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第二十一話 冒険王に俺はなる!!

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 「やばい、完全に寝すぎた」


 あれこれ頭を巡らせた結果、就眠したのは深夜。

 その影響により起きたのはお昼頃、太陽が高い位置にあり日陰にいても反射光で体をジリジリと焼いてくるのがわかる。


 もうレオノラさんは出勤してしまった後だろう。

 顔を合わせることが無くなったのに安堵するべきか、はたまた…。


 気だるく若干の頭痛を孕んだ体を引きずり、食堂に移動する。

 時計を確認しにと、早めの昼食を取りに行くためだ。


 いざ移動すると、奥に見えるキッチンでは一人のお団子頭のおばあちゃんがせわしなさそうに皆のお昼ご飯を作っていた。

  

 腰が曲がりながらも、テキパキと無駄なく動くその姿からはとても年齢を感じさせない。

 長年の経験で培った熟練さが際立つ仕事ぶりである。

 

 「マイラさん、おはよう」


 「ん?あぁアノア様おはようございます。昼食を食べに来たんですか?もう少しお待ちください」


 「朝食の残りとかある?」


 「えぇ、ございますよ。只今温めますね」


 「あぁ、良いよ。マイラさんの料理は冷めてても美味しいから」


 「まぁ嬉しい。お口も達者になられまして、私とても感激ですよ。それでは…」


 マイラさんはこのお屋敷のメイド長、マルガレットさんのお母さんである。

 マルガレットさんと入れ替わり立ち代わりでもうご退職されているのだが、こうしてほぼ毎日館の方にご飯を作りに来てくれている。


 昔は私以上に厳しくて怖かったとはマルガレットさんの言である。

 厳しいって自覚あったんだね、あの人。


 まぁ今は見る影もなく、いつもニコニコして俺を我が孫のように扱ってくれる好好婆である。

 

 彼女の話では冷蔵庫の中に俺の分の朝食がプレートにして入ってあるらしいが…、あった。

 それを食堂に運んで口に入れ始める。う~ん、うまい。


 「そう言えばさ、叔母さん何か言ってなかった?」


 「はて?いつもと変わったとこは見られませんでしたが、何かございましたか?」


 「いや、無いならいいんだ」


 「そう言えば、お客人と何か話されていたようですが?それにしてもエニグマ侯爵家とはアノア様、良い方をご友人にされましたな」


 「そんなに凄いの?」


 「えぇ、武家の名門ですよ。現当主様は騎士団長を務められているという話ですし、傍系も含めて優秀な方を何人も排出されているとか」


 「へぇー」


 知らなかった。あの人自分の事話さないからな。



 とそこに当人登場、若干のむくれぎみである。


 「アノア君、遅いぞ!」


 「へ?」


 「へ?じゃない。今日ここを発つと言ったのは君だろう?冒険者活動をするために色々とやっておかなくてはならないことがあるのではないか?まったく…」


 「何で知ってるんすか?」


 「レオノラ殿が教えて下さった。『どうかアノアを頼みます』と。君今まで随分おんぶにだっこだったらしいな…」


 「えへへ、それほどでも」


 「褒めてない!!」


 エニグマさんに急かされるまま、ピッチを上げて食事を平らげる。

 

 「マイラさんご馳走様。後はお願いします。」


 「お粗末様、気を付けていってらっしゃい」


 「はーい…、それでどこ行くの?」


 「はぁ、着の身着のままで冒険者になるつもりか君は?」


 「あ」


 「まぁ最悪防具の方は制服や体操服で事足りるが、武器はどうする?丸腰でゴブリンと殴り合うか?ん?」


 「それもいいかもしんないっすね…」


 先のオリエンテーションで半分に欠けたナイフはとっくのとうに捨ててしまった。

 このままだとあちらで武器を買うことになるだろう。

 というか、そもそも『何しに来たんだコイツ?』と門番が入れてくれない可能性まであった。


 余りの先の見通さな加減に彼女も大層ご立腹のようである。

 着いて早々パーティー解消とかにならないといいな。


 エニグマさんはこれ見よがしに手に持っている鍵をひけらかす。


 「レオノラさんのご厚意で警備隊用の武器庫の中から好きな武器を持って行って良いことになった。まったく感謝することだな」


 「…」


 まずは旅発つための準備だ。

 と言っても着替えた後に、学園へ行くときに携帯したトランクをそのまま持ってくるだけだ。

 冒険者になる、ましてや昨日の今日で荷解きなどするはずもなく用意は一瞬で終わった。


 それから俺達は央都ヴィデルチェの方に移動し、領館傍の武器庫の中を物色する。


 「うわっ、埃臭い、汗臭い、むっとする、なんだここ」


 「はいはい文句言わない、君の領の武器庫だろう?」


 左側には重厚な鎧や内に着るかたびら、小手、脛当て、頭の防具などがカテゴリー別に大きい棚にそれぞれ収納されている。

 中には使ってからは洗ってないのか、発生原因がすぐさま特定できるほどかぐわしい香りを放っているものも存在した。


 エニグマさんは勝手知ったるとばかりに内部を物色、右側の壁に掛かっている長物には目もくれず、腰ほどの高さの棚に置かれている盾や傘立てにまとめて突き刺さっている直剣を1つ1つ手に取り、顔に近づけて物を確かめていく。


