第二話 ここどこ?
目が覚めた。
というより意識を取り戻したという言い方の方がこの場合正しいのかもしれない。
なぜなら、どういう訳かはわからないが、すでに直立していたからである。
とりあえず辺りを見渡してみる。
あたり一面真っ白で少し目がチカチカするが、どうやらここはどこかの建物の中らしい。
上下左右を壁に囲まれた幅2mほどの細道である。
前後はどこまでも白く続いていて、見る限り終わりがないかのように思える。
またところどころ横道が繋がっていて、ここからだとまるで迷路の中に迷い込んでしまったかのような、そんな錯覚に駆られてしまう。
そして軽くスルーしてしまっていたが、眼前に2脚の椅子1卓の机とともに、脚を組んで優雅にティータイムとしゃれこんでいる者に再び視線を向き直す。
その男は俺に意識を向けられたのを感じるとソーサーとティーカップを机の上に戻し、両手を膝の上で組む。
「座って」
とても中性的ではあるが、確かに男性の優しい声であった。
その声に促されるままに俺は歩みを進め、男の対面にある椅子の上に座る。
「一杯いかがですか?」
「あの…、喉乾いてな」
「飲んで」
前のめりになり両手で頬杖を突き始めたその男性、というか超絶イケメンはニコニコしながら飲み物を進めてくる。
笑顔を取り繕ってはいたが、俺の今までの人生で培ってきた観察眼を舐めちゃいけない。
目が笑ってねーよ、メチャクチャこえーよ。
改めてこのイケメンを見てみる。
金髪短髪直毛で、まるで物語からそのまま出てきたかようなかっこいいい顔立ちをしている。
服はネクタイなしの白スーツに黄色い縁のアクセントが彩られている。
正直上から下まで様になっていてちょっと嫉妬してしまう。
そして何よりも彼が何者であるのかを一目見てわかるのが、彼の頭上にまるで蛍光灯のように、そしてギャグみたいに煌々と光り輝いている輪っかである。
そんなこともあり、明らかに上位者であるこのお方の半ば命令じみたお誘いを断れるはずもなく、俺はティーカップを口に近づける。
ちなみに中身は毒々しい紫色をしていた。
「これ、中身なんですか?」
「ブドウジュースです。果肉入りですよ」
「そこは紅茶じゃないんすね…。」
互いに一口ジュースを飲んで一息つく。
うーん、この間はなんだ?
「あの…、ここはどこなんですか」
「うーん、地球の方に分かりやすく説明すると、ここは現世と黄泉のはざまという感じですかね」
「天国とか地獄とかじゃないんですね」
「天国とか地獄は黄泉の国で裁かれてから分かれていく場所といった形ですね」
「へー、あっ浅学で申し訳ないです」
「いえいえ」
彼が優雅に一口ぶどうジュースを啜る。
またテーブルの上にあるボトル…、恐らく中にこれと同じジュースが入っているのであろうそれをクイクイッと回したり、貼ってあるラベルを眺めたりしている。
「えーっと、あなたは天使様なんですか」
「神です」
「神?」
「…冗談です、あなたのその認識で合ってますよ」
フフッと天使(暫定)が軽く笑う。
オタクとかがやると惹かれそうな動作一つ取っても華麗でまるで人間味を感じさせない。
さすがは天使、そこにシビれる!あこがれるゥ!
ってな。
「……はぁ」
(天使様も冗談とか言いたくなるんだな…、というかさっきっから受身ばっかでメチャクチャ話しずらいんですけど…、ここに呼んだのアンタでしょ?もうちょい自発的に話してくれるとありがたいんですが)
そんな俺の心中を察したのがどうかはわからないが、不意に天使が口を開く。
「あなたがなぜ死んだのか聞きたくないのですか?」
「……え?」
俺が死んだ?
……え?
俺は今までずっと夢の中にいると思って、半ば適当に物事を進めていた。
その言葉に感化され、まるで冷や水をぶっかけられたがごとく、急に背筋が寒くなっていく。
この変な白い空間に入る前の直近の記憶を思い出す。
あの時は駅の改札から家に帰る途中で、変な声がしたと思ったら、胸が急激に苦しくなって…、それで…、
「そうだ!あの俺を助けようとしてくれた女性の親子は?」
「…?あぁ、あの親子が駆け寄る前に、あなたの心肺は停止していましたよ」
「いや、それにしたって人工呼吸とか、AEDとか…」
「んー、良くはわかりませんが…」
そう言葉を切ると、確かこうだったかと、天使は一人でにブツブツと呟き始める。
唐突に彼が両手を上げる。
右手は俺から見て左側の中空に、左手は手の平をこちらに突き出している。
身に着けている赤い腕輪が印象的だ。
右手がお箸を持つような指先の形から、まるでスマホの画面をズームするかの如く、親指と人差し指を離すような動作をとると……、
どういうわけか画面が映し出されるではないか。
その画面を見ると、ここは…病院だろうか?
