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4.入学式の日の夜に。

今回は比奈の視点。









 ――一人の女の子が、ぬいぐるみを抱えて座り込んでいた。



 多くの子供が遊んでいる公園で、一人木陰に隠れている。

 どんな時でも母親にべったりだった彼女は、同じ年頃の子供たちに馴染めなかった。引っ込み思案で、自分の殻に引きこもりがちな少女。

 そんな彼女に、手を差し伸べたのは一人の少年だった。



「……ん、キミひとりなの?」

「え……」



 まったくの抵抗もなく。

 容易く少女の領域に入ってきた彼は、彼女より幾分か年上だろうか。

 どことなく頼りになる雰囲気をまとう少年は、腰をかがめながら女の子の顔を覗き込んだ。そして首を傾げながら、こう笑って言う。



「だったら、ふたりで話をしよう!」――と。



 無理に陰の外へと連れ出す、というわけではなく。

 ただ彼女の目線に立って、取り留めなく楽しい話をしよう、と。



「……う、うん…………!」



 そこでようやく、少女は笑顔を浮かべた。


 嬉しかった。

 両親以外にも、誰かが自分に理解を示してくれたことが。

 その少年は当たり前のように隣に座り、少女の話を聞いてくれたのだ。





 これは、比奈の中にある大切な記憶。

 自分を木陰から連れ出してくれた彼との、出会いの思い出だった。







「ん……マサ兄……?」



 比奈は自室のベッドで目を覚ました。

 まだ散らかってはいるが、幼馴染みが手入れしてくれたお陰で幾分か整っている。そんな部屋の中で、彼女はあの日の思い出を胸に抱いて柔らかく微笑んだ。

 彼のことを考えるだけで、心が温かくなる。

 そして、そのたびに自分にとって、彼の存在は大きいのだと実感する。



「マサ兄……」



 そんな相手の名前を何度も口にして。

 比奈はまた、ゆっくりとベッドに身を横たえた。



「いつか、振り向いてくれるかな……?」




 恋する少女はひたすらに待ち続ける。

 あの日、あの時からずっと変わらずに、一人の男の子のことを。





 夕日はすっかり沈んだ世界の中で。

 比奈はまた、ゆっくりと目蓋を閉じるのだった。




 


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(◍•ω•◍) [一言] しばらくは更新されそうだし、 祝☆ブクマしました!
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