幕間 デート③
中央で交差する2本の大通り。
呼んで字の如く中央通りと称されるそこにはお店などの建造物が所狭しと並び、きちんと石畳で舗装されているが、そこからいくつもの枝が生えるようにして別の大通りや細道が無秩序に繋がっている。
近道がしやすいと言えば聞こえは良いが、人通りがある道を一本外れただけで、いつでも犯罪の温床となり得るような薄暗い道が無数に広がっているということだ。
まぁそれは発展した町にはよくあることか。
「こっちか…?」
そんなスラム街を思わせるような異臭漂う薄暗い土の一本道、左手沿いにギルドの壁がそりたつ路地に俺達は来ている。
彼らが親指で指した方向を見るにここら辺で間違いないだろうが…。
呼び出しておいていないとは何事だろうか?
「誰もいないっすね?帰りますか」
「君は阿保か?」
失敬な。
なるべく危険な事に首を突っ込みたくないというこの胸の内が分からんのか?
キョロキョロ辺りを見渡しながら進むこと、中央通りと奥に見える交差点との丁度真ん中を過ぎたあたり。
「ヘッヘッへー」
「これで逃げられねーな」
何処に隠れていたのだろうか?
後ろからご親切に声までかけてくれた例の2人組が仲良く並び、肩で風を切って登場する。
「…」
不意に某クエストの戦闘BGMが脳内に再生されたような…。
気のせいか。
あと挟み撃ちにするならまだしも、その立ち位置だと普通に後ろから逃げられるからね?
チャキッ
「おっと…」
比較的冷静な糸目の方、古代中国を思わせる三つ編みべん髪の男がマチェーテのような長物を取り出す。
それに合わせてもう一人、金髪半裸の変態も短刀を順手に…。
なんだかんだ同じ冒険者のよしみでステゴロで相手してくれるかと思ったが、どうやらガチでやり合うらしい…。
相当頭のねじが外れているのか、先の腹パンが余程腹に据えかねたのか。
「アノア君…」
「何っすか…?おーけー」
さて…、と。
今しがた彼女の方より作戦立案が成された。
俺は彼女の手となり足となり歯車となってこいつ等をぶちのめして、さっさとデートの続きに戻るとしましょうか。
「行くぞ!」
「ふひゃははは」
真正面から暴漢が襲い掛かって来る。
「『火よ』!!」
それに対して、エニグマさんは魔法を敵に…、ではなく地面にばら撒く。
魔法の火は燃えるものが無くても簡単には消えずに、まるでまきびしのように敵を寄せ付けない。
流石魔法、物理を超越している。
「ぁあ!ずりぃぞ!」
「何がずるいんだ?先に凶器を出してきたのはそっちだろう?」
「うるさいうるさい!」
これで止まってくれてばいいんだが…。
物事はそううまくいくものではない。
「っは!」
糸目の方が壁を蹴り上げ、炎を飛び越えてきた。
そしてそのままエニグマさんに覆い被さる。
「エニグマさん!!」
「だ、大丈夫…」
組み敷かれながらも、咄嗟に抜いた細剣で必死に鍔迫り合いを起こしている。
いくら彼女の剣裁きが魔術と同じくらい熟達しているとしても、女の子の握力であの態勢まで詰められては流石に押し切られかねない。
加勢するべきだ…。
「今ぃ」
「作戦続行!!」
「っ!?」
俺は動かない。
いや正確には動けない。
ただリズムを取るように足を踏み鳴らすだけだ。
「馬鹿がっ!死ねぇ!」
「くっ!あ、しもとが…、お留守だ!」
完全に自重を地面に預け、丸々ようにして敵の猛攻を背に逃がしつつ、思い切り足を伸ばして敵を蹴り上げる。
「くごっ…」
男はたたらを踏みつつ火の床が張られているエリアまで押し戻された。
形成逆転。後ろがない今がチャンスだ。
「まだまだまだぁぁぁぁああ!!!」
「アニキぃ!?」
「くっ…」
一瞬のスキを突いて、今度はこちらから打って出る。
大気をなぞるように剣筋を描き、相手の剣先を制圧するようにして息つく暇もない程に剣を振るう。
相手も相当の手練れだ。
エニグマさんの速攻追撃を剣を立てるようにいなして、裁いていく。
敵からの攻撃は無いが、敵を火の海へ押し込むこともできず、一進一退の攻防が続いていく。
しかし、そんな達人のようなやり取りが長く続くわけもなく、必然ダイナミックに仕掛けていたエニグマさんの方が先に息が上がって、数歩後ろに下がることで立て直しを図る。
「ふぅ…、なかなかなるようだが、もう限界じゃないのか?」
ドンッ
「うるさい…」
肩で息をしているのがありありとわかる。
限界というわけではないが少し強がっている面もあるだろう。
ドンッ
「いい加減負けを認めろ」
「おい!ちなみに負けを認めたらどうなるんだ?」
「身包み全部置いていけ」
「やってること強盗じゃねーか!?ギルドに言いつけるぞ!」
「おいクソガキぃ。ばれなきゃ犯罪にはなんねーんだよ」
「ふざけやがって…」
ドンッ!
