第十八話 芸術は爆発である!
「あれ?このままなんすか?」
3年生の競技が終わったにもかかわらず、のこり続けているこの薄青い空間に対し、俺は頭に浮かんだ疑問を素直に口にする。
「まだ2年生のメイン種目があるからな、ほら俺達も撤収してないだろ」
それに答えてくれたのは前にいるバーナード先生、隣ではエニグマさんがニコニコしながら、手に持った魔闘祭のしおりをフリフリしている。
ちゃんとよく見ろアホってところか…。
因みに俺は自分の出る種目以外には興味がなかったので、持ってきてはいない。
まぁ冗談はさておき、あざとい仕草をする彼女からの好意で中身を見せて貰う。
どうやら長いことやってきたこの魔闘祭も次で最後の種目になるようだ。
大部分は睡眠に費やしてしまったが…。
「棒倒しねぇ…、また魔法が入り乱れるカオスな展開になりそうだな。あ、そう言えば1年の全員リレーってどうなったんっすか?」
確かあれが1年生の目玉種目だったはずである。
そして、目の前にいるエニグマさんが自らも交えて、最も力を入れて特訓をした競技でもあった。
「あぁ、すまない。たしか2位だったな、青チームに遅れを取ってしまった。いいとこまでは行ってはいたんだが、バトンパスをミスしてしまった生徒がいてだな…」
「あー、しょうがないんじゃないですか?エニグマさんのせいじゃないですし、それでも2位とれたんなら儲けもんっすよ。俺も引き分けで人のこと言えないですし…」
「そう言ってもらえると助かる。イザベラ嬢が休んだと聞いたときは負けることも覚悟していたんだが、引き分けまで持っていけたのは君のおかげだ。」
「そんな…、エニグマさんの身体強化の魔法が凄かっただけっすよ、男の俺だとあんなに強化されるんすね!」
「…?」
「行くぞぉぉぉおおおおお!!!おめぇらぁ!!!!!!!」
先ほども聞いたような声が再び会場に響き渡る。
グラウンドを見ると、選手達が入場し足早に準備を始めている。
置かれている棒が3つあることから、棒倒しも騎馬戦同様バトルロワイヤル方式でやるらしい。
まぁハードな試合を2戦もやると、体力的にも魔力的にも辛いからといった兼ね合いもあるのだろう。
というかさっきの掛け声は2年生のレオニダス先輩だったのか。
3年生の種目に出たのに、追加で出ていいのか?分からない。
3年生に対して、リーダーシップ取ってため口かよ。とかそもそもその掛け声要らなくね?誰もやってないぞ、恥ずかしくないの?とか彼のことを考えながら頭の中で色々とツッコんでいると、ようやく準備が終わったらしい。
2年生の方ではどうやら先ほど教わった”プレッシャー”とやら見れないようだ。
3種の色のチームがそれぞれ守備と攻撃に分かれて、合図を待っている。
どのチームも守備に割く人員がものすごく多い。
先ずは集中狙いされるのを避ける為に、様子見といったところか。
攻撃側は外周を走るなどのルールはなさそうで、必要に応じて攻撃側や守備側に加勢出来る仕組みになっているようだ。
「それでは最終種目です!皆さんスリーカウントをお願いします!」
中央の拡声器から陽気な声が響き渡る。
どうやら盛り上げ上手な進行役の方もいるらしい。
「「「3!!2!!1!!スタァァアートォォオ!!!」」」
会場が一つになり、声を重ね、場を震わせたのを契機に今年最後の試合が始まる。
次の瞬間
「「バァァアアアコォォォオオオオン!!!!」」
「な!?」
凄まじい音とともにグラウンドが爆発。
会場全体に熱風が吹き荒れる。
「お前ら!!!伏せろ!!!!」
真ん前は黒煙が激しくてまともに見ることができない。
周りの生徒誰しもが余りに突然の出来事に唖然としていたが、先生からの指示に従い、皆地に伏せ頭をガードしている。
燃える音とカッカッという固い物が地面に当たる音、先生達の怒号がやけに鮮明に響く。
「アクーニャ先生!!」
「『大雨』!『最大の水』!」
「ダメ!火が消えない。何で!?」
「クソが、近寄れねぇ…」
突風と砂埃にさらされながらも、手でひさしを作り前を確認すると、目の前にバーナード先生が確認できた。
左右に防御魔法陣を敷きながら、自らを剣で守りつつ血だらけになりこの場を耐えているのが辛うじてわかる。
恐らくあの防御魔法は俺達を守る為のものなのだろう。
一瞬であったか、はたまた永劫にも思えたこの地獄の時間は唐突に終わりを告げる。
黒を纏った爆炎や突風が瞬きをするより早く、忽然と消滅する。
やっと終わったかと思い、いざグラウンドを見てみると、
そこには焼き焦げた何かが無数に横たわっていた。
遅れて炭のような臭いが鼻を刺激する。
「うぇ」
凄惨たる有様に吐き気を催す。
実際にショッキングなものを見て、嘔吐する生徒もちらほらと見受けられる。
それからバーナード先生は隣にいたアクーニャ先生にその場を任し、状況を確認しに行った。
グラウンドでは大人達が方々に回って、生徒たちの体を魔法で再生させているのが分かる。
「あ、フローレスさん…」
白衣を着た保健室の先生も同じ服を着た方と共に、生徒の回復に勤しんでいる。
働き始めた初年度にこんな残酷な大事件が起こるとは思っていなかったであろう。
その体をありありと戦慄させながらも必死に手当てを施している。
「大丈夫だ。きっと校長が何とかしてくれる」
「大丈夫って…、あれ絶対死んでるでしょ!?」
「死んでても生き返れるのが校長の魔法だ」
「生き返るっつったって、生徒たちの心のケアまでは出来ないっすよ…」
俺のそう言った心配に反して、生徒たちの体の再生は他の先生や保護者までも加わって滞りなく進んでいく。
今回は木端微塵にされたような遺体などはなく、凄腕の彼らには体を元の状態に戻すだけならば比較的容易だったのであろう。
そして、体が戻ってしばらくすると、ムクッと独りでに生徒が体を起こす。
その様は、不謹慎にもまるでゾンビが蘇ったかのようであり、ゾっとした。
果たしてあれで生き返ったのが本当の自分だと言えるのだろうか?
RPGなどでゲームオーバーするのとは訳が違うのである。
死んだことがないので、全く持って謎である。
あ、死んだことはあるんだった。
「俺達いつまで待機してればいいんすかね…?」
「分からない。が、全員の救護と犯人の洗い出しが終わるまでは帰れないだろう。」
そう言い切ると、エニグマさんは頬をさする。
少し切り傷が出来てしまっているようだった。
「それにしても、今回の犯行、殺意が高すぎるな」
辺り一面、特に前方のバーナード先生がいたところには無数に釘のような鋭いものが落ちていた。
爆風に乗っかってこんなものが吹っ飛んで来たら、俺たちは一溜りもなかっただろう。
改めて命の恩人である先生にはお礼を言っとかないとな。
「今回の件、最小限に抑えられたとはいえ、学園の糾弾は免れないだろうな」
彼女の横顔は憂いを帯び、魔闘祭がどうなどとは言ってられない。
そんな顔をしていた。
「ギータ君達大丈夫かな…」




