第四五話 明日なんかない
リミィとリミツーは兵に追われながら、所持していた小型の爆弾をいくつも起爆した。
逃げ続けているカラガルムや聖騎士団に、まだ敵が追いかけていると知らせるためだ。
「ははん、リミィ、予定通りだね」
前方で聖騎士団が待ち構えていた。
すべてではないが、一〇〇名以上はいる。過半数以上だ。
これで、カラガルムの護衛はさらに減ったことになる。
「さて、どうするの? リミツー」
作戦ではこのまま聖騎士団を引きつけながら、逃げることになっている。
だが、そう長くは続かないだろう。彼らの目的はカラガルムの安全。敵が逃げるのなら、無理に追走などせず、主君のもとへ戻るだろう。
ならば。
「決まってる。倒しまくろう」
「殺すの? メール残念がるよ」
「あの子ができない汚いことをやるのが、私」
「一途だね。私が先にメールに目をつけてたのに」
後ろから軍兵も来ているが、関係ない。
一〇年以上修羅場をくぐり抜けてきた姉妹に、不可能はないのだ。
魔法で猫のような見た目に変身し、二人は聖騎士団へ突っ込んでいった。
聖騎士団一人一人は双子の足元にも及ばない。
追いかけてくる軍兵など雑兵でしかない。
しかし群で攻められるとさすがの二人も厳しかった。
もうどこから血が出ているのかわからないくらい傷ついた。
それでも双子は止まらずに、殺し続けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
時間にして、三〇分も経ってはいないだろう。
双子の足元に転がる大量の死体は、たった二人の手によって殺された。
みんな殺した。
驚異はない。
火照た体がだんだん冷めていく。
体から血が流れていく。
「またくぐり抜けたね、リミツー」
「当然でしょー。私の選択に間違いはない」
「間違えないなら私たちとっくに金持ちになってたよ。一〇歳と一三歳、一七歳の三回はチャンスがあった」
「バカリミィちゃんはいつも後から文句ばっかり。困ったお姉ちゃんでちゅねー」
「なんだと?」
顔を合わせると、自然と笑みがこぼれた。
意識が遠のいて視界もボヤけるが、散々見てきた顔だ、どんな表情をしているのかわかる。
すると後方から、馬が駆けてくる音が聞こえてきた。
先発部隊と戦っていたロットエル兵だろう。余裕が現れ、カラガルムの元へ戻るつもりなのだろう。
二人は同時に、大きなため息をついた。
足止めしないといけない。でも、体に力が入らない。
そもそも、逃げる気力すら湧いてこない。
もうじき、リミィとリミツーは死ぬのだ。
「これからどうする、リミツー」
「あ〜、いい考えがある」
リミツーは懐から、メールから借りた木彫りのリー・ライラム像を取り出した。
「ここを切り抜けたらさ、これでリー・ライラム教をはじめよう。ほら、南西には未開の地が広がってるって聞いたことあるじゃない? きっと文明が発達してない原人どもがいるはず。そいつらにこれを見せて、信者にするんだ」
「私らに得があるの?」
「聖職者のふりすれば信心深いやつらから貢いでもらえる」
「ふふ、清々しいクズ。正義の心はどうしたんだか。ていうかそれ、メールに返さないんだ」
「返すわけないじゃん。私たち、盗賊だよ? これまでも、これからも、ずっと」
「そうだね」
「明日にでも出発しよう」
「じゃあ頑張ってあいつら倒さないと」
「余裕でしょ。私たちなら」
視界が朧げだからか、隣りにいる家族の顔が、若返っているように見えた。
一〇年前、二人で旅をしたときの、幼い顔。
いつだって隣にいた。いつだって一緒に朝を迎えてきた。
嬉しいときは一緒に笑って、辛いときは一緒に悲しんだ。
たくさん喧嘩して、たくさん抱きしめあった。
生まれてからずっと、そして明日も。
追手の兵士たちが銃を構えた。
ポツポツと雨が降り始める。
早くしないと大雨になる。
「急ごう、リミツー。雨で濡れる」
「大丈夫。きっとすぐ止むよ」
リミィとリミツーが兵士たちの方へ駆けだす。
乾いた銃声が、止めどなく鳴り響いた。
 




