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大体誰かが試してる ~転生村人のテンプレ活動~

作者: 蟹蔵部

「ばぶぅっ!」


 これは、こちらをのぞき込む巨人に驚いて俺が発した言葉だ。もちろん赤ちゃんプレイじゃない。どうやら俺は赤ちゃんになってしまったらしい。

 俺の記憶が確かなら、日本人としての一生を赤信号を無視したトラックによって終了させられたはずだ。

 つまりこれは転生だ! 神様的な存在には合っていないがありがとう神様!


 神に感謝している俺にちょっかいをかけてくるのは両親だろうか。まだ目がはっきりと見えないので輪郭がぼんやりと分かる程度だ。

 両親が俺のほっぺたをつついたり手をつまんだりくすぐったい。反応して手足をばたばたさせている内に眠気が襲ってきた。


 赤ちゃんの体力というのはこんなにも少ないのか。折角転生したんだから転生チートを決めてやると思いながら、俺の意識は夢の中に落ちていった。


 ――――――――――――――――――――


 二年後(二歳)


 ――――――――――――――――――――


 いや、やべえっすわ。まじ幼児の体動かしずらいっすわ。

 床に敷いたタオルの上に座りながら俺はうなだれた。


 なまじ成人した肉体の記憶があるだけに、幼児の体が動かしづらくてかなわない。あれだ、高齢になると何もない所で転びそうになるやつ。あれが常にある感じ。加えて体のバランスが成人とは違うせいで、二重にちぐはぐな動きになってしまう。二歳になった俺は、つかまり立ちはできるものの、まだ一歩すらまともに歩けていない。


「ぶぅーっ……」


 言葉の習得もまだできていない。なんやかんや両親がかまってくれるものの、日中はほぼ俺一人だ。歩けるようになればもう少し母についていけるのかもしれない。


 くっ、これじゃあ転生スタートダッシュがきめられないっ……。


 だがそんなことで落ち込んでいる暇はない。俺は転生者だ! きっとどこかにチートがあるはずだ。今は我慢の時!

 俺は室内をハイハイで動き回った。


 ――――――――――――――――――――


 一年後(三歳)


 ――――――――――――――――――――


 今、俺は猛烈に感動している!


 目の前で起こった不思議な現象――人の手から光が飛び出す魔法のような現象を見た瞬間、異世界に転生したことを理解した! 室内の様子から若干そうじゃないかと思っていたけど、これは確定だ!


「しゅごい!」


 言葉も(ほぼ)完璧だ。これが転生者の実力ってやつさ。


「あら、レオは魔法が好きなのね~」

「しゅごい!」


 魔法が嫌いな転生者がいるだろうか、いやいない。三歳にして歩きをマスターした俺の次なる目標が決まった。魔法チートだ!

 ついでだが俺の名前はレオだ。


「でもお昼寝の時間だからねんねしましょうね~」

「しゅごい!」


 お昼寝の時間なら好都合だ。目を閉じて集中できる。きっと丹田(へそのちょっと下)あたりに魔力があるんだろう。で、それを自由自在に動かす訓練をすることで魔法の制御が上達するはずだ。間違いない。


「むむむむっ……」


 お腹に意識を集中すると、何かが動く気配がした。これだ!

 一度できれば簡単に動かせるはず……動かせ……うご……ぜんっぜん動かねぇ! 梃子でも動かない頑固さを感じる。


 単なる子供だったらすぐに諦めてしまうだろうが、俺にはしっかりとした意志がある。これしきの障害など、とっぱしてみせる!

 むむむむっ! すやぁ……。


「はっ!?」


 母さんによるお腹ぽんぽんが心地よすぎて眠ってしまっていた。けれど魔力を動かす感覚はつかめてきた。これを毎日の日課とする! 待ってろよ、魔法チート!


