2.生活能力皆無な幼馴染み。
今日はあと1話!
応援よろしくです!!
「えへへー……ありがとうね、マサ兄」
「いや、ありがとうじゃねぇよ……」
ようやくマトモに会話が可能になった幼馴染み。
そんな彼女が間抜けた笑みを浮かべているのを見て、俺は大きなため息をついた。パジャマ姿のままな相手に、若干気恥ずかしさがあるが話を進めなくては……。
「……で、この惨状はなんだ?」
俺は周囲の地獄絵図を見回しながら、そう訊ねた。
すると、比奈は不思議そうに首を傾げて。
しかしすぐに、頬を掻きながら笑って言うのだった。
「えへへ、お母さんいなかったらこうなっちゃった」――と。
…………は?
俺はそれを聞いて、一瞬だけ思考が凍った。
そして、改めて周囲を見て思い出す。
彼女の両親が海外へ発ったのは、一昨日の夜のはず。
つまり、ほぼ一日の間にこのような状況になったわけだが……。
「いやいやいやいやいや」
俺はそれを考えて、思わず首を左右に振っていた。
そんなこと、あり得るのだろうか。玄関のドアに鍵をかけず、家のあらゆる場所をこれでもかと散らかし、当の本人は健やかな寝息を立てているなど。
あり得ない。
普通なら、まずあり得ない。
「どうしたの? マサ兄」
「…………」
それなのに目の前の幼馴染みは、円らな瞳で見上げてくる。
小首を傾げて、ややはだけたパジャマ姿で。
俺は思わず手で目を覆いながら、深くため息をつくのだった。
そして、こう提案する。
「比奈……お前、飯はまだか?」
「うん! 昨日の夜から、なにも食べてないよ!」
「元気に言うなよ。……待ってろ、なにか作ってくるから」
なんだかんだ、登校時刻までは少しばかり余裕がある。
手早く食事を済ませて、比奈を高校に連れて行こうと思うのだった。
◆
「んーっ! おいしぃ!!」
――で、簡単な朝食を作った。
食パンと卵があったので、トーストとスクランブルエッグ。
相も変わらず散らかりまくっている台所は使いにくかったが、ついでに整理しながらどうにか時間内に完成させることができた。
朝からずいぶんと疲れたが、比奈の蕩けるような笑顔を見ると変に嬉しくなる。
もっとも、周囲に散乱した物が現実に引き戻してくるのだが。
「……それで、今日の準備はできてるのか?」
「うん、それは昨夜のうちに!」
「よかったよ……」
「どうしたの、マサ兄? そんなに安心した顔して」
「誰のせいだ、誰の……!?」
ひとまず、入学式の準備はできているらしい。
俺はそれに心の底から安堵して、空になった皿を手に取った。そして、
「それじゃ、さっさと制服に着替えろよ? もう行くぞ」
「うん、分かった!」
そう、言った瞬間だ。
「――ば!? なんで、いきなり脱いでんだよ!?」
「ふえ?」
比奈の馬鹿が、その場でいきなりパジャマを脱ぎやがった。
俺は思わず視線を逸らし、駆けるように部屋の外へ。
すると中から、彼女の声が聞こえた。
「あー、ごめんね。マサ兄だからいっか、って思って」
「良くねぇよ!?」
どうにも反省したのか分からない、そんな幼馴染みの声。
俺は顔が熱くなるのを感じながらしゃがみ込んだ。
そして、不意に脳裏に浮かぶのは――。
「…………!?」
子供の頃より明らかに成熟した、比奈の身体。
俺はその記憶を必死に頭の中から抹消し、どうにか立ち上がった。
アイツをそんな目で見るなんて、あり得ない。それに、あってはならない。
そう考えながら、俺はどこか浮ついた気持ちで台所へ向かったのだった。