表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
消えた記憶は蜜の味  作者: 円形リタ
3/7

2日目

2日目ですね......二つ目の願い事は何なんでしょうか?

 鳥のさえずりに起こされ目を開ける。少し寝過ぎたのだろうか、体が重い。何も考えずに歯を磨く、そして自分があと一週間の寿命である事を改めて思い出す。


「まだいまいち実感湧かないなぁ」


まだ半分眠っている脳みそを起こす為にシャワーを浴びる。僕は朝と夜にシャワーを浴びる派だ。夜は最悪浴びなくてもいいけど朝だけは絶対に浴びておきたい。 たとえその日が休日だったとしても。


特に理由はない。気持ちの問題だ。 シャワーを浴びている時だけは誰にも邪魔されない空間を楽しんでいる。大声で歌い存分にリラックスしている。


僕の日々のストレスはほとんどこの時間の為に作られているいると言っても過言ではないと言い切れる。


「いやぁ羨ましいですねぇ。 お湯でそこまで気持ち良くなれるなんて」


嫌味か? 嫌味なのか? (お湯如きではしゃぐなんて下賤の者のやる事は理解できませんわ)って言う意味なのか?


「っていうか、 なんでお風呂にまでついてくるんですか。 此処は人間が唯一本当の意味で極楽に行ける場所なんですよ!!」


「ほぉ、 悪魔の私の前で極楽を語りますか...... いいでしょう。 ならあなたたちの極楽を私が試してあげましょう。 もし、満足できなかったらこの世から消します。」


そう言って悪魔はそっと足をお湯につけた。するとたちまち悪魔の体がブルっと震えた。そしてゆっくりと体をつけていく。


言葉には出していないが満足しているのがわかる。彼の顔が今まで、いや今までと言えるほど長い付き合いではないけど。そんな短期間の付き合いでもはっきり分かるほど彼の顔は緩んでいた。


“ドラえもん”に出てくるのび太君達もこんな顔をしていた事を思い出す。しかし本当に人間がそんな顔をしているのを見たのが初めてなので興味深く見ていた。


すると悪魔は自分が情けない顔をしていたと思ったのか元の脳天気な何も考えてなさそうな顔に戻った。...いや、自分の彼女の顔をそんな風に言うのも気が引けるんだけど本当にそんな顔をしているので咄嗟に出ちゃったんだ。


「......まぁなかなかじゃないですかぁ? そうですね、 はいぃ、 嫌いではないですねぇ、ふぅ。」


この悪魔っ。私に大きすぎるリスクを背負わせておいて勝手に満足してやがります。


「お気に召したようで良かったですぅ。」


「なんか今の言い方に悪意を感じましたねぇ」


「そんな事ないですよぉ。 悪魔さんの方こそ私にやけに大きいリスクを合わせたんだからこれくらい許して下さい。」


「まあまあ、 落ち着いてください」


「これはそっちから吹っかけてきた喧嘩なんですけど」


浴室から退室した僕らはそんな感じな事を話し合いながら服を着替えた。 ......悪魔さんは一瞬で別の服に変わったけど。 それより気になるのが悪魔さんのファッションセンス...。


すごくデカい麦わら帽子のような黒い帽子、黒いコートに、黒いブーツにサングラス。 果たしてどこから学んだファッションなんだろうか。 前の白いワンピースの方が可愛かったな。


「一応確認なんですけど、周りからは悪魔さんの姿は見えないですよね?」


「? はい、普通は無関係の人間には見えないようになってます。 でもやろうと思えば見せることもできますよ。 なんですかぁ? 自慢したいんですかぁ? こんなに可愛い彼女がいるってこと周りに自慢したいんですかぁ?」


「いや、確認しただけです。 あと周りからは絶対に見えないようにしてください。 あなたの格好は今の日本では目立ちすぎます。」


彼女の見た目とはいえ中身は悪魔だ。もしかしたら嫌がらせのために変なファッションをしているのかもしれないが...もし違ったら可哀想なので何も言わない。


 朝食を終えた僕は今日は何をしようかと考えていた。  

「やりたい事...と言うか叶えたい事リストだなこれは。 叶えたいことがバンジージャンプはもったいなかったな。」

 

「もう1日追加はないですよ。 大事な1日を無駄にしたくなかったらよく考えてください。」


そう言う悪魔の表情はいつもより心なしか真剣に見えた。


「......じゃあ、今日はこのお願いでお願いします。」


「えーとぉ......うーん、これもお願いしなくても自分で叶えれそうな物だと思うんですけど。」


「これで大丈夫です、日程的にも今日以外は難しいくらいです。」


「ほぉ、もう計画を組んでるんですね。 それは安心しました。 では今日叶えるお願いはこれということで。 ちなみにどこまで叶えます?」


「三人...三人集まれるだけで十分だよ。 あっ、集まるのは夕方にできる? もう直ぐ三十路の男たちで遊ぶのはちょっとアレだから飲み会でも開こうかなって。」


「分かりました......その、私もついて行ってもいいですかぁ? 姿は見えないようにしますんで」


「もちろんいいよ」


今日叶える願い事はリストにもあった”昔の友達に会いたい”に決めた。さっき言った3人というのは僕が高校生の時によく遊んでいた男友達3人だ。死ぬ前にそれとなく別れの言葉を言おう。 


