幕間 デート④
「むぐっ、なるほどねぇ。結構な冒険者を死なせてしまったから引率者として責任は取らないといけないのか…」
「はぐっ、あぁ。恐らくランクの一つや二つは下がるだろうな」
「だからあんなに何というか…、ナーバスになってたんすかね?」
「はぐっ、まぁ彼にもパーティーメンバーの生活があって、将来を見据えれば引退後の暮らしというのもある。多少お金にがめつくなったとしても仕方がないのだろうな」
「…」
「ハハ、君はホントに頑固だな。そんなに謝りたくないのなら私は別に構わないといっているだろう?」
「そっすね…」
俺達はあの言語を解するゴブリンと別れた後、サッシュさん達に再び合流した。
まぁ臨時のパーティーメンバーとしての独断専行を咎められはしたが、別に怒られるようなことはなかった。
そして彼らは今回の戦場で亡くなった者たちの供養をしている真っ最中であった。
俺達も遺品やギルドカードの収集や火葬を手伝うことになったのだが顔の判別ができない程に頭部を滅多刺しにされた奴や運悪く飛びかかられた拍子に心臓を一突きされた死体などその数はかなりに及んだ。
1割か2割は骸に変わっただろうか…。
今回のこのゴブリン討伐は作戦もメンツもしっかりしていた。
いわばボーナスステージのようなクエストだったのだ。
しかしいざ蓋を開けてみれば、敵は女王種。
馬鹿みたいな繁殖力と人並みの知能を有し、イレギュラーのオンパレード。
一時は敵に包囲される窮地にまで陥ってしまっていた。
この全滅も有り得た状況の中で被害をこれだけに抑えられたのはひとえにサッシュさんの指揮とセレスさんのヒールや解毒など『緑の風』の活躍があったおかげだろう。
それなのに降格は免れないというのはな…。
「どうしたんだ深く考え込んで?要らないならそのクレープ私が貰うぞ?」
「へ?なっ!?上げるわけないでしょう!」
(この人は間接キスという言葉を知らないのか!)
そうだ、今はデートの途中なんだった。
また後で考えればいいさアノア。
俺は見せつけるように手に持っていたフルーツ一杯のクレープを一気に食べ切る。
「あー!?意地悪…」
「むぐっんぐっ。意地悪って、自分のクレープは食べたでしょうに。それで?次はどこに行きます?」
「えーっと、次は図書館だ!」
* * * *
「うわー、スゲー」
まさか異世界でここまでの本の群れにお目にかかれるとは思っても見なかった。
これも転生してきた過去の人間が印刷技術を広めたおかげであろう。
この調子でさっさとパソコンとインターネットが普及してくれると助かるんだが…。
「何を感動してるんだ?図書館なら学園にもあるだろう?」
「あ」
そういえばそうだな。
一回も行ってないからすっかりその存在を忘れていた。
あんなとこ課題を真面目にやるときしかいかんだろ普通。
ちなみに俺の課題は大体デルパー君に見せて貰ってます。
ちょこちょこ変えて誤魔化してるけど、バレちゃったらごめん。一緒に退学しようね。
「それでー、こんなとこになんのようで?」
「何って、君のその変な体のことについてだろう?」
「なるほど」
確かについ最近分かったのだが、俺の体何かおかしい。
何か結構丈夫だし。
「私自身興味もあるし、パーティーの戦力アップには一番の近道だろう?独自で調べてまわってるんだ」
「お手数おかけしてすいませんねぇ…。それで成果はあったんで?」
「それがこれだ!」
エニグマさんはポーチから古びた冊子を取り出す。
「これはとある男が記した日記帳だ。名前が書いてないんだが、どうやら修行僧であったらしい。お寺の修行内容の記録がなされている。ところどころ掠れて読めないんだが…」
「よくこんな秘伝書みたいなやつ見つけましたね?」
「あぁ!学園の図書館にあったぞ!」
いや、学園にあったんかい。
もっとこう誰かから譲り受けるとか…。
まぁいいか。
「この『剛金寺』なんだが、修行を重ねることで呼吸するだけで身体能力を強化することが出来るようになるらしい」
「らしい?」
というか鋼金寺って、あん時俺を高弟とやらに祭り上げて何とかその場を取り繕うとでっち上げたやつじゃねーか。忘れてないぞ!俺は。大変だったからな!
というかホントにあったのか。
いや、サッシュさん達の反応を見るにあることには間違いないのだろうが…。
「あぁ、このお寺大まかな所在は分かるんだが、正確な場所は分からないんだ。」
やはりそうか。
詳しく聞くと、ここより遥か北、ヴィデルチェのその先にその鋼金寺を中心とした寺街が形成されていて、そこから西に、つまりは神淵の森の一角にそのお寺は所在しているらしい。
だから詳しい場所はこの作者にも分からないし、わかっていても書き記すことが出来ないのだろう。
彼女はこの日記にところどころ記されている自身へのアドバイスやメモを参考にして今まで指示を出していたとのこと。
だから息をいっぱい吸えだの、平常心だのオーダーがかなり曖昧だったわけか。
そういう大事なことはもっと早く共有してほしかったんだが…。
というかその冊子俺に寄越してもいんじゃないんすかね?
