幕間 デート②
魔導具により空調が効いた室内から外に出る。
外は夏真っ盛りの模様でちょうどてっぺんにある太陽が頭皮を暑く刺激する。
いやまぁ、ここは異世界なのでアレが太陽なのだということは(ry。
そんなことはさておいて、緊急クエストの報酬を貰った俺達はさっきより幾分か懐が温かい状況だ。
少なくとも今日のデートの資金と数日の宿代くらいなら何とかなるだろう。
あれ…?それじゃあポーションとかの装備周りに手が行かなくねと思ったそこのあなた!
これからさらにコブリンの耳を含め、今まで貯めてきた素材の鑑定結果が終わり次第、納品報酬や討伐報酬、女王ゴブリン討伐の追加報酬もあるというのだ。
そんなに将来を不安視することもないだろう。
と言っても数日休んだらまた狩猟生活に逆戻りなんだけけどな…、ははは。
観光ではなく、出稼ぎしに来ている面もあるのだ。
わざわざ宿に泊まっているなら働けという話である。単純に。
「あちぃ、早くどっか建物の中に入りてぇな」
「そうだな…」
やや遅れて後ろから俺のパーティーメンバー、エニグマさんが炎天下に身を晒す。
格好はさておき、あの頭部を覆い隠すかのような髪でこの天気は流石に閉口するだろう。
よく思うのだが、冬にミニスカートをはき、夏にロングヘアーでいるような女性のまるで季節に反抗するかのようなファッションには誠に敬意を評したい。
オシャレは我慢とは誰が言ったものであったか。
「本当にエニグマさんの生足に頬ずりしたい…」
「ん?何か言ったか?」
「いえいえ何も?それよりこれからどこに行くんで?お腹ペコペコなんで出来ればお昼でもどっすかね?」
ちなみにまだ朝から何も口に入れていない。
ラマダーンもびっくりである。
「んー、それなんだが少し寄りたいところがあるのだ。付き合って貰えるか?」
まぁそれにさらに追い打ちをかけていくのがエニグマスタイルである。
物怖じや遠慮はせずに、今やりたいことをやるのが彼女だ。
だんだんと彼女の思考が読めてきた気がする。
一行は徒歩で大通りを移動をし、再び冷風で満たされた室内に入る。
そのお店の二階の壁には万人に分かりやすいよう大きくハサミのマークが描かれていた。
まぁそんな奇抜な看板だけだと想像がつきにくいかもしれないが、中に入ったら一目瞭然である。
髪を洗う洗面台やチョキチョキと心地よい音が流れるこの場は何を隠そう、
「デートで床屋っすか…?」
「む、悪いか?」
「いえ、何も」
まぁでも、先にお昼で良かったんじゃないかなと思ったりして?
「ここは最近出来た美容室という場所らしい。何事も一度は経験してみないと分からないだろう?」
「へぇ」
入口に突っ立っていても邪魔なだけなので、俺達は店内にズイと進む。
白と銀を基調とした空間に店前一面を窓にして外から見やすいようになっているここはなかなかどうして敷居が高い。
というかこの配置、大通り沿いの通行人からジロジロ見られるただの羞恥プレイになる気が…。
いや、それは気にしすぎか。
入ってすぐの記名台に名前を記し、左にあった待合室で待機しようとしたのだが、直ぐに茶髪の男が近寄ってくる。
「らっしゃっせー。2名様で?」
「アノア君はどうするんだ?」
「んー」
そういえば最近忙しくて、切って貰えて無かったな。
最後に行ったのは確かエウリオでギータ君行きつけの床屋さんに行った時か…。まずいな。
「俺もお願いします」
「オーケー!それじゃあお嬢様お先にこちらへどうぞ!」
(おい、ここはホストか何かかよ?俺のエニグマさんを今すぐ返せ!)
まぁそんなことはおくびにも出さない訳で、連れを連れ去られて、一人入口の前に取り残された俺は改めて名簿に名前を書き連ね、まるで失恋したように寂しく待合室のソファーに向かう。
待つこと数分。
「どうもありがとーございました。さてお次はっと、お?君かな?」
スパンコールのタイトドレスに身を包んだ紫色の髪のお姉さんであった。
大変眉目麗しい。
「ふぁあい」
先程のネガティブさは何だったのか?
