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第三十話 ゴブリンは生まれ出づります

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 「突撃ぃ!!!」


 俯瞰で見ると、人間の集団にとめどなく押し寄せるゴブリンの群れを最小限の掃討で突き進んでいく一つのパーティーが出現する。

 

 メンバーは7人、軽装備や重装備、魔法師然とした服に身を包んだ者もいれば、制服を着ている者もいるその面々はその人数の頼りなさとは相反し、万夫不当の活躍を見せる。


 そしてそこに行くのを拒むかのように進むにつれてさらに勢いを強めてくる無数のゴブリン達を寄せ付けず、やがては穴の袂まで辿り着く。


 まぁ俺は何もしてないんだけどね。


 ついさっき魔石と共に焚火を炊いたその中は未だ煙が充満し、普通の人間では到底入りえない場所と化している。

 この世界の人間を普通という尺度で測ってはいけないと俺は思うのであるが…。

 そこがまた難しい所である。


 「ナスティー!」


 「はいはーい」


 セレスさんと同じく青い液体、大方魔力を回復する薬なのだろうそれを飲んで元気いっぱいなナスティーさんが魔法で空気を押しのけ、道なき道を整備していく。


 「よっしゃ、チルト任せたで」


 「あいよ」


 ナスティーさんのすぐ前、暗闇の中先頭を歩くのはこの急遽構成されたこの突入分隊におけるルクスさんの唯一のパーティーメンバーの斥侯の方。

 

 短い短刀を逆手に持つ彼は、職業柄か夜目が聞くらしい。

 狭い洞で取り回しが効きやすい武器ということもあり、抜擢された。


 「おい早くいけよ!後ろからゴブリンが迫って来てるんだ」


 「落ち着け!俺もいるから」


 サッシュさんと共に殿を務めるのはタンクのガビノさん。

 なりふり構っていられずに次々と後ろから飛び掛かってくるゴブリンにかなり苦戦しているが、ここはもう行動を制限される一本道である。

 

 口では悪態をつきつつも、流石は仕事人と言うべきかその大楯で1匹たりとも後ろに通す気配が無い。

 

 盾が鳴らすゴンゴンという音を背に、またエニグマさんが照らす仄かな明かりを頼りにして地中を進んでいく。


 俺?まだ何もしてないけど?


 「俺ここにいる意味あるんすかね?」


 「ん?君もここに入る前はゴブリンと戦っていたじゃないか?」


 「そんなの俺じゃなくたってできるでしょ?」


 「それじゃあもし私が危なくなったら体を張って守ってくれ」


 「えー」


 「君ね…」


 

 「ストップ!ちょい待って」


 出し抜けに斥侯さんから待てのコールがかかり、一行は足を止める。


 「どうした?」

 

 「ここの床。他と色が少し違うなと思って」


 「どれどれー」


 確かに火を当ててみると周りとは少し違う、少し濃いこげ茶色の柔らかそうな土質をした地面に切り替わっている場所がところどころある。


 「つんつん…、何だろねーこれ…。いったっ」


 「おいどうした!?」


 ナスティーさんが右手を抑えて、痛みを主張したのに仰天したのかサッシュさんが慌てて駆け寄る。


 地面には薄っすらと盛られた土に隠れるようにしてびっしりと針がそそり立っているのが見える。


 「針…?まさかまた毒か!?」


 サッシュさんは彼女の指を咥えると、口で毒抜きを敢行する。


 「これでいいか…。ナスティー、余り軽率な真似はやめろ。今はセレスがいないんだぞ」


 「ごめん。サッシュ」


 「分かればそれでいいんだ…」


 おっふ、何とも熱々なことで…。

 いきなりバラ色の空気を放出し始めたこの展開に彼らのパーティー以外の面子は慣れてないのか、皆苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。


 「なぁ、馬鹿なことやってないで行かねーか?」


 ここでビシッと言ってくれるのが我らが親分、ルクスさん。


 「んん!無数の出口があったのを見るに、どうやらゴブリン達はこの正面の道を使ってないのかもしれないな」


 「他にもこんなトラップが無数にあるかもしんねーってわけか?どうする?一旦引くか?」


 「そんな訳あるか。この程度の罠如き、お前んとこのスカウトマンに見破れないわけじゃあるまい?」


 「当たり前じゃろ!こんくらいの罠、明るかったら俺でもわかるわ!」


 「それじゃあ先に進むとしようか」


 「コイツ…、ふざけやがって」


 そうして俺達は、落とし穴アリ毒矢アリ転がって来る玉アリの道を半ば強引に魔法を使って突き進んでいく。


 いつしかゴブリンの襲撃も無くなり、本格的にここはダンジョンなのかと疑い始めた頃、遂にお目当ての場所に漕ぎ着ける。


 そこはやけに開けた場所であった。

 数えるのも面倒なくらい無数に穴が開いたその場所はそれぞれが入りやすいようにすり鉢状になっていた。


 かと言って一度入ったら出口を見失う可能性があるということもなく、俺達が入って来た穴と、それよりも2倍以上大きい正面の穴を除いて、人間がかがまないと入れない程には穴は小さかった。