 ――――――――――――――――――――


 二年後(五歳)


 ――――――――――――――――――――


 毎日の特訓によって、俺は魔力制御をマスターした。今や丹田の魔力は自由自在――とまではいなくとも、身体中に動かすことができる。

 その代わりと言ってはなんだが、フィジカルは少しハンデがあるようだ。典型的な魔法タイプってことなのかな。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、待って~……。はぁっ、はぁっ」


 今日は念願の魔力量&属性測定の日だ。教会へダッシュする同年代の友達と一緒に俺もダッシュしている。くっ……、付いていくのがやっとだ。


「それではレオ君、この水晶に両手を乗せてください」


 神父様がテンプレ水晶を差し出してきた。はいはい、俺の実力を見せてやるからな。急激に発光してもいいように、薄眼で両手を水晶に乗せた。


「こ、これは!?」


 いやしょぼっ! 光り方しょぼっ!! え……、全然光ってないやん。うそやん。


「レオ君は魔法の才能が全くありませんね。けれど悲観してはいけませんよ。きっと他の才能があるはずです」


 神父様が必死にフォローしてくれているが、俺はピンときた。ははーん、魔力制御の成果で身体から漏れ出る魔力が減少し、それによって水晶の光がしょぼくなってるんだな。


 子供は魔力なんて制御できないから、あふれ出る魔力の量によって才能を判別しているんだ。

 そうとくれば話は簡単だ。俺の全力の魔力を水晶に叩きつける!


「うおおおおお!!」


 ピカッ!


 ほんのちょっぴりだけ水晶が光った後に、俺は気絶した!


 ――――――――――


 ―――――


 あの後、めっちゃ怒られた。めっちゃ怒られた。

 なんでも魔力を丹田から引き出すのはご法度らしい。丹田にある魔力は、体を維持するために必須、つまりはHPなわけだ。

 それがなくなるとどうかるか。気絶し、下手したら死ぬ。


 二年間、俺は魔力制御といいつつ無駄にHPを減らし、身体は必死にHPを回復しようとするからフィジカル面の成長には栄養がいかず貧弱なまま。


 なんてこった!


 だが俺は諦めないよ。少ない魔力でも効率的に運用できればチート級になれる。そういう創作ファンタジーを俺は知っている。

 あっと驚く新技術で、目指せ魔法チート!


 ――――――――――――――――――――


 二年後(七歳)


 ――――――――――――――――――――


 舐めたこと言ってすんません! 魔法チートなんて無理っした!

 そりゃあ、数世紀に渡って実際に研鑽を積んでる現実に、創作ファンタジーが勝てるわけないっすね。小手先の技術なんて、疾うにやりつくされてるし一般化してる。


 くっそー、物理フィジカルチートも魔法チートも無理だったか。

 だが俺の手札はまだ残っているぜ。次は商業チートだ! 前世の知識を使って金儲けを行う! まずは定番のボードゲームだ!


 あっはい。似たようなのがもうありますよね。そうですよね。前世だって紀元前からボードゲームありましたもんね。失礼しましたー。


 まだだ! 次は料理だ! 揚げ物、マヨネーズ、発酵食品!


 あっはい(略)。


 俺はうなだれた。一般人の俺には、チートなんて所詮無理だったんや。


「君、ちょっといいかな」


 そんな俺に話しかけてきたのは、領主様の代官だった。いろんなチート(笑)を試していた俺に興味を持ったのだとか。

 すぐさま話は両親へ行き、俺は領主様のところへドナドナされた。


 ――――――――――――――――――――


 三年後(十歳)


 ――――――――――――――――――――


 いや神童っすわ。俺神童っすわ。よく考えなくても、前世の義務教育って、今世の超高等教育なわけ。それを扱える俺、神童っすわ。

 チートなんて探す必要なかった。チートはここにあったんやなって。


 今は大人に混じって領主の館で働いてる。メイドさんにもめっちゃモテモテ。まあ稼いでますから? 大人顔負けに稼いでますから?

 義務教育中はこんなん意味あるんかって思ってたけど、みんなも勉強は頑張ろうな! 転生したときにきっと役立つぞ!





 でもここだけの話、領主がやばいやつだったら、俺って暗殺とか監禁されててもおかしくないらしい。気をつけろよ?


勉強はしっかりしましょう。

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