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第三十四話 ゴブリンは横顔を赤く染め上げます


 「おい!アレなんだ!?」

 

 光明が見えたその折、サッシュさんが声を上げる。

 駄目になった防具や盾の何もかもを脱ぎ捨てボロ雑巾のようになってしまい、もはや生きているのかも怪しいガビノさんを背負った彼は眼前を睨みつける。

 

 そして、俺達は同じところを見ているわけであり、彼の言う『アレ』とは正面の視界に起きた異変であることは言うまでもない。


 揺れていて分かりづらいが、出口の下半分が影で覆われ、波打つように移ろいでいるのが確認できた。

 その正体はより前へ進み、もはや後戻りできなくなった状態で明確に認識することとなる。


 「ゴブリン…?」


 「おいおい…、こっちに向かってきてるぞ!」


 「火魔法で…」


 「バカヤロー!!俺達まで巻き込む気か!?」 


 「じゃあ、どうするんすか!?」


 「俺が出る」


 一歩前に出てきたのはルクスさんだ。

 

 「あの女王種のゴブリンには手も足も出なかったかんな。ここでくれーは体張らせろッ!!」


 そう言い切ると、こちらに迫りくるゴブリンの群れ目掛け、単身進撃していく。

 

 「あの野郎…!おいアノア!ガビノを持て!!」


 「ちょ!」


 後を追うようにして、死にかけのガビノさんをこちらに押し付けたサッシュさんが前に出る。


 2人はこの狭い空間に殺到してくるゴブリンを迎撃し…、やがてその脇からすり抜けるようにしてゴブリンがこちらへと雪崩れ込んでくるのであった。

 

 「げぇえ!?」


 「アノア君、コイツを任せた。」


 「うごっ」


 肩を貸していたエニグマさんが補助を止めて、前に躍り出る。

 迫りくるゴブリンを手に持つタックソードで一閃、二閃、三閃した所でふと手を止め剣を下ろしてしまう。


 「ちょ…!?」


 2人の男に押し潰されるようにして、そのムサイ空間に抑えつけられた俺は特攻をした3人の奇行に絶望し、己が嬲り殺される未来が頭をよぎったが、数秒後、その意味を知ることとなる。

 

 ゴブリン達がこちらに目もくれずに、避けるようにして洞窟の奥へと駆けていくのだ。

 よく見てみると、手に持っていた痛そうな武器は誰も持っていなかった。


 「ふぅ…」


 一瞬にして緊張でこわばった体が緩む。

 いやまだ緩めていいのか分からないがこれは生理現象なのでしょうがないだろう。


 そして、安心したからこそ次に目を向けることができるのがこの揺れだ。

 それはまるで沸騰しているかのように、段々と大きくなっているようだ。

 

 「良く分からんが、取り敢えずここから出ることにしよう」


 「…そっすね」


 戻って来たエニグマさんを向かい入れ、俺達は押し寄せるゴブリンの流れに逆らうようにして、早急に地中を後にするのであった。



 ズズズズズズ


 「はぁ!やっと出られた…」


 エニグマさんと共にガビノさんに肩を貸しながら、ようやっと地上に出てくる。

 やはり四方を壁に囲まれていない開放感や新鮮な空気など何にも代えがたい物であるだろう。


 そして、振り返る。



 俺達が出て来てから、ほんの十数秒後。

 

 洞窟の天井が震え出したかと思うと、ドゴォーンという凄まじい音と一緒に入口が崩れ落ちたのだ。


 (あぶねぇー!危機一髪かよ!こわっ!?)


 無事生きて帰ってこられたことに対する安堵や、もし出られなかったらと思うことによる恐怖で腰が抜け、その場にへたり込んでしまう。

 

 はぁ…。


 取り敢えずはこれで一件落着と言えるのではないだろうか?

 開けたこの場にはあちらこちらにゴブリンの死骸が転がっているが、突入前に見た地を埋めつくすようなゴブリンはおろか立っているモンスターは一匹もおらず、広場の中央には大きな人の塊が…。


 「おーい、お前ら―。こっちだー!!」


 「サッシュさん!」


 その中にこの場の指揮を取るリーダーを見つけた俺達はそこへと向かっていく。

 

 ズズズズズズ


 ん?もちろん気絶している斥侯さんも一緒にね。

 そう言えばこの人の名前何だったか…。


 「チルトッ!?」


 あぁそうだ。チルトさんだった、チルトさん。

 駆け寄ってきたのはルクスさんのパーティーメンバーかなんかかな?


 「てめぇ!何してやがる!?」


 「何って、お荷物運んで来ただけだけど?そもそも13歳の男女に大の大人2人を運ばせようとするのがいけないんじゃないんですかね?」


 「なっ!」


 「おいおい、そこまでにしてくれ。怪我がひどい奴がいるんだ。セレスに見せたい」


 取りなしてくれてるとこ悪いんだが、お前に言ってんだよ。お前に。


 俺の中の黒い感情を隠しつつも、そりをひくようにして引きづっていたチルトさんの足をその場に放り、サッシュさんの後に続く。




 ところでそれを見つけたのは偶然に導かれてのものだった。


 「あれなんだろ…?」


 生い茂る高木の隙間から僅かに煙が上がっているのが見えた。

 あれは、確か入口の方か…。



 え?



