過去編的な final
すいません、文章を書いていると指がだんだん重くなってきて.....投稿が遅れてしまいました。
「ただいま。 お母さん」
少し恥ずかしさがあるけど一応言っておく。
「お帰りなさい、健ちゃん」
優しく微笑む、まさしく母と言える様な姿を見て懐かしさからか瞳が暖かくなる。
「初めまして、お義母さん。 健志さんとお付き合いさせて頂いてる織部美玲と申します。」
礼儀正しく彼女が挨拶をする。 腰を90°に曲げ綺麗にお辞儀をしている。
「いらっしゃいませ、うちの息子から話は聞いております。 いつも健志がお世話になっています。」
同じく綺麗なお辞儀を見せる母親。 挨拶を終えた2人は、お互い見つめあってるだけで喋らない。
少しの間静寂が騒ぎ出してきた時、後ろから低音の男の声が聞こえる。
「おう、何やってんだ。 疲れてんだろう、はやく中に入りな。」
父の言葉で皆んな家の中に入る。 助かった。 ずっとあの空気は、僕の心がもたない。
久しぶりの実家の居間。 どんな時にもコタツ机が置いてある。前と何も変わっていない。
「改めまして、健志さんとお付き合いさせて頂いてる織部美玲です。 健志さんにいつも話を聞いています、とても優しい両親だと。」
全員がコタツ机を中心に座ると彼女が切り出した。
彼女は笑顔でそう言っていた。 不思議だ。 何で顔色ひとつ変えないで嘘がつけるんだ。
確かにたまに両親のことは話すけど、優しいとか言った覚えは微塵もない。
「まさか、健志にこんな出来た彼女が出来るなんてねぇ。 貴方には勿体ないわ。」
心の底から思っている様だ。 全くこの2人はどこまでも自分の息子を過小評価している。 こんなに出来た息子はいないと思っているんだけど......
「さっきも誰かさんから同じこと言われたよ。」
「でも正直私もその気持ちわかるよ。 私がお義母さん達の立場だったら同じこと思うもん。」
何ということだ。 目の前の老人だけでなく隣の淑女も反健志派の人間だ。 もうこの世界に僕を褒めてくれる人は残っていないのか。
その夜は僕を除いた全員が和気藹々と話していた。
僕は最初はついて行けたが途中で、健志が嘘をついている時の癖あるあるを話し始めた瞬間に席を外し、先に寝た。
「僕ってそんなに分かりやすいかな? 小さい頃はホラ吹きの健ちゃんって呼ばれてたのにな。」
素早く二回瞬きして誇らしげに1人、話している。 ホラ吹きと呼ばれている時点で嘘がバレていることを僕は暫く気づかなかった。
「ねぇねぇ、起きてよ。 ねぇえ」
夜中疲れてぐっすり寝ていると、隣で寝ていた彼女が起こしてくる。 気を遣っているのか声は小さいが、人間は熟睡していても揺さぶられると起きてしまう。
「ん、何? どうしたのこんな夜中に。」
不思議と朝起きる時よりすんなり起きれた。 もしかしたら僕は日光に弱い吸血鬼の末裔なのかもしれない。
「星見にいこ?」
「いやだ、こんな夜中に見ても危ないし面白くないよ。 明日もうちょっと早い時間にみんなで見に行こう。」
「ふーん、そっか......そうだよね。 久しぶりに2人きりになれるから人生初の星空を誰にも邪魔されずに見たいとか迷惑だよね。 ごめんね、起こしちゃって。」
泣いているのか鼻声気味に彼女が言う。 パッと彼女の顔を見ると俯いていて顔は見えない。
「あっ、いや、まぁ。 あっ! 昔僕がひみつきちにしてた場所があるんだ。 あそこなら見晴らしも良いから大丈夫じゃないかな!?」
彼女が泣いていると思い、どうにかしようとそう言った。 誰かが言っていた様な気がする“惚れた女は泣かすな”って。 弱気な僕には似合わない言葉だ。
でも女の人の涙に弱いのは本当だ。
「よしっ、じゃあそこ行こう。 お義母さん達は起こさない様にねっ。 ほら、早く行こ。」
カラッとした表情でそう告げた彼女に呆気を取られた。 嘘泣きか。 どうやったら意図的に鼻声が出せるんだ...。
「勝てないな」
そう呟いた時にはもう既に彼女は家の外に出ていた。
「懐かしいなぁ、全然変わってないや。」
本当に変わっていない、都会は便利なのにすぐ変わって、田舎は不便なくせに変わらない。 何でなんだろう?