布を掛けられた一人の男の動画が映し出されていた。
顔はわからなかったが、服装や近くで立ち尽くしている父親や台の脇で顔を突っ伏して泣いている母親を見る限り……、
あれは俺なのだろう。
顔をつねって見たりするが、もう遅い。
俺は今さらながらに起こっていることが現実なのだと認識した。
「俺は…、死んだのか」
「わかっていただけたようで」
「なんで死んだんだ?」
「心不全です」
「嘘だ!俺はあの時、確かに聞いたぞ!」
(そうだ!俺は確かに聞いた。『じゃあ、殺してあげますよ』という言葉を激痛を覚える寸前に!しかもあの時の声はこいつの声と全く一緒だった!忘れるはずもない!)
「あぁ、覚えているじゃありませんか?そうです、私があなたを殺したんですよ」
「なんで……」
「それはあなたが死にたいといったからじゃありませんか?」
俺はあまりの理不尽さに愕然とする。
(なんで俺なんだよ!この世の中に死にたいなんて言ってるやつ腐るほどいるだろ!なんで俺だけ…)
別に本当に辛くなったのなら、会社を辞めて一呼吸置けばよかったのだ。
それがほんのちょっと弱音を吐いただけでこの有り様である。
深い悲しみと申し訳なさ、後悔とで俺はこの画面を見ないという選択肢もとれず、はたまたまともに直視することも出来なかった。
俺の態度に何か思うところがあったのか、天使が眉をへの字にし、悲しそうな顔をする。
「申し訳ありません。天使といっては何ですが、私こちらに派遣されてきたばかりでして…、つい先ほどまで死にたいといった方々は全員黄泉送りにして良いと思っておりました。」
「嘘だろ…、そ、そんな横暴なことをして大丈夫なんですか?」
「上司の方々は些事はあまり気になされなくて…、以後気を付けたいと思います」
「あぁ」
(随分と大雑把な神共だな、マジで。今更反省してもおせぇんだよ!おかげこっちは大迷惑なんだよ!ふざけんな!)
「あのぉ~、生き返れたりとかは?」
「無理ですね」
「ですよねぇ…」
勿論この天使に今すぐにでも罵詈雑言を吐きかけてやりたいが、圧倒的上位者様であるこの人に負け犬根性染み付いた俺がどうこう言えるはずもなく、かといって絶望と憤怒が入り混じった顔を隠せない俺を見かねたのか、天使が助け舟を出す。
「転生…という形であれば可能かもしれません」
「地球にですか!?」
「いえ、地球であれば記憶はすべてリセットされます」
「それじゃあ、死んだのと何も変わらないじゃないですか…」
「異世界…への転生はどうでしょうか?剣と魔法が栄える楽しい世界ですよ!そこでなら今の記憶そのままで行かせてあげることができます」
「…他に方法はないんですかね?」
「はい」
「…、ではそれでお願いします」
(なぜかトントン拍子に事が運んでいる気がするが……、気のせいか)
今更どうこう考えても、この天使にどうこう言えるはずもなく、また何も方法が浮かばないんじゃ、このやり方に縋るしかないと俺は腹をくくる。
すると、突然天使が思い切り立ち上がり、椅子を後ろに弾き飛ばす。
そして両手を広げ、とても興奮し満面の笑みを浮かべる。
「ウエェェルカアァァム!!!それでは私の異世界に!!!1名様ごあんなあぁぁい!!!」
「ちょ!まっ!」
(まだ話したいこと沢山あるんだけど!!特に異世界で役に立つチートとか!チートとか!!)
恍惚とした表情とも言える笑みを浮かべ、自らの世界に入ってしまった彼を止めるすべはもうなく。
いきなり俺の真下の床、半径2メートルほどがなくなり、どうにもこうにもこの場に残る手立ての無い俺はそのまま椅子とともに落ちていく。
「ちょぉおおっっっつとまってよぉぉおおお!!!」
「さぁ、楽しい楽しい冒険の世界へ!!いってらっしゃぁああい!!」
『すべてが終わって、また再び会える日を楽しみにしていますよ…』
辺り一面が虹色の空間に飲み込まれ、態勢もろくに取れず、猛スピードで落下しながらも俺の脳内は割かし冷静だった。
それはまだ見ぬ異世界への興奮によるものがあったからなのかもしれない。
(というか豹変したアイツ、ホストみたいだったな…、あと落ちる時あいつと机浮いてたんだが?さすが天使だわー…。あいつマジでいつかいっぺんしばいたるわ!!マジで!!)
などとどうでもいいことを考えながらしばらくして。
やがて視界が再び暗転する。
(そう言えば最後に犬の鳴き声がした気がしたが……、まぁいいか!!)
まだまだ、始まったばかりの作品ですので、長い目で見ていただければと思います。
投稿頻度に関して何ですけど、自己満の作品ですので、失踪しない程度に、気ままに書いていければと思っております。申し訳ございません。