美人さんに惹かれるようにして蛾である俺はカット椅子に向かう。
ホスト?ホステス?まぁどっちでもいいや。
ここはそういう髪を切ると称して店員とキャッキャウフフできる類のお店なのかもしれない。
向こうに座るエニグマさんに小さくサムズアップしつつ、俺はその女性とのくんずほぐれつに向かうのであった。
* * * *
「あの女半端ないって!アイツマジ半端ないって!めっちゃ体押し付けてくるやん!そんなんできひんやん普通。そんなんできる?言っといてや家族経営なら」
ところ変わって場所は冒険者ギルド併設の酒場。
西部の香りが漂う飲食店でさっぱりしたアノアは机に突っ伏して管を巻いていた。
「まぁまぁ」
カウンターの隣席で食べるのが一番とばかりにミートスパゲッティーをほおばりながら適当になだめすかしてくるのはエニグマさんだ。
「少子化問題は!我が県のみならずぅ!日本中の問題やないですかぁ!そういう問題をーはぁーはっあー!解決したいが為に!俺はねぇ!命がけでぇ!彼女に勇気を持って話しかけたわけですよぉ!エニグマさん!あんたには分からんでしょうねぇ!」
「この子…、大丈夫?」
対面でグラスを磨きながら、俺の頭を心配してくれているのがサラトガさんだ。
前回ここを利用した時に、パフェを奢ってくれた人だな。
ショートウェーブの緑髪に半開きの眼が今日も相変わらずお美しい。
「大丈夫だ。この人はたまにおかしくなる時があるから大目に見てやってくれ」
「さーて、俺のカルボナーラも来たことだし。食事にするか」
「ほらね?」
「はぁ、まぁうるさすぎないようほどほどにね」
「はーい」
話は終わったとばかりにサラトガさんは注文を取りに行ってしまう。
「せわしない方だな…」
「それにしても許せないわー」
「まだ言っているのか?話していたではないか。いい立地で新しく美容室を始められたので新規顧客を得るべく、奇をてらったものにしていきたい。と」
「いくら顔が良いからって人妻で接客婦はダメでしょう。夢がないわー」
「中にはそういう人が好きな者もいるんじゃないか?」
「え?」
「んっん!取り敢えず彼らの当初の狙いであった多くの客層に物見遊山で来店してもらう試みは成功しているのだろう。意外性もあるし、実力もある。リピーターも必ずいるだろうな」
「そっすねー。でもまぁ俺はもういいかな…。エニグマさんはどうだったんすか?あの男とイチャイチャして」
「私は腕が良ければ何でもいい。それにそういう言い草は良くないぞ?別にあの男との間には何もなかった」
「冷めてるなー」
まぁ俺も髪型に無頓着な辺り似たようなとこか。
そんな他愛も無い話を交えつつ、フォークを持つ手は止めず、順調に目の前の食事を消化する。
「さて、食べ終わったことだし、後ろで立ってる邪魔者の相手でもするとしようか」
「えっ!?」
エニグマさんがいきなり立ち上がり戦闘モードに入ったので、びっくりして振り返る。
そこにはいつぞやの2人組が…。
全く気付かなかった。
「はぁまったく、私のパンチの味をもう忘れたのか?ニュウビ―?」
「なっ!」
一人が彼女の挑発に乗って、かかってこようとしたがもう一人が冷静に手で堰き止める。
「やめろ、ここじゃ分が悪い。おい!そこの裏路地に来い」
因みにサラトガさんはすでに戻ってきていて、両腕を組みつつ、並々ならぬ空気を放っている。
流石に店主の見ている真ん前で事を起こす気はないということだろう。
それと同時に別の場所でやり合うならこの店主は積極的に関与しないだろうことも分かった。
スイングドアを押し退けて、2人が勝手に出ていく。
「勝てる見込みはあるの?なんなら」
「問題ない。行くぞアノア君」
「えっ?ちょ」
話の途中で手を引かれ、ズンズンと進んでいく。
今ワンチャン力貸してくれそうな流れだったよね?
そこで行くか?普通?
「大丈夫だ。いざとなったらアイツ等を燃やす」
「…」
えー大丈夫じゃないです。
これから彼女が殺人犯にならないことを祈るばかりである。
遅れまして申し訳ございません。