 そして何より目を引くのは天井に至るまで張り付いている緑色の球体だ。

 人間の膝下くらいの高さの物体が控えめに明るくなったり、暗くなったりしながら息をするようにうごめいている。

 

 「うぇ…、気持ちわりぃ…」


 と言ったのは誰だったか。

 その生き物のような球はまるでカエルの卵のようにチューブ状に繋がっていて、この空間の至るところに緑色の粘液がこびりついているのである。


 こんなショッキングな映像を見れば、誰しも気分が悪くなっても仕方ないだろう。


 「うん…?」


 「エニグマさん?どうかしたんすか?」


 思わず足を止めた彼女にこの場の全員が意識を傾ける。


 まぁ今は彼女の放つ光源のみが頼みの綱である。

 必然であると言えるだろう。


 「いやな…、燻した拍子にここら一帯の生物は死滅していると踏んでいたんだが…」


 「確かにそうだな…」


 答えるはサッシュさん。


 「試しに燃やしてみてくれるか?もしかしたら火耐性を持つ物体なのかもしれない」


 彼女は一度頷くと、


 「『火の玉(ファイアーボール)』!」


 魔法を放つ。


 やはり見た目通り、柔らかそうな物体は火が当たった端からしぼむように黒ずんでいく。

 これでは燃焼によって生じる高温の黒煙に当たったとて、同じ結果になるだろう。


 「消えたか…」


 「というかこれ何なんすかね…?」


 皆が瞬間的に思考の海に沈んだのか場に一拍が置かれる。


 「「卵だろ…」」


 「卵かな…」


 「卵じゃろ」


 「ですよねー」


 全員の見解が初めて一致した瞬間であった。


 「それにしてもゴブリンの卵か…」


 「ゴブリンって確か動物を苗床にして胎内で孵化させる魔物じゃったよな?」


 「あぁ、ルクスの言う通りだ、胎生と言うんだったか。これが本当にゴブリンの卵ならあの異常な群れの多さにも納得がいく。そしてこの卵がとても燃えやすい性質からして…」


 「ゴブリンの女王様が俺達が探検してる間にここを卵だらけにしたって言いたいんやろ?そりゃまたなんでそんなこと?」


 「分からない。そもそもゴブリンが卵から出てくる事実が信じられないんだ。取り敢えず駆逐したいのはやまやまだがこれは一旦放置だ。あのどでかい穴を見てみないか?」


 一行は闘技場のように真っ平になっているすり鉢状の底部分をぬけ、選手の登場口に当たる正面の大きい穴の前に集まる。


 「ここだけが下に繋がっているようだな」


 「ここがゴブリンの巣穴の本当の入口ってことですかね?」


 「だといいがな」


 「まぁとにかくここまで来て、煙を炊けば棲み処の最奥まで届くかな。差し当たって燃やしてみるとしよう」


 地上で燃やした時と同様、サッシュさんはリュックから魔石を取り出し、穴の真ん前に置く。


 「これで魔石は最後だ。仕方ない、駄目だったらさらに奥まで潜ってみよう」


 「えー、もう魔力も枯渇するし、疲れたよー」


 「そうか…、エニグマさんはどうだい?」


 「私はまだまだ下位魔法しか使ってないからな。まだまだいけるが?」


 「だってさ?」


 「えー、一緒にしないでよー」


 軽口を叩きながらも、面々は着々と準備を進める。


 「2人共行けるかい?」


 「おーけー」


 「当たり前だ」



 「それじゃあ…!?」



 

 『『キャァァァァァァアオォォォオ!!!!!』』



 突如人知を超越した凄まじい叫び声が空間をこだまする。


 余りの音の大きさ、その反響していくノイズに耳鳴りを起こし、手で塞いでいても耳が痛みを訴えてくる、そんな爆音であった。


 それが終わると同時に地が鳴動する。

 揺れは段々と激しくなり…、その震えの源はすぐそこまで来ていた。


 「おいお前等!来るぞ!構えろ!」


 鬼の形相と化したサッシュさんの怒鳴り声が僅かに聞こえてくる。

 その声に従って周りの冒険者と連携を取り、目の前のこのトンネルを囲んでいく。


 もうこの際誰が強いだとか弱いだとかは言ってられないだろう。



 そしてついにこの巣の主が姿を顕わにするのであった。

 


 

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