 恐らく俺に合う武器を選んでくれているのだろう。

 気分はショッピングでマネキン人形になる彼氏だ。

 まぁ彼女なんていた試しがないんだが…。


 暫くすると、いいものが見つかったのか、無造作にホームベース型の盾と無骨な直剣を手渡される。

 どうやら俺はこれから立派な片手剣士を目指して努力していくことになるようだ。


 「俺の意見は反映されない感じっすかね…?」


 「ん?気に入らなかったか?」


 「いや、もうちょい魔物と距離取れる長槍とかどうかなって…」


 「言い忘れてたんだが、君に任せる役割(ロール)はタンクだ。最悪両手で盾を持って敵の注意を引き付けてくれれば後は私が何とかしよう」


 「えぇ…」


 (タンクって…、痛いのは勘弁なんだが)


 とは言え、他に何かできるほど、武術も魔術も優れていないので渋々了承する。


 「そういえばあれ何なんすかね?」


 武器庫の正面、一番奥の壁に太刀が飾られている。

 意匠を凝らした鍔や周囲の留め具からして価値は相当のものだと予想がつく。


 がっちり固定されていることから、もし泥棒が入ったとしてもその留め具を壊さない限りは刀を手に入れることが叶わないであろう。

 

 「あれか、レオノラ殿はお触り厳禁とおっしゃっていたが、私も良くは分からん。が…」


 「が?」


 「…、いやなんでもない。先を急ごう」


 エニグマさんは叔母さんに最後の挨拶へ、俺はオース領行きの乗合馬車の発車時刻を確認しに大通りまで動いた。

 

 勿論隣領なので、物資や人の行き来も多く、主に向こうにはうちで作られた食料が輸出されている。

 馬車の本数も比較的多く、何とか次の便で2人分の座席は確保することが出来た。


 暫くして、発車時刻ギリギリにキャスター付きのトランクを引いたエニグマさんが現れる。

 というかほぼアウトだったんだが、何とか粘った。

 融通が利くことも田舎の魅力である。


 そのエニグマさんだが、隣に乗車して初めて気づく。

 手に何かを握っていたようだ。


 「ホントにレオノラさんに挨拶しに行かなくていいのか?」


 「…」


 「はぁ…、ほらこれ、君の叔母さんからの餞別だ」


 握っていた手のひらから首飾りと手紙をもらう。


 『アノアへ、気が動転して言い忘れていたのだけれど、あなたが在学中にあなたのお父さん、アーサーが領に戻ってきました。何処からかあなたが倒れたのを聞きつけたようでしきりに心配していましたよ。もうとっくに立ち直って学園に通っているというのにのんきな事よね。彼からの入学祝いがそのペンダントになります。』


 (そういう大事なことはちゃんと覚えといてよ…)


 銀のペンダントを首にかけ、シャツの中にしまう。


 まるい見た目の上方に立体的な鋭い出っ張りがあしらわれたそれは流動的なデザインが細部にまで施されていた。


 『最後に、あなたが私の事をどう思っているのか分からないですが、私はあなたを一人の息子として育ててきました。例えあなたが様々な境遇に合っていたとしても今もなおそれは変わっていません。それ故にとても心配なの。冒険者は体が資本よ。まずはちゃんと良く食べて、エニグマさんに迷惑をかけないように精一杯生きてきなさい。あなたの旅の無事を心から祈っているわ。たまにはちゃんと家にも帰って来なさいよ。親愛なるレオノラより』

 

 『追伸:来年にはあなたの幼馴染が、再来年にはアトスを学園に入学させる予定です。しっかり経験を積んで立派な上級生になることもお願いするわ』


 「まったく…」


 途中途中で濡れてかすれたような後があり、読み終わった後思わず涙ぐんで上を向いてしまう。

 最後にあれやこれやと矢継ぎ早に追加してくるあたり、実にレオノラさんらしい手紙だった。

 

 しかし、己が決意は揺らがない。


 「今から帰るか?」


 制服の袖で目をこすって涙をふく。


 「いや、このままいくよ。もう当分ここには戻らないから」


 「ふふ、私と同じだな。」


 「それって…」


 「さぁいこうじゃないか!!富・名声・力、この世の全てを手に入れに!!」


 「…」


 エニグマさん。それはまずいっす。

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