「ところでこの地鳴りのような音は何だ…」
段々と大きく音が鳴り、辺り一帯が振動してきたそれはどうやら俺の足元から聞こえているようだ。
それは心臓の鼓動が実際に聞こえているかのように、俺の体をざわつかせて鼓舞する。
「さぁ?なんだろね?」
「てめぇ!?殺してやる!」
さっきと言ってることちげーじゃねぇか。
サラトガさんの証言もあるし、なにより殺したら証拠残るだろーが。
まぁいいか。
ドォンッ!!!
「いけそうか…?」
流石に疲れすぎたのか、既に座り込んでしまっているエニグマさんがこちらを伺ってくる。
「わかんないっすけど…。ちょっとエニグマさんもう戦意喪失してない?」
「君にもう任せても良いと判断したんだ。私は十分頑張った。エライ」
「エニグマさんって体力ないっすよね」
「私は元々後衛だ。あまり多くを求めるな」
「ほーい」
ドォォォォオオンッッ!!!
最後の足鳴らしを終え、前の2人と相対す。
もうこれくらい溜めればいいかな…。
既に隔てていた炎は消え、合流してしまっているようだ。
でもそんなの関係ない。
「ようやく会えたぜぇ!」
「遅いんだよ、お前は」
「アニキがスゲーんだよ!」
おいおい、敵を前にして2人でいちゃつくな。
さっきまでのはただの脅しだと思ってんのかこいつ等?
つくづく脳内お花畑だな。
そんなことしてっと。
「先手必勝!!奇襲上等!!!」
エニグマさんより格上の相手だ。
相手の変身を待ってやるほどの情けもくそも悪党の俺にはない。
一瞬で終わらせる。
ドォンッ!!
地面をめり込ませながら、前傾姿勢になり前へ飛び出す。
「あ゛」
これはやべー。
踏み込んで2歩目であまりのスピードに姿勢が崩れ、前のめりになる。
刹那の間に正々堂々走り込み、有り余る身体能力でぶん殴る選択肢を捨てる。
そして3歩目。
「うぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」
馬鹿みたいに出ている加速やもはや胴体着陸寸前にまで落ちてしまっている体のベクトルを前方に向けるために、右足に全ての力を込める。
もはや地面に足をつけるという動作は要らない。
まるで大砲が耳元で炸裂したかのような爆音とともに、俺という弾丸が三度射出される。
「ダブルゥゥゥ!!!!!ロケットォォォォオオ!!!」
「「なっ!?」」
声にならない声を上げたのが、奴らを見た最期であった。
並び立つ2人の腹をを仲良く両の拳で捉える。
そして、研ぎ澄まされた一瞬の中、全ての運動エネルギーをその拳に込め、浮かせて、殴り飛ばす。
「「ぐごはっ!?」」
目にも止まらぬ速さで水平に吹き飛んでいった流れ星を横目に、有り余った運動エネルギーの残滓に弾き飛ばされた俺は顔面から滑り込み地面とキスをする。
「うぅ…、痛い。毎回締まんねぇな…」
つくばったまま視線を前方へ向けると遥か彼方、中央通りでは通行人を巻き込み、店の玄関が煙を上げて半壊する大トラブルが…。
確かあの店は冒険者ギルドの真ん前のお店だから…。
「おい!アノア君!急いでズラかるぞ!あそこは高級時計や宝石を扱うお店だ。もし損害を請求されたら…」
「ひぇっ」
慌てて立ち上がり、俺達は来たときとは別方向へ駆け出していく。
すまんな、半裸君。
君たちは捕まるかもしれないが、バレなきゃ犯罪じゃないんだよ。
ここは知らぬ存ぜぬで俺の分まで罪を被ってもらうことにしよう。
俺は決して悪くない。正当防衛です!
「ぷっ、それにしてもダブルロケットって名前、安直すぎやしないか?」
「う、うるさい!人が気にしていることを…。良いんです!どうせ一回こっきりしか使わない技ですから!」
「そんなことはないぞ?色々デメリットは目立つが我がパーティーの最終兵器として火力は十分だ。うふふふふ、それにしてもアイツ等ざまぁ見ろだな!」
「さ、さいですか…」
余程、彼女のツボにハマったらしい。
トンズラこく事の背徳感や緊張から解放された安心感と重なったんだろうが…。
「くっくっくく、君の最後撃ち抜かれた鳥みたいに憐れだったぞ!」
俺の怒りが抑えられるうちに誰かこの人を止めて下さい。




