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第三話 地球からきますた!


 パチッ


 「知らない天井だ…」


 目を開けてから数瞬言うかためらったが、ある種言わなければならない謎の脅迫感に駆られてしまい、その言葉を口にする。

 

 体を起こして周りを確認する。


 今回は無事?に目を覚ますことが出来たというわけだ。


 時刻は…、夕方過ぎか?

 分厚い遮光カーテンの隙間から僅かに赤色の光が漏れているのがわかる。


 辺りは、古めかしくもあるが、歴史を感じさせる部屋の一室である。

 花瓶にいけられた花や趣のあるライトスタンドなど、調度品もしっかりとされていて、埃っぽくもなく手入れが行き届いていることからも、ここの家の主はしっかりした立場の人であることが見受けられる。


 そんな洋館の一室のような場所に不釣り合いに置いてあるのが、このどでかいホテルベッドである。


 まるで今と昔が融合した、そんな空間で眠らされていたのが俺、というわけである。


 ふと声に違和感を感じ、自らの予想が合っているか確認するべく、視点を下に自らの体に興味を向ける。

 

 「うわっ、若返ってる。」


 そこには紺色のネグリジェ姿をした少年の体があった。

 さらに自分の手や体、下腹部に至るまで隅々確認する。


 「やっば、生えてねぇし」


 しばらく俺は”自分が転生した”という事実と、”自分が子供に戻った”という事実に興奮していたが、一旦冷静になると、見回した時目がついた物に身を向ける。


 それは高さ150㎝くらいの全身鏡である。手っ取り早く、己を確認する手段としてあたりをつけていたのだ。


 ベッドから降り、鏡の前に立とうとする。


 「うわっ」


 随分今の体が貧弱だったのか知らないが、パッと立つことが出来なかった。

 そこから30秒ほどかけて体を擦ってリハビリをし、刺激に慣らさせてから鏡の前に臨む。


 最初に、背が縮んだことで鏡越しに見える周りの景色がガラリと変わっていることに改めて驚いた。


 小さくなったとは言っても、せいぜいこの鏡と同じくらいの背丈に、なんだが…。


 そして、なにより目に付いたのが、己の顔と髪の毛である。

 

 「やべぇ、めっちゃかっこいい」


 顔は…、まぁなんとなくわかってはいたが、前世とはかなり変わってしまっていた。


 目鼻立ちは二重でくっきりしていて、眉毛も太く直線的で眉尻が吊り上がっており、全体的にキリッとした印象を受ける。


 恐らく両親の遺伝子が良かったのであろう、俺も人並みに昔の顔にはそれなりに愛着を持ってはいたが、もしこんな顔になってしまったとしても、10人中9人は許せるであろう面構えである。


 かく言う俺もその9人のうちの1人だ。


 そして、以外だったのが髪色である。昔とはかけ離れてしまった濃い顔に反して、その髪は馴染み深い黒に染まっていた。


 顔も髪もすべて変わってしまっていたら、それはそれで完全に別の誰かではないか?

 そういう印象を抱いてしまい、少し寂しい気持ちになるところであったが故の僥倖である。


 

「うっ、またかよ」


 

 そこで突然、覚えのない凄まじい頭痛が俺を襲い、立ち眩みに視界と平衡感覚がおぼつかなくなる。


 それでも何とかベッドの縁にたどり着き、ドサッと倒れ込む。


 ベッドの柔らかさに感謝しつつ、痛みに悶えていると、急激に眠くなり…、俺はその眠気に逆らわず、意識をシャットダウンさせた。




 パチッ


 再び目を開き、今度は横になった状態で辺りをジロリと見渡す。


 遮光カーテン越しに見える光はもうなく、代わりにちょうどいい明るさのライトスタンドが灯っていた。


 そして、俺の今の状態である。


 直近の記憶では無造作にベッドにダイブした態勢であったが、現在はすっぽり肩まで布団に収まり、最初にここで目覚めたときと同じの、正しい状態に収まっている。

 

 布団の中でゴソゴソして、自分の体にまた触れてみる。


 夕方は男物のネグリジェを着ていたが、今は長袖Yシャツにベージュの半ズボンである。

 どうやら、俺の意識がなくなった後、誰かが来て身の回りのお世話をやってくれたらしい。


 「ハンナさんがやってくれたのかな?マルガレットさんか…」



 そうなのである。


 この屋敷で働いている人たちの名前が頭の中でつらつらと浮かびあがってくる。


 どうやら、俺が意識を落としてから、起きるまでに、この体の元の持ち主、”アノア・ヴィデルチェ”の12年分の記憶が俺の頭にインストールされたらしい。


 いや、意識が統合されたという方が正しいのではないか?


 ………わからない。


 とりあえず今の俺は日本で23年間生きた後に、この世界”ユージャル・ワールド”で12年間生きてきたという記憶がある。


 まぁ、実際は半日も経ってないのだろうが…、


 考えれば考えるほど、薄ら寒くなってきたので、一旦考えるのを辞めて、このことを記憶の隅に追いやる。


 (ってか、ユージャル・ワールドってなんだよ。お笑い芸人じゃあるまいし、もっとちゃんとした名前つけらんねぇのかよ、あのクソ天使!)