「結構歩くんだね。 ひみつきちはまだ先なの?」
「もうすぐ着くよ。 目印は鈴虫がいっぱいいる原っぱだよ。」
「えー、虫がいるのぉ? 虫はちょっと苦手なんだよね。」
苦虫を噛んだ様に文句を言う彼女を横目に進む。 苦虫って何のことなんだろう? 昔の人はたまに虫じゃないものに虫ってつけるから、分からなくなるものがある。
所謂ひっつき虫とかね。 正式名称は確か...オナモミだったっけ? 子供の時はよく友達の服でダーツしてたなぁ。
「うん、多分ここだ。 前よりちょっと草が生えてるけど、あってると思うよ。」
「おぉ、思ってたより、ひみつきちっぽい!」
「何でここだけ、草が短いんだろう?」
「分からないけど多分日光とかの問題じゃないかな?」
「あーそれっぽいね。」
2人で草むらに座って星空を眺める。 子供の時は1人で見ていた星空を誰かと見るのは新鮮な気分だ。
星は詳しくないけど、夏の大三角くらいなら知っている。
彼女に自慢しようと思い、知識を披露したら笑われた。 普段何かを教える事をほとんどしない僕が、正座を教えているのがギャップを感じて面白く感じた様だ。
彼女の笑っている横顔は綺麗で見惚れてしまった。 そして彼女が余りにも楽しそうに笑っているので僕も釣られて笑う。
2人の笑い声は誰もいない山奥の中で響いている。 周りで歌っていた鈴虫達も僕たちの笑い声に負けじと歌っている。
涙が出るほど笑った後にようやく落ち着いた僕は彼女の方を見る。
彼女も瞳から涙を流していた。 でも僕とは一つ違うところがあった。
彼女はもう既に笑っていないのに泣いていた。 涙が流れているのに彼女は気にする事なく星空を眺めていた。
「大丈夫? どこか痛いの?」
そう聞くと彼女は首を振った。 彼女は静かに頭を僕の方に寄せてきた。 彼女の頭と僕の肩の距離は無くなった。
「私、お兄ちゃんがいたんだ。」
彼女はいつもとは正反対の元気のない声で囁いた。
「へぇ、初めて知ったよ」
「初めて言ったもん。 誰にも言ってなかった。」
「誰にでも優しくて、賢くて、でもちょっと心配性なところもあって、面白いお兄ちゃんだった。」
絵に描いたような理想の兄だ、何故そんな事を隠していたのだろう。
「でもねお兄ちゃん、行方不明になっちゃったんだ。」
「星が好きな人でいつも星を見に行ってたから、大人達は多分星を見に行った時に事故にあったんだろうって。」
「こうやって、君と星空を眺めてたらそんなお兄ちゃんの顔を思い出しちゃって。」
なんて重い話だ。 僕にはとても背負える様な内容ではなかった。 でも僕は、静かに聞いた。 相槌一つ無く聞いた。
「ねぇ、君は居なくならないでね?」
彼女は苦しそうな顔でこちらへ問う。
「もちろん。 どちらかが死ぬまで一緒にいるよ。」
上手い言葉が出なかった。 これは本心、でも彼女からしたらただの気休めの言葉にしか聞こえないかもしれない。
「じゃあ、約束して。」
「分かった」
彼女は右手を、僕は左手を出した。 目の前に小指を突き出してお互いの小指を絡めあった。
指切りげんまん嘘ついたら針千本のます 指切った
「ありがとう。 ごめんね、急に泣き出しちゃって。 戸惑ったよね。」
「気にしてないよ、むしろそんな辛い事を言ってくれてありがとう。」
「うん、じゃあ帰ろっか。はいっ。手、繋ご?」
僕らは片手を絡め合う様に繋いだ。 繋いだ彼女の右手は少し暖かい。 そしてさっきの涙を拭いたせいか、少し湿っている。
この星空の下、僕らはお互いに初めてを経験した。 彼女はずっと誰にも言ってなかった秘密を。 僕は太陽の様だった彼女の泣き顔を。
これから長い生活の中で僕らは今日のことを忘れる事はないだろう。 今日は僕たちの本当の絆ができた日だ。
まぁ本当はずっとモンハンやってたんすけどね。