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第二十三話 でっかい○○は便器を壊します

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 あのエンカウントが会ってからオース領に着いたのは2日後のお昼だった。

 

 まるで海のように広大な湖が望めるヴィデルチェとは違い、オースは山側と王国側で壁を挟んで別れ、それぞれだだっ広い草原と人の手によって作られた果樹園という違った風情を見せてくる場所だ。


 仮にも龍の庭と呼ばれる危ない山脈が近くにあるのだ。

 そして、この世界には便利な魔法という手段がある。

 仮想敵だとしても普段から防衛線として万里の長城が如く、壁を築くのは何ら不思議な事じゃない。


 その中でもひと際高い城壁に加え、水を張ったお堀まで完備しているのが央都オースであった。


 「よし、せっかく入れたことだし、オース名物スイーツパフェでも…」


 「まずは宿探しと冒険者登録からだ。」


 「へい…」


 入場の手続きだが、俺の心配とは裏腹に学園の学生証を見せたらほぼほぼ顔パスで入ることが出来た。

 それで大丈夫か?と思わなくもないが、そもそもあそこの入学試験を受けられる時点で一定の身分は保証されたも同然なのだろう。


 乗合馬車の人にお勧めの宿を聞いてみると、多少お金が張るが大通り沿いの宿屋を推奨された。

 やはり女性もいることだし、まだまだ駆け出し。

 治安が良く、防犯がしっかりしている所が安全ということなのだろう。

 冒険者ギルトが格安で運営している宿舎はあるのだがやはりいつも満員状態らしい。


 大通りは地域で取れた野菜や果物、雑貨、宝石、武器、香辛料などを始め、新品なレンガ仕立ての建造物にはカフェと書かれた看板も。

 やはりヴィデルチェと比べて冒険者がいる分活気があり、人や馬車の往来も盛んだ。


 そして、オースの一番真ん中、大きな十字路に面した土地にそれはある。


 冒険者ギルド


 「よし、入るか」


 「あー、まだ心の準備が出来てないっす」


 「そんなものは知らん」


 うわー、コイツ絶対チンピラに絡まれるわーこれ。

 テンプレだもん。

 この性格だぞ?


 俺の心配は杞憂だったらしい。


 両開きのガラス戸を開けると、タイル張りの床を超えた先すぐ目の前に横一列、受付用の長机が置かれていた。

 無論チンピラがたむろする隙間もない。


 イメージとしては市役所のような感じか。

 天井の明かりや床に至るまで白を基調とした作りで、とても小綺麗な印象を受ける。


 その受付なんだが…、いくつもの窓口があるが肝心の受付嬢が一人しかいない。

 しかもその受付嬢、机に突っ伏して寝てやがる。


 まさかコイツがチンピラなんて落ちも…、あるわけないか。

 だって制服着てるし。


 「え?これどうするんすか?」


 「うん。まぁ起こすか」


 「それもそっすね」


 受付嬢の正面に立つが、コイツが目を覚ます予感が一向にしない。

 つーかコイツ近くに来てようやく発覚した。耳が明らかに長い。

 これが俗に言うエルフってやつか。

 魔学でやったぞ。


 エニグマさんが突っ伏している彼女の横に置いてある呼び鈴を鳴らして、優しく起こしてあげる。

 俺ならこんな職務怠慢野郎机小突いて起こすんだけどね。

 ホント感謝してほしいわ。


 「んにゃ、おやおやお客さんかい?いやその制服、学園の子か…。ここじゃ見ない顔だね。よそから来たのかい?」


 訂正。

 彼女じゃなくて彼だった。


 黒いベストと白いワイシャツに身を包み、黄緑色の髪を長く垂らしたその男は起きて早々顎に手を当てて考え込む仕草を取る。

 色々とせわしないやっちゃな…。


 「冒険者になるのが初めてで登録をしたいんだが…?」


 「あー初めて?それじゃあ」


 彼は言葉を切ると、裏へ行ってしまう。

 返ってきた時に一緒に持ってきたのが、


 「えーっと、これが冒険者のマニュアルで…、こっちが諸々書く書類ね。これが魔力測定珠、ステータスと職業の鑑定は僕がやっちゃうから」


 「え?鑑定士の方だったのか?それはありがたい」


 「鑑定士?というかステータスって何?」


 「え?」


 「え?」


 あ、これ常識だったって奴か。


 「はぁ、肉体や精神を直接鍛えるのとは別途で、レベルアップによってあげられる追加補正の事だ。てっきり家庭教師に習っていると思ったが?」


 「いや」


 (何だよ!ここにきてのRPG要素とか聞いてねーよ。つーか自分が習ってたからって常識として人にまで押し付けるな!)


