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第五章 人狼は人を喰らう
「やだ...やめて...こないで...」
雨谷の声が聞こえる。雨谷の方のクローゼットが開けられたらしい。
「いやっ...やめろ...」
僕にはどうもできない。ただ蹲っているだけだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
ガッ グチャ ベキ
汚らしい咀嚼音と同時に、雨谷の声が消えた。
そして、数秒後には、その咀嚼音すら消えていた。
『ガチャッ』
クローゼットの隙間から部屋の中を見る。あいつは居なくなったみたいだ。
クローゼットからゆっくり出る。
床が赤く濡れている。カーペットは、元の白い色がほとんど見えなくなっている。
「雨谷...」
僕がこの部屋に逃げてきたから、いや、雨谷を連れてこの館に来たから、雨谷は殺されてしまった。僕が殺したようなものじゃないのか。
『ガチャッ』
後ろから扉の開く音がした。
「あつ!ここにいっ...」
トラちゃんとヘリオさんだった。僕に気づいた後、すぐに床を染め上げている血にも気づいたらしい。