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第十六話 綱引きはより腰を落とした方が勝ちます

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 (くそ!F組が分をわきまえろ!)


 あの言い草、あの目つき、全てがムカつく。

 俺にとってこの綱引きで障害になるのはA組の奴らだけなのだ。

 たとえA・F組のリーダーだろうと断じてお前ではない!


 まぁ可愛らしい顔をしているのは否めないが…。

 

 あいつらには1回勝ってるし、今回のダークホースであるエニグマも試合を見た限りそこまで対した奴ではなかった。

 勿論実戦での戦闘では勝ち目はないのは分かっているが、こと今は綱引きである。

 魔法も使えて、筋力でも勝っている俺達に負けの目など断じてない。


 のであるが、なんなんだあの自信。嫌な予感がする。


 「それでは!両者位置について!」


 セットの合図が鳴る。

 それでもいつも通りにやるだけだ。


 先ずは前に戦ったときと同じ戦術、全力で踏ん張りつつ、魔法なしで様子見だ。

 素早く一番前からサインを送る。


 一番後ろに強い奴を置くのがセオリーではあるが、俺はそうは思わない。

 俺たちは個ではなく群れで争っているのである。

 少し引っ張る力が上がったとて、最前線で素早く全体を指揮できた方が絶対に勝ちを拾えることができると俺は信じている。


 「始め!」


 素早く鉄製の鎖を持ち、引っ張り上げる。


 お相手氏は…、魔法全開だ。


 読み通り、ここで後ろが踏ん張ってくれれば筋力で勝る俺たちのカウンターが前回同様ぶっ刺さる!

 

 魔法が切れた!

 

 「行くぞ!お前ら!こっちも魔法展開だぁあ!!」


 「「オーエス!オーエス!」」



 ん…?いつもより綱が…引けない?

 

 前を見ると、後ろの方で1人赤い魔力をまき散らせながら己を強化する生徒が見えた。


 (お前だけ魔法を温存していたのか?エニグマ…、だがお前だけで何ができる!)


 「おい!もう少しの辛抱だ!あと少しであいつらは完全に消耗する!」


 数秒ほど待って後、向こう側最後の一人の魔力も潰える。

 少し魔法が切れるのが早い気がしたが…、まぁいい。


 「行くぞ!オーエス!オーエス!」


 あれ…、綱が引けない…、だと!?


 嫌な予感が怖気という実体となって、俺に襲い掛かる。


 おかしい。

 そもそもエニグマ一人が魔法を使っていたとて、俺達の攻勢を抑えることが出来たのか?


 さらに不幸は重なるようで、筋力と魔力を同時に酷使し、いわゆる全力疾走後のスタミナ切れ状態になって来ているこちら側の生徒も増えて来た。

 疲労からか、呼応する掛け声もここなしか小さくなったように思える。


 しょうがない、俺とは違い、こいつらはまだまだ実践を経験していないペーペー共だ。

 ここら辺は想定通りだといえるが…。

 

 問題はあちら側だ。

 いくら足をめり込ませて、踏ん張ったところで筋力の差は埋めようがない。

 直ぐに果てるのが関の山だと踏んだのだが…。


 向こう側の1人が急に綱を離し、後ろを振り向く。

 その髪は白髪で、誰が振り返ったかは一目瞭然だ。


 その人物は直ぐ後ろのアンカー役、アノアといったか?に魔法をかける。

 アノアが先ほどのエニグマ同様赤みがかり、勢いよく雄叫びを上げた途端、


 鎖が一気に向こうに引っ張られ始める。


 「は!?」


 嘘だろ!?そんなことあっていいはずがない!これは団体で競う競技だぞ?

 綱を離す余裕なんかかましてる奴らに決して負けるはずがない!


 俺の心意気とは反するように敵側に威勢や掛け声、鎖の綱が傾いて行くのを感じ絶望する。

 

 「それまで!!勝者A・F組!!」


 これまでの緊迫した雰囲気から解放されるように会場がドワッとざわめき立つ。

 

 パワーバランスというものがない以上、こういった全組引き分けになるケースは少ない。

 観客からは余程いい試合であったと好評のようだ。


 だが、俺は納得しない。


 「絶対何かカラクリがあるはずだ」


 魔法や魔道具による不正は”バレなきゃ犯罪じゃないんですよ”スタイルが普通である。


 鎖にでも細工をしたのであろう、俺が暴いてやる。


 まるで戦いを労うかのようにA・F組側の陣地に歩いていくと、陣地一番奥ではしたなく土のグラウンドに横たわるアノアがいた。


 「お疲れ!いい勝負だったな!」


 「あぁ、ありがと。ちょっと筋肉痛になっちゃって」


 アノアに手を貸して起き上がらせつつ、己の本懐を遂げようと鎖の綱を調べると…、



 鉄製の鎖の綱に圧倒的な力で握り潰されたかのような跡が…


 「君…、これは…?いや」


 声をかけようとした所で、方々から視線が突き刺さる。

 敵チームが何しに来たんだと言ったところであろう。


 「またいつか勝負するために、お前の名前は覚えておくぞ。アノア」


 「あぁ…?」


 悔しい。圧倒的な力を前に平伏させられたような感覚だ。

 F組やE組といっても入学試験の成績が良くなかっただけで、ああいう圧倒的な能力を持った人間がいるかもしれないという可能性を見落としていた。


 夏休み中に父上に頼んで訓練の質を上げ、またアイツにリベンジする。


 そう心の中で誓いながら、その人物ミゥラー(・・・・)は静かに己が場所に去っていった。



* * * *


 「何か去っていっちゃいましたね…」


 「あぁ…」


 お互いの健闘を称えたかったのか、ミュラー氏はこちら側に来て、倒れ込んでいる俺を持ち上げた後、そそくさと去っていった。


 帰り際に変な視線を向けられた気がしたが、決してその類の誘いではなかったと信じたい…。


 「はぁ…、戻ってご飯食べて…、しばらく寝るか」


 「まだお昼には早いんじゃないか?」


 「いいの!何かお腹空いたし…、その方が長く寝られそうなんで」


 「そうか…、まぁ魔闘祭のメインイベントになったら起こしに行こう」


 「え!?来なくていいっすよ!」


 「まぁいいじゃないか、どうせ割り当てられた場所は隣なんだし…、まぁその必要もないだろうが…」


 「…?」


 俺達は周りのA・F組に混じって、観客席の方に移動する。

 つっても、グラウンドの端っこに白線で、ここからここと区切られて、ただブルーシートが敷かれているだけなんだが。


 …、A組の方は何か木陰の下に敷かれているのはなぜですか?

 格差ですか?そうですか。


 見る限り、シートはかなり広く、自前で小さい椅子なんかも持ってきてよさそうだ。


 俺は青い陣地に倒れ込むなり、眠気に逆らわずゆっくりと意識を落とす。


 「おっ!ギータ君戻ってきましたよ」


 「アノア氏!良く勝てたござるな!」


 「…」


 どうやら眠るのに手こずりそうだ…。


 もうお前ら一旦寝かしてくれ!体の節々が痛いんじゃー!!


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