2.入学式での幼馴染み。
脚色しましたが、実在のモデルがいたり、いなかったり()
――さて、入学式が始まった。
新入生が1組から順番に入場してくる中で、在校生はボンヤリと天井を見上げたり、隣の席にいる奴にちょっかいを出したり。とかく平凡な学生といった感じであった。
教員たちもため息をつくが、真面目な生徒もいるので全体での指摘はできない。
本当に、どこにでもあるような光景。
去年と同じように、ただただ時間が過ぎるのだと思っていた。
彼女が入場してくるまでは――。
「え、誰かに手を振ってる……?」
「どうしたんだ、あの子」
「てか、めっちゃ可愛くないか?」
なにやら、明らかなざわめきが起こり始めた。
どうしたのかと思い、俺は新入生の方へと視線を投げるとそこには……。
「………………」
言葉を失った。
何故ならそこにいたのは、満面の笑みを浮かべながら俺に手を振る比奈。彼女は声こそ発しないものの、確実に俺を見つけて手を振り続けていた。
周囲の在校生が、次第に俺を見始める。
これは、ヤバい……!
「は、はは……」
俺はなんとか取り繕うように笑いながら、手を振り返した。
すると比奈も満足したのか、大きく頷くのだ。しかし周囲のざわめきはいまだ収まらず、ついに教員からの注意が入るのだった。
ひとまず最悪の事態に陥る前に、どうにかできた。
思わず苦笑いを浮かべつつ、俺は前方の新入生席に座る幼馴染みを見る。
「まぁ、親御さんがきてない、からな……」
そして、そう考えた。
彼女の自由奔放な行動は今に始まったことではなく、加えて今日は本来いるはずだった両親が不在。そうなってくると、俺が親代わりのようなものだった。
そう結論に至って、ふっと一つ息をつく。
漫然と過ごすつもりだった入学式だが、ここはしっかり見届けよう。
そう思って、気を引き締めた。
直後に、またも事件発生。
「えー、次は【新入生代表挨拶】」
司会進行がそう口にする。
すると、おもむろに立ち上がったのは――。
「へ……?」
――比奈、だった。
彼女は中央に設置されているスタンドマイクの前に立ち、紙を開く。
忘れていたが、彼女は頭がかなり良い。正直なところ、どうしてこの高校を選んだのか、という疑問すら浮かぶほどだった。そんな幼馴染みのことだから、成績優秀者として代表になってもおかしくはない。
でも、問題はそこではなく。
「すぅ……」
比奈が小さく息を吸ったのが、マイク越しに聞こえて。
その後に、彼女は思い切り――。
「ふわぁぁ~……」
全校生徒および、多くの他人様の前で大欠伸をかましたのだった。
「え、なに今の……?」
「欠伸……?」
またも、ざわめく在校生。
さらには教員たちも青ざめていた。
来賓の方たちも、何事かと口々に何かを言っている。しかし、
「えへへ~……すみません。代表挨拶考えてて、徹夜しちゃって」
そんな空気など、どこ吹く風。
比奈は少しだけ恥ずかしそうに頬を掻き、そう謝罪するのだった。
その緩い雰囲気に、他の人たちは思わず『寝不足なら仕方ないか……』という、謎の納得を抱いてしまう。そして、比奈の次の言葉を待つのだった。
俺の幼馴染みは、そんな周囲の様子に気付いたらしい。
するとまた、どこか申し訳なさそうに……。
「それで、えっと~……できなかったんです、挨拶。えへへ……」
――大問題発言、投下!
これには全員がズッコケる勢い。
教員たちもついには呆れ、ただただ苦笑いを浮かべていた。
来賓の皆様に至ってはもはや、出来の悪い孫を見ているような温かい視線。
しかしながら、これで終わろうとしないのが朝倉比奈、という少女であった。
「なので、いまの想いを素直に話したいと思います……!」
彼女はなんと、その場で即興の挨拶を始める。
その内容というのは――。
「えっと、まずは私たち新入生のために、このような式を執り行っていただき感謝申し上げます。校門の隣に咲いていた桜の木々は、こちらを出迎えてくれているようで嬉しかったです!」
とても即興とは思えないもの。
しかしどこか、彼女らしさを感じるもの。
「ここで本当だったら、抱負とか目標なんですよね? ――でも、ここがあまり思いつかなくて。それでもハッキリと言えるのは、たくさんの人と仲良くなれたら、と考えていることです」
比奈はちらり、こちらを振り返って。
その上でこう言うのだった。
「私は小さい頃、とても引っ込み思案で。でも、そんな私の手を引っ張ってくれた人がいたんです。だからもし、そんな子がいるなら一緒に手を取り合って前に進みたい。そして――」
満面の笑みで。
「卒業の時には胸を張って、ここが私たちの母校でよかった。みんなと一緒に青春を駆け抜けて、本当に良かった。そう、思えるようにしたいです……!」――と。
誰もが息を呑む。
形式的にはめちゃくちゃで、駄目駄目なはずなのに。
どうしてなのか、比奈の挨拶からは純真さが溢れ出していた。
「あ、そうだ。えっと……!」
そして最後に、彼女は来賓の方々に感謝を述べて。
深々とお辞儀をして、挨拶を終えたのだ。
会場は拍手に包まれる。
在校生も、親御さんもみんな、心から温かい拍手を送っていた。
「ホントに、お前すごいよな……」
そんな中で、俺も拍手を送りながら。
気恥ずかしそうに頬を掻いて照れる幼馴染みを見つめるのだった。