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第三十一話 ゴブリンはゴブリンです

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 「『火の玉(ファイアーボール)』」


 穴から猛襲する巨影にエニグマさんが小手調べと下級魔法を放つ。


 それは近くにまで迫りくるナニカにパシュッという空気が抜けるような軽い音と共にぶつかると線香花火が如く儚く散る。

 しかし、想定した役割は果たしたそれは着弾地点をつまびらかにする。


 「クモ…か?」


 ずんぐりむっくりした胴長の下半身を幾つもある細長い歩脚で掻いて進む姿は己の頭の中にある蜘蛛のそれと相違はない。


 だが…。


 (あれ…、気のせいかな?縮尺がバグっていたような…)


 「…っ!?来るぞ!左右にはけろ!」


 危機を感知したのか、サッシュさんが陣形を変える指示を出す。

 命令に合わせて迎撃する態勢から挟み撃つ態勢に切り替わろうとするが…、もう遅い。


 『グギャァァァァアアアアアア!!!!』


 凄まじいスピードを伴ったそのナニカは中空に浮かぶ炎やフィールドの卵に照らされてその姿を瞬きをする間見せてくれる。


 「うがっ!?」


 「ガビノォォ!!!」


 穴の真正面で待ち構えていてオーダーに僅か出遅れたガビノさんがトラックに轢かれ錐揉みしながら吹き飛んでいく。


 「……ぁ」


 余りの恐怖に足がすくみ、まともに動けない。

 ウインドベアの時に感じた殺気と同じだ。

 黒い魔力を全身から放出し、その雄叫びで周囲を牽制していく。


 いやそれ以上だろうか?

 ガビノさんがどうなったかを想像して、より一層顔が真っ青になる。


 先ほど見た通り、大型自動車程もある腹部を地面すれすれの場所に浮かばせ、足が八本もある蜘蛛が壁に突き当たるまで速度を緩めずに、そのまま体当たりをかました。


 奴が振り返る。

 衝突した衝撃が余程痛かったのか、かぶりを振っている。

 一時的に行動不能状態にあるように見えるが…。


 …いや、蜘蛛だと言ったがなぜか頭部がなかった。

 それに置き換わるようにして緑色の肌の人間の上半身が埋め込まれているようだ。


 「アラクネ…なのか?取り敢えずアイツの顔は…」


 ソイツの顔を詳しく確認しようとしたその時、


 「うわぁぁあああああ!!」


 「どうした!?」


 チルトと呼ばれていた斥侯が叫び声を上げる。

 

 「顔が…、顔がァァァァアア!!」


 「おい!どうしたってんだよ!?」


 これでも海千山千越えて来たであろうルクスさんのパーティーだ。

 あの怪物を見た時は俺とは違って冷静を保っていたように見えたが…。


 「おい!顔がどうかしたのか…っ!?」


 指を差すチルトさんを目で追って、その顔を確認したルクスさんは言葉を切り、次の瞬間、


 「うわぁぁあああああ!!」


 狂気に囚われ、発狂してしまう。


 「ダメだ…。もうおしまいだ…」


 「ルクスさん!?どうしたんっすか?」

 

 壊れた機械のように同じ言葉を繰り返し呟き始めた彼らを心配し、俺も駆け寄る。


 「おい!顔がどうしたんだよ!?答えてくれ!」


 「アノア君!」


 「サッシュさん…」


 「ルクス達はもう駄目だ、戦意を喪失している。戦闘に集中しろ」


 「でも…」


 「死にたいのかっ!?」


 「…、すいません」


 サッシュさんの切迫した表情と初めて見る怒鳴り声にふと我に返る。

 心なしか俺を雁字搦めにしていた恐怖も和らいだようだ。


 「エニグマさんもお前らも良く聞け。いいか?良く分からんが、絶対にアイツの顔だけは見るな」


 「っでも!明らかにあそこが本体っていうか弱点っぽいけど、どうするの?」


 「ナスティー、お前とエニグマさんの魔法が頼りだ。俺も出来るだけ援護する」


 「ここにはもう一人いるぞ?」

 

 エ、エニグマさん?


 「アノア君は絶対にヤツに有効打を与えられる…、気がする」


 「エニグマさん、今は冗談はよしてくれ。彼に何が出来るんだ?」


 おい、じゃあ何でここに呼んだんだ?あん?

 俺はエニグマさんのバーターか?

 バーターか。


 一瞬何もかも忘れ彼の一言に頭に血が上ったが、取り敢えず何も出来ないことに気付き、俺は押し黙る。


 「言い忘れていたんだが、彼はあの『剛金寺』の高弟だ」


 「うそっ!」


 「っ…!?それはホントか?」


 (…え?合金寺?何それ?俺も初耳なんすけど?エニグマさん?)


 瞬時に彼女を覗くが、目で察した。

 『とにかく、話を合わせろ』と。


 「い、言わないで欲しかったんすけどね…」


 「それなら安心だ。早くアイツをぶっ飛ばして、ガビノをセレスのとこに連れていくぞ」


 「ガビノさん生きてるんすか?」


 「あれくらいじゃ死ぬわけがない。きっと気絶しているだけだろう。戦線は復帰できないから今はそのままだ」


 そう言うと、俺の他3人はルクスさん達に手を貸して壁際まで運んでいく。


 っておい。


 「ちょっと、エニグマさん?」


 「いいかよく聞け」


 「あ、はい」


 彼女の有無を言わせぬ態度に直立不動状態になる。

 

 「私から言えるアドバイスはこれだけだ。いいか?『息を思い切り吸い込め、マナを体に循環させ、頭を冷静に、敵を殴り飛ばす』以上だ」


 「…は?」


 (マナって、確か空気中に含まれている魔力の元みたいな奴だったよな?俺魔法使えないんですけど?あと冷静に殴り飛ばすってどゆこと?言ってること矛盾してね?)


 言いたいことが言えてスッキリしたのか、はたまたもうお前に言い残すことはないことを示したのか彼女は振り返って、前の2人に追いつく。


 

 「え?これどーすればいいの?俺」


 彼らがここに戻ってくるまで俺は呆然と立ち尽くすことしか出来ないのであった。。


 

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