 「因みにそのレベルアップで得られる追加のステータスなんだけど、就いている職業によっても作用されるんだよね。」


 「そして、その職業を据える為の転職だが1日1人各地に点在する教会でしか受けられない。多額のお布施とともにな。ちなみに私は賢さと魔力量が上がりやすい『魔法師』という職業についているぞ」


 「あ、ずっこ…」


 「そのジト目は何を言いたい?…、分かっている。まずは君の転職用のお金を貯める所から始めよう」


 「お金を貸していただいたりとかは…?」


 「生憎、私も今後の生活費や来年の授業費を稼がないと行けなくてな。まぁ仮にあっても貸さないが。まだ君はそこに至るまで信頼を私から得ていないからな」


 「そこまでストレートに言われると、ちょっとへこむんですけど」


 「まぁ、これから積み重ねていけばいいさ」


 というか、侯爵家の人なのに自活しているのか…。


 「ハハハ説明ありがとね。それでそういった魔法の他に追加効果が得られるのをスキルっていうんだけど。『ステータス鑑定』っていうスキル持ちで尚且つ教会の方で修行してスキルのレベルを一定まで上げると、教会から鑑定士っていう資格、所謂お墨付きがもらえるんだよね」


 「普通のギルドだと、鑑定士に鑑定してもらうためのふるい落としとして試験があると聞き及んでいたのだが…?」


 「まぁ、他だと鑑定士呼ぶにもお金かかるしね。その分のお金は試験の費用として徴収しないとねー。まぁここで始められて良かったんじゃない?」


 「そうか…」


 若干落ち込んでいるようだ。

 試験と聞いて色々準備してきたんだろうな。

 俺は追加で費用がかかる予定だったことにびっくりだったんだけど。

 そういう大切なことは早めに言ってね?



 アノア・ヴィデルチェ  13歳   レベル:2

                  職業:なし


 HP :5

 MP :0

 STR:1

VIT:1

 INT:0

 RES:0

 DEX:0

 AGI:0

 LCK:0

 

 

 「…、まぁこれから上がっていくだろ」


 それから魔力量やら初期ステータスやら職業やらを計測・記録していく。

 勿論これらのデータは公開しない。

 冒険者ギルド側も適宜こういった緻密な測定を冒険者に促し、最適なクエストを提案。

 クエスト中の死亡事故を減らすような取り組みはしているらしい。


 「この転生者・転移者に該当の方は丸を付けて下さい。って何なんですか?」


 「そう言えば君魔力が無かったね?そうなのかい?」


 「あー、一応?」


 隣で彼女がギョっとしたのがわかる。

 そういえば言ってなかったな。こりゃ失敬。


 「やっぱり突き詰めていくとクエストの事故やミスマッチが多いのがここだったんだよねー」

 

 「あーなるほど」


 俺みたいな夢見る馬鹿がいっぱいいるってことか…。

 人の事言えねーな。


 「事故が起こらないように、少しパーティーや個人でのランクを低く見積もらせてもらう。その代わりにギルド提携のお店は少し安く提供させてもらうよ。」


 「ふむふむ…。安全にっと」


 俺は迷わず、丸をつける。

 まぁ受付の方に漏らしてしまったというのはあるが、未だに頭の中で叔母さんの声が響くからだ。


 「まぁ中には突き抜けた例外達もいるんだけどね。『勇者』とか」


 「あぁ、北の『勇者』が異世界人なのは有名な話だな」


 また有名って…。

 

 「『勇者』?」


 「冒険者ランク、Sランクのその先、魔族との戦いに参戦し、見事魔王を討って帰ったものは星付きと称される。」


 「王国から貰える勲章が元になったって言われてるね」


 「その星を6つ持ち、王国で一番冒険者ランクが高い男がソイツだ。」


 「つまり、6人も魔王を倒したと?」


 「そう、そして魔族から北側の領地を奪い取り、ドワーフ王国への道を切り開き、外交まで取り付けたのも『勇者』だ。今の鉄道による王国北部の経済の発展も元は彼の功績だと言えるだろうな」


 「すっご」


 「まぁ、そんな英傑をいち早く見つけて大切に育てる為にも、こういう制度があると忘れないほうがいいよ」


 「はぁ」

 

 そうした書類手続きが終わり、冒険者のカードが発行される。

 裏に偽造防止付きの陣が書かれてあるらしい。

 発行には銀板1枚、約1万円。

 また俺のお金が無くなっていく。

 早く稼がなければ。


 「はい、それでは改めてようこそ冒険者ギルドへ!良き冒険者ライフを心よりお祈りしておりますぅ!」


 「それで、何か良いクエストはあるのか?」

 

 「ありゃ…?おかしいな…。まぁクエストの更新が朝なので今の時間帯だとめぼしいものは無いかなぁ」


 「それじゃあ、また明日朝から来るとするか」


 「了解」


 「それじゃあまずは下ごしらえでもするか?」


 「それなら、そこの左手に繋がってる通路からギルド提携の酒場にいけるよー。」


 「ありがとう。安く済みそうだしそれではそちらに行くとするか」


 「それじゃあまた会おうねー」


 俺たちは手を振りながら別れる。

 何か終始フランクな感じだったが、冒険者ギルドなんて言う荒くれ者達の溜まり場みたいな所で仕事する方だ。

 あれくらい肝が太くなきゃやってられないんだろう。

 

 それから俺たちはギルドに併設されている酒場の方に移動する。































 「すいませぇえーん、ギルド長トイレ行ってましたー。」


 「…、トイレに何分かかってるんだい?便器が壊れるくらい長いうんちでもしてたのかい?嘘はダメだよ。」


 「だってぇ、この時間になんて誰も来ませんよー。私要らなくないですかー?朝はその分忙しいんですし、人件費削減とやらで早めに上げてもらってもいいんですよ?」


 「いや、一組新しく冒険者になった子が来たよ」


 「ぇえ!?どんな子だったんですか?」


 「一人はエニグマ侯爵家の人間だったよ。」


 「もう一人は…、とても面白い体を持つ子…かな?」

 

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