第十二話 メールと双子の盗賊(その1)
ある日、レドたち聖騎士団はソート副団長から招集がかけられた。
聖騎士団本部会議室に、一〇名の団員が集められる。
呼ばれていない者は別の任務を請け負っているか、休暇をもらっているかだ。
「集まったな。リシア、さっき渡したものを」
「はい!」
リシアは二枚の大きめの紙を壁に貼り付けた。
それぞれ少女の似顔絵が描かれていて、その二人の顔はよく似ていた。姉妹のようである。
「全国指名手配されている盗賊の潜伏先が判明した。捕らえよとのご命令だ」
詳細を聞きながら、レドは耳にした情報をヅダに送信していた。
世界を股にかけ強盗を繰り返す双子の少女二人組、前々からヅダが興味を示していた者たちだ。
ヅダは当人の意思に関係なく、優秀ならジューンに引き込もうとする癖がある。
それがこの地方に来たとの目撃証言があるのなら、教えてやるのが善意というものだ。
しかし相手は強盗犯。素直に仲間になるとは、考えにくい。
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翌日、メールとソニーユはヅダが待つキャンプ地へ向かっていた。
馬車の荷台ではメールが本を読んでいて、綴られた文字をキラキラした目で追い、ページをめくる度に「はっ!」とか「おっ!」とか、オーバーなリアクションをとっていた。
「なに読んでるのメール」
「屋敷にあった本で、『少女二人、巨大魚を目指して』ってタイトルです。読んだことありますか?」
「さあ? そんなのあったんだ」
「魔法が使える双子の姉妹が、亡くなったお父さんの夢を叶えるために巨大魚を釣りに行くんです! 途中で出会う仲間やおかしな敵、そして生き別れのお兄さん。たくさん喧嘩もするけれど、やがて二人は巨大な悪を倒し、困っている人に幸せを届ける! 笑いあり涙ありの大冒険小説です!!」
「熱弁するわね」
「面白くって面白くって、もう六回は読んでます! しかも、しかもですよ! これ一〇年前の本なんですけど、ノンフィクションなんです! 実際にあった物語なんですよ!! 実在する地名とか歴史とかも登場するんです!! はぁ〜、一〇年経っているから二人は現在二〇歳くらいでしょうか」
まだまだメールの推し本紹介は止まらない。
「これネタバレになっちゃうんですけどいいですか? 終盤で二人が絶望から這い上がるとき、言うんです。『私たちは、人の安心と平穏な日常を守るために旅をしているんだ!』って!! かっこよくないですか? 私も言ってみた〜い! あぁ〜、会いたいな〜、会ってみたいな〜。会ってみたいです〜」
「会ってなにするの?」
「弟子にしてもらいます! 清く可愛く面白く、正義感に満ちて悪は絶対許さない。弱い者の味方、正義のヒーロー!! 私もあの人たちみたいになりたいです!!」
「へぇ〜。それで、なんて名前なの? 双子は」
「はい! 名前はーー」
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「リミィとリミツーに会いに行く」
ジューンのメンバーが集まる中央で、ヅダが告げた。
「とある筋からの情報だ。あの二人の潜伏先が判明した。聖騎士団より速く接触し、勧誘する。ザルザ様の戦力を増やすのに、彼女たちをぜひ引き入れたい」
ソニーユがメールを見やると、驚愕に目を見開きながらわなわなと震えていた。
「それでは誰を連れて行くかだが……」
ビシッと、雲を突き刺すくらいの勢いでメールが手を挙げる。
「行きます! 私行きます!」
「お前が? しかし」
「私、その二人の本を六回読んでます! 誰よりも詳しい自信があります!」
「お、おう」
ヅダも引くほどテンションバリバリなメールに、ソニーユはつい吹き出してしまった。
「メールが行くなら私も行こうかしら。どのみち、私は同行させるつもりだったんでしょう? 聖騎士団を相手にするなら、私が必要だもの」
「まあな。よし、じゃあ他はーー」
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ロットエルの北西にある街、パースーに双子はいる。
レドの報告によれば聖騎士団が到着するのは午後一七時。その一時間前に、メールたちはパースーに到着した。
あと一時間以内に二人を捜し当てないといけないわけである。
「お姉様、本の描写通りなら、オレンジ色の髪をしている方が姉のリミィさんで、青色なら妹のリミツーさんです」
「ふーん」
「はぁ〜、緊張する〜。握手していいんでしょうか、お姉様?」
「いいんじゃない?」
ソニーユはもっと興味がない話でもテンションを合わせる努力をするべきだと思う。
それからメールはヅダや他のメンバーと別行動し、ソニーユと二人で双子を捜し続けた。
宿、飲食店、教会、巡れる場所は巡ってみたが、見つからない。
「いませんね」
「もう別の街に行っちゃったとか?」
「そんな〜」
がっくり落ち込むメールのもとに、馬に乗ったヅダが駆けてくる。
「急げ! 予定が狂った!」
「と言いますと?」
「聖騎士団がすでに二人を追っている! 早く馬に乗れ!!」