 「!?」


 (ん?火事でも起きてんのか?それとも…。おいおい待てよ。そもそも何であの時唐突に『ダンジョンが()()』されたんだ?)


 なぜ脳内アナウンスが流れるのかは未だに分からないが、これが事実だとして…、

 全てが点と点で繋がったような気がする。


 そしてそれは俺の考えすぎだといいのであるが、そうでなかった場合は…。


 「は?ここまで来て逃がすわけねーだろーがッ!!」


 完全に頭に来た俺は、その場を抜けて森の危険性などは省みずに煙が出ている場所に向かって走っていく。


 「アノア君!?」


 ドサッ


 「ガビノォォオ!!おいお前等!!どこ行くんだぁあああ!!」



* * * *


 (くそっ!やっぱり…。どこだっ!どこだっ!)


 先程、みんなで集合した大きな木の根元付近。

 俺がネックレスを落とした場所を改めてみると、なんとその時に発見した穴が剥き出しになっており、そこが発生源となって煙を発していた。


 これで俺の推測が現実を帯びたものになっていく。

 残党だかなんだか知らんがぜってぇー逃がして溜まるものか。

 


 根絶やしにしてやる。


 「アノア君!」


 「エニグマさん!何でここに…」


 「君こそなんではぐれたんだ!サッシュ殿が物凄く怒っていたぞ!」


 「それは…、これを見てくれ」


 俺を追いかけてきてくれたエニグマさんに己の憶測を述べようとした時。


 エニグマさんの背後から何者かが飛び掛かってくるのが見えた。


 「伏せろッ!?」


 「何!?キャァァア!!」


 彼女の背に張り付いて、離れないソレを無理矢理引き剥がして、地面に叩きつける。

 ソレの正体はゴブリンであった。


 他のゴブリンよりかはいくらか小さいか…。

 まぁどうでもいい。


 俺は剣を引き抜き、頭を抱えるソイツにとどめを刺しに向かう。

 チッ、後であの穴も塞いでやらねーとな…。



 『ヒィ…。コロサナイデ』


 



 「は?」



 おいおいまじか。…え?


 「日本人…、なのか?」


 『コロサナイデェ…』


 「質問に答えろやっ!!」


 『ヒィッ!!』


 辺り構わずに恫喝するが、隣の彼女は何も言わない。

 表情を見るにこの事態に困惑しているようだ。


 『ボク、テルキ。ソレ、ボクノママ。ニホンジン』


 ゴブリンが指を差したのは、彼女の腰に掛かっている生首。

 この世の全ての苦難を身に受けたかのような顔は一度見たら忘れられるはずがないであろう形相をしている。


 というか、ゴブリンになって知能が低下したのか、まだ発声が上手くいかないのか知らんが何とも聞き取りずらい…。


 「これがお前の母親だったのか?」


 『ママ、アカリ』


 「!?」


 それはこのユニークモンスターを倒した時に聞いた名前。

 やはりコイツ…。


 『カエシテッ!』


 「アノア君…、どうするんだい?」


 「どうするっつっても…」


 俺は人間で、こいつはゴブリンだ。

 何処まで行っても交わることのない、狩るか殺されるかの関係である。



 …でも。


 「ほらよ」


 エニグマさんに近付き、括りつけていた母親の首を取って、奴の目の前に置いてやる。


 見つかるリスクを犯してまで母親の亡骸の一部を取り返そうとしたその勇気は認めてやらんでもない。


 「これだけは言っておく。こいつは大きくなりすぎて、俺達の町にまで被害が出始めるようになった。だから狩られた。今回はお前を見逃してやるが、次また群れなんか作ってみろ。今度は確実に俺がお前の息の根を止めてやる!分かったな!?」


 ゴブリンは首を激しく縦に振る。


 「その首はくれてやる、しっかり供養してやれ…。お前がこの先他の奴に見つかって殺されたとしても俺は知らないし、どーも思わない。理解したらとっとと失せろ!」


 『アリガトゥ…』


 「お礼なんか言ってんじゃねぇ!!」


 重そうに首を抱え持ったそのゴブリンは2,3歩後ろずさると、振り向き、退散していくのであった。


 「俺もどうすりゃいいか分かんねぇよ…」


 さも独り言のように呟く。


 「…、優しいのだな」


 「最初に出てくる言葉がそれっすか?まさか同情でも?」


 「そうだな。まだ子供のようだったし…」


 「…、モンスターに人間が乗り移るケースは聞いたことありますか?」


 「いや、寡聞にして聞いたことがないな。」


 「そうっすか…。この事実を公表しますか?」


 「君に任せるが、決定的な証拠がない限り嘘つき呼ばわりされるだけだろうな」


 「…」


 それきり、俺達は黙りこくって何も言わなくなってしまった。

 木々の隙間から水平に差し込む茜色の日はそんな俺達の横顔半分をただただ赤く染め上げるのであった。

 

 

 

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