第十二話 終わりの見えない戦いは普通より長く感じます
ノソノソと現れたソイツは先ほどのヒグマよりかは少し大きかったが、それほど変わりはないようには感じた。
ある一部分を除いては…。
「ウッ風雅熊…。」
「ウインドベアとは何でござるか!?」
「ウインドベアは龍庭山脈が直下、神淵の森など、危険な森の深部で確認されるような…、魔物です」
「魔物!?魔物はいないんじゃなかったのか!!」
「そんなこと僕に言われても…、あの緑の鶏冠や胸毛、長い爪は特徴に合致しています」
ウインドベアと少しの間を開けて俺たちは対峙をする。
俺は後ろに転がっているヒグマとの死闘が脳裏にフラッシュバックした。
『グルゥゥゴァァァア!!!』
唸り声と共にパッと相手が立ち上がり、片方の手を振るう。
「くっ!?ごはっ!」
おそらく魔法であろう、鋭く薄い風の刃が無詠唱で飛んでくる。
刃渡りの小さいナイフで受けることが出来たのは奇跡だったと言えよう。
しかし、衝撃までは受け止めることは出来ず、崖まで吹っ飛ばされる。
手元を見ると、ただでさえ頼りなかったのに、さらに刃が半分に欠けてしまったナイフがある。
「アノア君!!」
「ギィィイータァア!!魔法!!」
ギータ君がすかさず、ウォータボールを唱える。
が、そんなものはお構いないなしと、もう片方の手を振るい…。
その衝撃はウォーターボールを貫通し、俺のすぐ真横に浅く傷が刻まれる。
水球が壊れ、中から2人が出てくる。
慌てて俺もそちらに向かい…、遅れて合流する。
ギータ君がわき腹を抑えている、決して傷は浅くはなさそうだ。
『ゴルゥゥラァァアア!!!!』
倒れ伏す熊を横目に見たソイツは緑色の魔力を辺りにまき散らし、俺達に威嚇をしてくる。
奴から向けられている殺気に足が…、動かない。
万事休すか…。
それでも…。
最後に…、俺は最後に一矢報いたい!!俺はまだ死にたくない!!
「うぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!!」
半分に欠けたナイフを手に、咆哮。
恐れや殺気、何もかもを振り払い俺はその化け物へ一人駆け出す。
魔石を内包した熊は仁王立ちのまま、両腕を開く。
また風の刃か…、はたまた飛び掛かってくるか。
どちらでもいい、刺し違えてでも一緒に地獄へ送ってやる!!
俺とウインドベアが交錯するその瞬間、
爆音・爆風とともに、熊の頭が地面にめり込んだ。
「なぁ!?」
「魔物風情がぁ!!我が学園の生徒に!!手をだすなぁ!!」
声がした方、はるか上空を見上げると…、なんとあのクソ眼鏡教師、エヴァン先生が浮遊していた。
彼はゴニョゴニョと口を動かしたかと思うと、陣すら構築せずに現象を発現させていく。
対象は俺の目の前にいるウインドベア、這いつくばったこいつの体に”不可視の大砲”が、ドゴッドゴッと何発も撃ち込まれる。
体中の骨が折れている、おそらく立ち上がることも出来ないだろう。
「アノア君、下がりなさい…。『 爆発』」
少しづつ降りて来たエヴァン先生に従い、俺はその場から捌けると、熊の頭部が爆発四散する。
辺りに肉片が飛び散り、余りのグロさに約一名嘔吐している。
彼は一仕事終わったとばかりに、俺が倒したヒグマの方をちらと確認すると、何もなかったかの如くこちらに向き直る。
「ふぅ。さて、何でこんなものがここにいるかはさておき…、とりあえずあなたたちの中に死者が出なくてよかったです。」
「…何で、こんなところにいるのかとかは聞かないんですか?」
「…、とある生徒からの密告がありましてねぇ…」
そういいながら、彼は俺達3人に2枚の写真を見せてくれた。
丁度、俺らがあいつらに蹴り落とされている場面である。
なるほど、大体の事の顛末をここから把握し、急いで飛んできたということだろう。
「この写真を証拠とすることで、恐らくこいつらは退学処分になるでしょう…。ったくバカな真似をしやがって…」
そう言ったエヴァン先生は僅かに顔を顰めた。
まぁ受け持っているクラスの生徒だ、少なからず思うところはあるのだろう。
「とある生徒とは誰でござるか?」
「ん?あぁ、お礼を言いたい気持ちはわかりますが、口止めされていてましてね、私の方からは何とも言えません。向こうからのアプローチが来るまで待つしかないですね」
「一体誰何でしょうね…」
それから、俺たちは2人が先生の手に掴まり、俺は先生の使い魔の足に掴まることによって、元居た場所に戻ってくることに成功する。
元居た場所にあの3人組の姿はなかった。
そして先生も含めた4人で何とかゴールまで辿り着く。
因みに、棚から牡丹餅であったが、あれからなんとギータ君が金のキューブを持っていることが明らかになった。
屑共と探している時にホントに見つけて、あいつらがやろうとしていることに気付くのが遅れたらしい。
これでなんとか最下位グループを取るのは回避できるのではなかろうか?
因みにエヴァンルールでうちのクラスの最下位は罰として中期試験前にレポート提出だ。
魔物の件については、先生が『こちら側で調べる。くれぐれも生徒への混乱を防ぐため他言無用で』と頼まれた。
それにしても、何であんな怖い魔物がこんな所に出たんだろうな…。
* * * *
「あら、死んじゃった。」
「?どうした」
「いやね、人工魔石を埋め込んだ子なんだけど」
「あれはもう終わったことだろう…。寿命じゃないのか?」
「こんなに早く死ぬなら子供なんて産ませられるわけないでしょ?まったく…、コビリアはたしか今頃は学園が遠足に行ってたはず…」
「じゃぁ、教師共が掃除したんだろ」
「まぁそうね、未開の奥地に離してあげておいたはずだったんだけど。もういいわ」
ここは王国のとある研究施設の一画。
2人の男女が会話を交わしていた。
アノア達の影にはまだ見ぬ悪が潜んでいるのだが、彼らはまだそれを知る由もなかった。




