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消えた記憶は蜜の味  作者: 円形リタ
7/7

3日目

ちょっと長い?....長くない?

 目覚めの悪い朝。 カーテン越しに見える空も灰色に曇っていて暗い。 久しぶりに酒を飲んだと言うのに昨日はなかなか寝付けなかった。


昨日の夜悪魔は泣いていた。 何故泣くのか聞いても教えてはくれなかった。 考えても分からなかった。


あいつは悪魔だ、人と契約してその見返りをもらう、神様の対義語としても使われてる存在。 


僕が死ぬのが可哀想になったのか、何て自惚れた考えは止めよう。


僕の寿命を縮めることを選んだのはあいつだ。 人の死なんていくらでも見てきただろう。


だからこそアイツが何故泣くのか、僕にはさっぱり分からなかったから昨日一晩中考えたが答えは出なかった。


 “泣いた赤鬼”を小さい頃に絵本で聴かせてもらったことがある。 


赤鬼は人に怖がられていて、村に行けば人間達は逃げ出してしまう。


人間と仲良くなりたい赤鬼が親友である青鬼の提案で、村の人間を怖がらせる青鬼を赤鬼が追い払う。 


赤鬼は作戦どうり人間達と仲良くなり人間達と遊ぶ様になったが、青鬼はしばらく姿を見せなかった。 


心配になった赤鬼が青鬼の家に行くと、青鬼の姿はなく代わりに置き手紙が置いてあった。


その手紙にはせっかく人と仲良くなれた赤鬼が、人を怖がらせる青鬼と仲が良いとバレればまた赤鬼が怖がられてしまうから旅に出ると書いてあった。


沢山の友達を得れた、代わりに大切な親友1人だけを失った赤鬼は泣いた......と言う物語だ。


何かを得る為には何かを失わなければいけない、と誰かに言われたことを思い出す。 


僕は1日1回願いを叶えれる権利を得れる代わりに、彼女の中の僕の記憶と、僕の寿命。


確かに僕たち人間は気付かない内に何かを交換し続けているのかもしれない。


だったら悪魔は何を得て、何を失ったのだろうか? 彼らは契約して力を与える力を得たんだとしたら、何を代償にしたのだろう。


彼らには何が無い? 契約次第で願いを叶えれる、神話次第では神と言っても過言はない程の力。


何を失えばそんな力が手に入るのだろう。 


 誰もいない薄暗いリビングの中で1人コーヒーを飲みながらずっと考える。 アレは悪魔だ、悪魔が泣いたところでただ珍しいで終わることだろう。


でも、見た目は...あの悪魔の見た目は僕が愛した彼女だ。 僕が覚えている中で2回目の彼女の泣き顔は彼女自身では無いものだ。


混乱する。 コーヒーを飲んで忘れようとしても、蛇口から滴る水の音でまた蘇る。


今日は何もしたく無い。 


 「起きてください! 願い事の時間ですよぉ!!早くしないと短い命の、1日が無駄にやっちゃいますよぉ!!」


いつの間にか寝てしまっていた僕を悪魔がいつも通り元気に起こしてくる。 まるで昨日のことが夢だったみたいだ。


「昨日のこと覚えてる?」


静かに、なるべく傷つけない様に確認する。 女の人の泣き顔に弱いのは昔から変わっていないから。


「はい、覚えてますよ。 出来ることならあなたの記憶から消し去りたいくらい恥ずかしい事ですけどね。」


悪魔は言っている事とは正反対に無表情だ。 


「もう一回何で泣いていたか聞いて良い?」


「私に性別は無いですけど、あなたから見ればあなたの彼女なのでしょう? 女性に泣いていた理由を聞くのは野暮だと思いますよ。」


悪魔は少し怒った様な口調で言っている。 でもここで引き下がれるほど僕たちの関係はドライでは無い。


文字通り命をかけて聞き出してやる。


「じゃあお願い、何で泣いていたか教えて。」


そう言うと悪魔は驚いた様な顔をしてこう言った。


「それは1日一回の願いって事で良いんですか?」


「うん」


「貴方の残り少ない、少なすぎる寿命で出来る願いをこんな小さなことで使って良いんですか?」


「良いよ、死にかけの人でも好奇心は絶えないさ。」


「今まで契約してきた人達もそんな事はお願いしてきませんでしたよ。」


「そうかもしれない。 でも唯一、君の感情を知れた人間になれるじゃん。 悪魔の感情を知れる人間なんてそうそういないでしょ?」


「本当に、しょうもない理由ですよ。」


「何でも良いよ、僕は君の心を知りたい。」


「貴方は、少し変わりましたね。 前のパッとしない男とは思えません。」


「そんなもんさ、死ぬ間際になると誰でも優しくなれるんだよ。」


そう言うと悪魔は意を決した様に息を吸う。 よっぽど緊張しているんだろう。 初めて人に言う事を話すんだから。


 「実は、昨日貴方達の姿を見ていたら羨ましく感じちゃったんです。」


「羨ましい?」


「そうです。 いや...結局詳しくは分からないです。」


「悔しくもあり、羨ましくもありって感じですかね。」


「何が羨ましいの? 君は何でも出来る様な力を持ってるのに。 何でも手に入るでしょ?」


「そうですね。 貴方達と契約すれば何でも手に入りますし、ほとんどは手に入りますね。」


「だったら何を羨ましく思うことがあるのさ。」


「だって貴方達、人間には死んでも残るものがあるじゃ無いですか。 誰かの記憶とか、骨とか、その人がそれまで過ごしてきた記録とか」


「僕ら悪魔は死ぬことだってあるそうです。 でも死んでるところは見たことがありません。 何故なら消えたら何も残らないんですよ。」


「誰かの記憶からも消え、身体は塵も残らず消え、それまで契約していた人間からも忘れられます。」


「だから何かを残せる、生きていた証明ができる貴方達人間が羨ましいです。 私だって死ぬのは怖いですよ、だから私が死ぬ間際まで誰かにいて欲しい。」


「誰かの中で少しでも生きていけるかも知れない希望を持って死にたいじゃないですか。」


「何かを残せる事が出来るのに死は悲しい事だと思っているのが悔しいです。許せないです」


最後まで言い切った悪魔は息を切らしている。 僕は悪魔は何でも出来るし、何でも持っている神の様な存在だと思っていたけどそれは違う。


むしろ彼ら悪魔は何も持っていない。 何事も持つ事を許されていないんだ。 


僕の寿命はもう残りわずか、でもこれまでも、これからも僕は何かしらを残していく。 それを見させられる悪魔の気持ちはとても耐えがたいものなんだろう。


だったらせめて、僕が死ぬ間際まで彼のことを覚えていよう。 例えそれが自己満足でも、彼にとって惨めなことだとしても覚えていてやる。


 僕らが話し合った後の空腹によってこの重い空気は少し緩んだ。 


今日は出前を取ろう、いつもは頼まない高級寿司だ。 死ぬ前に美味いもの食ってやる。 最後の晩餐とまでは言わないが。


あと数日の命なんだ、1人でも多く幸せにしてやろう。 まぁ人じゃないんだけどね。










最後のノリは少し後悔してる。 でも辞めない、俺、諦めない。

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