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幕間 とある武術訓練の授業にて

とーろく、とーろく、とーろく♪


 「よーし、それじゃあ二人組になってくれ!」


 多くの人間のトラウマを呼び起こすセリフである。


 むしろこの言葉から身を守るため、人類ははるか昔、旧石器時代から集団で行動しているに違いない。


 ここは第一運動場の一角、つい最近から始まった選択必修の武術を俺たちは受けている。


 武術の先生はバーナード先生。

 今はAクラスの担任をしているらしい、V字もみあげの奴である。

 ここに来る前はなんと冒険者をしていたらしい。


 生徒数は21人。

 半分より少ないのは、ここに入ってくる大体の奴はそれなりに魔法を使えるからであろう。

 これでも、今日は武術と魔法どちらも受けている生徒がちらほらいるので、多い方ではある。


 因みに誰しもが両方の授業を受けられるわけではない。

 入学試験では2つの試験を受けることが出来たのだが、両方で高得点を出すことが出来た場合にのみ、試験でプラスに加点され、さらに入試で受かった人間が、この両方の授業を受けることが可能となる。


 もちろんうまくいけば、さらに他の生徒より成績の上限を上げられるし、教養の分野で取れない分、体を動かして点を取ることも可能である。

 むしろ、そういう奴らのための措置なのであろう。


 しかし、出席は毎回どちらか1つしか出られず、試験では2つ分の試験を受けなければならない。

 この両の果実を得るためには、よほどの努力家か天才、はたまたドMのいずれかでなくてはならないのである。


 まぁ、本来やらなくてもいいことをやるなんて全員ドMか。


 さて、昔の俺であれば、アタフタしている間に一人になり、毎回先生と組むか3人ペアで気まずくなっていたが、ここでの俺はひと味もふた味も違うことを教えてやる。


 「おい、マロロ野球しようぜ~」


 「アノア…、野球は関係ねーだろ…」


 俺が無理やり肩を組んでいるこいつはルームメイトのマロロである。

 茶色いイガ栗頭が特徴で、野球部に絶対一人はいるであろう奴だ。


 こいつの親父は騎士団に所属しているらしく、度々剣術を教わっていたらしい。

 そんな奴が魔法訓練の方に行くわけもなく、今こうして組もうとしているわけなんだが…。


 段々とペアが組まれ始め、余っている者の中でも、隣同士や前々から気になっていた奴に声をかけたりして、あっという間に未だに組めていない奴が少なくなっていく。


 そして、その中には知り合いが一人。


 (あぁ…、嫌な予感がする)


 案の定、ビクビクして周りに話しかけられず、冷や汗を垂らしながら、顔を俯かせる眼鏡の姿があった。

 ついにペアを組めていない子は彼一人になり、周りからは『おい、これどうするんだ…』という雰囲気が流れ始める。


 「わりぃ…、イガグリン、俺あっち行くわ」


 「おい!お前から声かけてきてそりゃないだろ…」


 「お調子者のお前なら、たとえ先生と組むことになっても大丈夫だろ?」


 「いや、それとこれとは…」


 話の途中で俺はそちら、デルパー君がいる方へ向かう。

 顔を上げた彼は目にいっぱいの涙を浮かべ、軽く泣きじゃくっていた。


 (そんな顔すんなよ、たかが授業の1コマじゃねぇか…。って割り切れないよなぁ、まだ12、3かそこらだし。グループを作って何かしてって経験もないんだろうな…)


 「デルパー君、一緒にペア組もうよ」


 「ふぇ…?い、一緒にペア組んでくれるんですか?」


 「おうさ!困ったときはお互い様!だろ?」


 


 「おーい!それじゃあペアは組み終わったな!人数的に余りがいるはずなんだが、余りは…、マロロだな!よしこっち来い!俺とだ」


 彼がこちらをジト目で見てくるので、手を合わせておく。


 許せ、今度学食おごってやっから。


 ペアになった者同士で、教えてもらう型の確認や素振りを1つ1つ行っていく。

 そして、最後に実践だ。

 今までに教わった構えと振り方だけで、練習試合を行う。


 スイミングキャップのようなものを頭から被るのみで基本上からつける防具はない。

 長袖、長ズボンである、学校至急の運動服はちゃんと対衝撃の魔法陣が編み込まれており、込められた魔力が尽きない限り、怪我から身を守ってくれる。


 色んな説明を行い、見本としてマロロをしばき上げた後、最後に先生は『たとえ熱くなったとしても、頭を狙った攻撃は絶対やめてほしい』とのことだった。


 腐っても扱うのは木刀、当たると衝撃でびっくりするし、万が一顔の守られていない部分に当たったら最悪死ねる。まぁ当然だわな。


 デルパー君と剣を挟んで向かい合う。

 彼は上段で。

 俺は木刀の峰を肩に置き、剣を顔の横に持ってくる、覚えたての八双の構えで互いに対峙している。

 彼のプルプルと震える剣先が彼の心情をそのまま表しているかのようであった。


 しばらく見合っていたが、やがて痺れを切らし、己を震わせた彼が掛け声とともに大上段で振りかぶって向かってくる。


 「いやぁあああああ!!」


 俺は構えを解き、半身になりつつ一歩下がる。

 だってこいつ目つぶってるんだもん。


 というか、あなた先生の話聞いてましたか!?殺す気ですか!?コイツ…。


 思いっきり見当違いのところに振り下ろした彼の背中に、鋭い剣筋が飛んでいく。


 「あいたっ!?うわっ!切られたぁあああ!死ぬ死ぬ!!!」


 そのまま前方にすっころんだ彼は執拗に背中をさすりながら、叫び散らかす。

 周りが『なんだなんだ!?』とこっちを野次馬してくる。

 

 (あーあー、また悪目立ちしとるよ…。勘弁してくれ、俺は決して問題児じゃねーからな?というかこいつ…)


 「大丈夫だって、切られてないから…。というかデルパー君、武術やった経験はあるの?」


 彼は眼鏡のポジションを直しながら、ヨロヨロと立ち上がると、


 「学園に入ってからの武術訓練が初めてです…。ついでに言うと魔法も使えないです」


 「あー、そりゃ難儀なことで」


 いくら、お受験用のチャンバラやセバスさんにボコボコにされた経験しかない俺でも、彼の剣術は論外であることがわかる。


 気持ちはわかるが、敵を前にして思いっきり目を閉じながら振り下ろすのは、さながらスルスルと動くスイカを目隠しして割りに行くようなものである。


 あれ…、たとえ下手だった?

 まぁいいや。


 とりあえず、その振りおろしもお粗末なんじゃあ、敵前逃亡するより勝率が低いただのカモであると言えよう。


 「まぁさ、武術訓練は一応成績にも入るし、俺も教えるからさ、一緒に頑張っていこうぜ」


 「はい…、お願いします」


 「代わりと言っては何なんだけどさ…」


 さっきのデルパー君のセリフで分かったことがある。

 武術も魔術も使えない彼が一体どうやってこの学園に受かることが出来たのか。


 「暇な時でいいから、勉強教えてくんね?ついでにあそこで伸びてるマロロにも」


 「いいですよ」


 そう、きっと恐ろしく頭が良く、学習意欲も高い子なのであろう。

 この学園はそう言った一つの才能に特化した人材を見捨てない場所だ。


 よし、これでマロロへの借りも、即日返済できるし…。

 

 これぞ地産地消ってやつだな!

 


 あれ…、違う?



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