと同時に、足は自らが泊まる宿へと無意識に向かっていく。
この夏休み中に2度も危険な目にあったのだ。
しかも今は森が騒がしいと聞く。
理由は詳しくは知らない。
天候の影響なり、山奥に棲む龍の動きが活発になったり、憶測は無限に存在するが…。
ここ数日はもっぱらギルドで訓練して、宿に戻る。
その繰り返しである。
勝手知ったる顔で宿にぬるりと滑り込み、階段を上がった一番手前の部屋に入室する。
するといつものようにソイツは現れる。
『キュイキュイー!!』
「あ~今日も妖精さんはかわいいでちゅねー!」
んん、失礼。
この灰色の毛にずんぐりむっくりした体格はウォンバットを連想させるが、何分こいつ手足が退化してまともに歩くことが出来ないようだ。
もはやついてるだけといったほうが正しいだろう。
ラッコの方が見た目としては近いのだろうか…?
いやでもヒレはついていないしな…。
とにかく毛虫のように体をずって歩くこいつは何処から来たのかも不明、何を食べるのかも不明、おまけにしっかり戸締まりしているのにも関わらず神出鬼没というホントによくわからんやつである。
だから一応妖精さんと呼んでいる。
なんでそんな得体のしれない生き物を飼ってるかって?
可愛いからに決まってんだろーが。
いきものがかり舐めんな。
こいつはそんな危ないやつじゃない。
目を見れば分かる。
まぁ追い出しても何食わぬ顔で居座ってくるうちに愛着が湧いてしまったという真実はさておいて。
今はリラックスモードである。
「んー!かわいいでちゅねー!」
『キュー!』
抱きついて、全身をさわさわする。
女性にやったら一発レッドカードものだろう。
見た目に反し、柔らかくさわり心地の良い毛並みである。
流石俺が見込んだだけはあるな。
そうして数分の至福を味わった後、気持ちを切り替える。
俺の空気を察したのか、妖精さんはいつの間にか霞の如く消えてしまった。
果たしてこれは俺の欲求が生み出した幻覚なのか?
未だに答えは出ていないんだがそれは一旦置いておこう
。
「さて、行くとしますか」
俺は宿をチェックアウトしてその日のうちにオースを発つのであった。
あれ…、何か忘れてるような?
すいません。年末年始は忙しくてかけませんでした。
新載です。
あとロシアで銃撃ってました。テヘッ