 そんな圧倒的上位者を彼1人しかしらないがゆえの理不尽な悪態をつきつつ、今度はサッと布団をめくって立ち上がり、勝手知ったる顔でドアを開ける。


 廊下は天井にいくつも照明が釣り下がっており、電球色に輝いて、柔らかくもとてもまぶしかった。


 そして、開けた扉のすぐ横、俺の顔がすぐわかる位置でくたびれた服を着た白髪交じりのおじさんが壁に身を預けウトウトしていた。


 そんな男性に俺は小さな声量で声をかける。


 「ジローさん、ジローさん!」


 「んぉ?」


 ジローと呼ばれたおじさんは、目を覚ますと、寝ぼけ眼でこちらを見る。


 すると、びっくりしたのか一度体を思いきりビクッとさせた後、俺の体を上から下まで眺めまわす。


 そして、とても嬉しそうな顔をして、こちらに近づいて目線を合わせてくれた。


 「ぼっっちゃん!目が覚めたんですね!おらぁとても心配で心配で」

 

 「ありがとありがと。それでもう仕事は終わったんじゃないの?」


 「ちょうど終わって帰ろう思ったときに、坊っちゃんが目を覚ましたって聞いたもんで、少し残らしてもらったんでさぁ」


 「それは…、済まなかった。」

 

 「とんでもない!とりあえず目を覚ましてくれて、おらぁホントに良かった!それはそうと坊っちゃんお腹はすいてねぇかい?」


 「そう言えば…」


 少しオーバー気味にお腹に手を当ててみると、本当に小さくはあるがゴロゴロとお腹が悲鳴を上げているのがわかり驚く。


 「しょうがねぇだ。1週間眠っててまともに飯を食ってなかったっていう話だったからなぁ。レオノラ様もこのまま衰弱死してしまうんじゃねぇかって心配してましたぜ。」


 「1週間!?」


 初耳である。


 俺が入る前のこいつ、アノアの最近の記憶は特に何もなくただただ平凡で、自分に割り当てられた部屋で眠ったところで途切れている。


 (あれ?そう言えば何で客間で寝てたんだろ?まぁ1週間も目を覚まさなかったら、少しでも体への負担を抑えるために、ふかふかなベッドのある客間で寝かせても何ら違和感はないか)


 俺が俯いて少し考えていると、ジローさん、うちで庭師として働いてくれているおじさんが壁から体を起こす。


 「それじゃあ、おらぁこれで。食堂に来てくだせぇ。マルガレットさんに冷蔵庫の中のお料理を適当に出しとくよう伝えておきまさぁ。是非お体に気をつけてくだせぇ…」


 「あぁ、ありがと」


 そう言い残すと、おじさんは身を翻し歩いていく。


 ふとその途中で立ち止まると、こちらに向き直り、


 「あぁ、言い忘れてた。レオノラ様からお話があるそうで…、食べ終わった後にでも行ってみてくだせぇ」


 「分かった」


 今度は本当にノシノシと去っていくのであった。



* * * *


 食堂でマルガレットさんに付き添ってもらい、ご飯を食べる。

 マルガレットさんは家に住み込みで働いてもらっているメイドさんで、50~60歳くらいの見た目、中身も外見と同じくらいきっちりかっちり厳しい方である。

 主にレオノラさんの身の回りのお世話兼メイド長をしている。

 家のお手伝いさんの中では2番目に偉い人がだ。


 (まぁ、住み込みで働いている正社員ポジの方は3人しかいないんだけど…)


 そんなことを考えながら、マルガレットさんが温めてくれた今夜遅めの夕食を頂く。

 磁器のお皿に盛りつけられた温かいスープやドロドロとしたおかゆをパクパク口に放り込む。

 

 そうなのである。

 こいつの記憶を引っ張りだすと、このユージャルワールドなる世界、どうやら多くの異世界人が地球から転移・転生し、様々な文化であったり、技術を流布しているらしく、米やソバを始めとした日本古来の食文化や色とりどりの野菜・果物などもあるらしい。正しく科学と魔術が交差する世界になってしまっているといえるであろう。


 (なんだよ!メチャクチャ杜撰じゃねーかよ!どんだけ誘拐されてんだ俺が元いた世界!これでまたあのクソ天使をぶん殴らなければならない理由が1つ増えたな。まぁあいつは新しく派遣?された奴らしいが…。あいつは元々この世界を管理する奴だったんだろうか…?)


 物思いに耽りながら、何事もなかったかのように平静としてなお一心不乱に料理を平らげる。

 食い終わった後に、マルガレットさんに料理を出してくれたことや食器を片付けてくれることに関して、お礼を言う。

 彼女は少し目を見張るような動作をしたが、その後に色々と心配をしてくれた。


 「いえいえ、そんなに急いで食べて大丈夫ですか?」


 「うん、まだちょっと胃がびっくりしてるけど問題ないよ。それより、俺が眠っている間は誰が身の回りのお世話をしてくれたんだい?」


 「いつも通り、私とセバスとハンナが持ち回りで対応致しました」


 「それは…、本当にすまない」


 「いえいえ、アノア様もご自分のお体をご自愛ください」


 「うん!それでおばさんからお話があるって聞いたんだけど…」


 マルガレットさんが壁にかかっている時計をチラッっと確認する。


 「夜は遅いですが、まだ奥様もご就寝なされていないでしょう。近くにセバスも傍に控えていると思いますし、今すぐにでも行かれては?」


 「うん、そうするよ」


 俺はそう言葉を切ると、マルガレットさんにおやすみのあいさつをし、スタスタと食堂を後に、レオノラさんの部屋の前に立つ。

 

 


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