まぁ多分読まないかもしれないけど…。
「とは言え、この日記だけでは君にうまく助言出来る気がしない。君のその体の秘密がこの『ソイヨン式身体強化術』に起因するものなのかもわからないしな。そういう身体を強化するすべ全般のものがあれば是非キープしておきたいんだ」
そうして俺達は手分けしてしばらくお目当ての本がないか調べてまわることにした。
数時間後
「成果はどちらもなし…っすか」
俺は図書館をでてすぐの階段に座り込んでしまう。
自分の事とはいえ、慣れないことをするもんじゃないな…。
やっぱり勉強は嫌いだ。頭がクラクラする。
外は日が入りかけ、紺色の薄暗い景色を映し出している。
「まぁ直ぐに見つかるとは思ってなかったし、今後は私一人でこの図書館は踏破するつもりだから心配するな」
「それは…、ありがとうございます」
「なーに、私も好きでやっていることだから気にするな。それより…、今日はもう一つ行きたいところがあるんだ。ちょっと急ぎたい。駆け足でついてこれるか?」
「…?いいですけど…」
この世界の人間は幾ら魔力の街灯があるとはいえ、朝が早いので必然的に夜寝るのも早い傾向にある。
それに合わせて、節電のため真夜中まで街灯りがついてはいることはない。
日の入りと共に仕事を辞めて、街灯に照らされつつ足早に帰宅するというのが一般的である。
まぁ家から漏れる光もあるので歩けなくなるということはないだろうが、俺達が思うほど今の時間帯は早くはないということである。
こんなどこにも行く宛がないはずなのに一体何処へ…。
その答えはこの街でも一際高い建造物に近づくことで明らかとなる。
人目をはばかるかのように茂みに隠された何故か一部空けられている金網をくぐり抜けて、くり抜かれている螺旋状の階段を登っていき、その天辺に辿り着く。
場所はこの央都オースを四方囲む壁の一辺だ。
「どうだアノア君、沈みゆく夕日がきれいだろう?ここは私のお気に入りの場所なんだ」
「どうだって言われても…、ここに来るの普通に犯罪なんじゃ?」
「アノア君、バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。だったか?」
「!?」
何故それを?
って、俺が常日頃言ってるからか。
「フフ、まぁ黙っていてもらえると助かるな。私も只のお嬢様じゃないんだというのがわかっただろう?だからさ…」
「もうその取ってつけたような敬語はやめにしないかい?」
「…」
「確かに私にお金を借りようとした時にアノア君を突き放してから、君が露骨に距離を保ってくれようとしてくれていたのはわかってる。でも先のゴブリンとの戦いで君の腹の内は見えた気がしたんだ。信頼出来る人間だとわかったんだ。改めてお互い腹を割って話し合えるようになるために…な」
「いいのか?」
「こちらからお願いしてるんだ。いいも悪いもないだろう?それに…君のその敬語、何かゴマすってるようで正直気持ち悪いぞ?」
「そんなぁー」
「ハハハ、冗談だ。だがあともう一つ言わなきゃいけないことがあるんじゃないか?」
「へ?」
「私の髪だ」
「あー」
彼女の白髪は今までは腰まで伸びるロングヘアーだったが今では夏らしいボブヘアーになっていた。
ちなみに片目は未だに髪で隠しているが。
ここまで女性が大胆に髪型を変えることなんてそうそうあるわけがない。
少なくとも彼女のクラスメイトは2学期始めに驚嘆すること請け合いであろう。
「何か言うことはないのかい?私は美容室を出た時からずっと待ってたんだが」
彼女の頬がぷくっと膨らむ。
これは相当ご立腹のようだが、生憎この手の相手を褒める行為は前世含めて経験不足なんだよ。察してくれよ。敢えて言わなかったんだよ。
「あー、ものすごくかわいいです」
「感情の起伏が感じられなかったんだが?もう一度」
おいおいまじか。
「えー、とても涼しそうで夏にピッタリだと思います」
「お前の意見は聞いてない。あと敬語辞めろ。もう一度」
おまっ!?
「こんちきしょー!!めっちゃかわいい!!」
「うんうん、それじゃあこれからもよろしくなアノア君」
チュッ
……へ?
「なーんてね?うっそぉ。ホントにやると思った?」
俺の頬にいきなり口元を寄せてきたと思ったらこのザマである。
「こんのぉ!クソアマァァァァ!」
「アハハハハ!」
夕焼け小焼けで騒ぎながら帰路につく。
そんなこんなで俺達のとある休日は終わりましたとさ。
先生と編集部と相談した結果今後は週間連載ではない掲載形態で皆様にお届けすることになりました。
今後とも『Unusual Story ~ 剣と魔法の世界に転生したのですが、どうやら同じ境遇の方がかなりいるようです~』をどうぞよろしくお願いします。
タイトルなっが。