 まずは電話で伝えよう。電話かけるの何年ぶりかな?もうしばらく会ってすらない。でも断られる事は願い事してるんだし多分ないと思うけど...不安だな。


そんな事を考えていると呼び出し音のプルプルと言う音が止み、一瞬静かになった後に相手から話し始めた。


「はいっ、もしもし。」

 

「あっ、うっちー? ひ 久しぶり、町村だけど覚えてる?」


「えっ!? けんちゃん!? おぉい!! 久しぶりぃ! 急に電話かけてきやがってどうしたんだよぉ!!」


相変わらずハイテンションな奴だ。


「急に電話してごめんね。 それで急なんだけど今夜飲みに行かない? 他にもいけっちと、えいちゃんも呼ぼうと思ってるんだけど。」


「マジぃ!? いくいく!! 今日ちょうど休暇とっててさ暇だったんだよ! お前去年の同窓会来なかったからな、4人で集まんのも久しぶりだなぁ! じゃあまた夕方にな!」


「あぁ、うん。あっ集合は駅前の居酒屋に20時だから!」


「了解!! 楽しみにしてるぜ! じゃあな!」


......はぁ、アイツのテンションには昔からついていけなかった。 


今のやつは内田一咲(うちだ いっさ) 高校の時からずっとハイテンションだった、好きな子にフラれた時でさえハイテンションだったのは流石に尊敬した。


あと2人は...後で紹介しよう。


「さて、あと2人に電話をかけて準備するか。」


「え? まだお昼ですよぉ? 準備するには早すぎないですかぁ?」


ほっといてくれ!こっちは数年ぶりに親友に会うんでテンションが上がってるんだよ!! 


 時間は19:30 空を支配していた青色はいつの間にか消えてオレンジやピンクそして黒が顔を出していた。後30分もしたら空は暗くなるだろう、でも僕たちの街は暗くはならない。きっと僕が死んだ後でも輝き続けていくのだろう。


「あれ? 集合時間よりだいぶ前なのにきてたんだ。」


振り返るとそこには懐かしい男の姿があった。


「おぉ、いけっち!!」


今目の前にいる男は池田優斗(いけだゆうと) 先ほどのやつと同じ僕の高校の友達だ。僕たちが素っ頓狂な事を言うとつっこむ所謂ツッコミ役というやつだ。


「久しぶりだね、けんちゃん!ずっと連絡くれなかったから心配してたよ。でも今日久しぶりに飲みに行かないかって誘ってくれてとても嬉しいよ!!」


うん。 なんとなく伝わるかもしれないけど、いけっちは、とてもいい奴。


「ごめんね、ずっと忙しいかなって気を使って電話かけなかったら気づいたら数年経ってて。 僕もみんなと久しぶりに飲みに行けて嬉しいよ。」


「そっかそっか!大丈夫!大丈夫!じゃあうっちー達来る前に席とってようか。 行こうけんちゃん。」


僕は頷いた。ニコッと笑ういけっちの後について行き、店の席を取るために店内に入っていく。店の中は沢山のお客さんがいてみんなサラリーマンのようだ。


案内された席は壁側にある座敷の席だった。ラッキーだ居酒屋はやっぱり座敷に限る、他はあり得ない。


一度この話を彼女に話した時に、笑いながらカウンター席を即行で選んでいた......。


案内された席でいけっちと最近の近況について話していたら見知った顔たちが店に入ってきたのを見た。僕らは控えめに手を振りこちらの存在を伝える。


すると向こうも気付いて店員さんに会釈をしこちらに歩いてきた。


「久しぶり!!えいちゃん!!」


今来た彼の名前は浦田栄輔(うらた えいすけ)......まぁ他の2人とほとんど同じ昔の友達。


「うぅーす、久しぶりぃ俺に会えなくて寂しかったんじゃねぇの? けんちゃん、いけっち!!」


「よぉ!!ブッ、老けたなぁ!!2人とも!!」


「うっちーが異常なんだよ。年を取るたびに筋肉が増えてるよね?」


あぁ久しぶりのこの感じ......この3人は見た目は変わっても何も変わってない。4人集まった今改めてそう感じるよ。まぁ悪魔いるんだけど。


そういえばさっきから大人しいな、喋ることもほとんどしてない。大人数は苦手なのかな?


「じゃあとりあえず酒頼むかぁ!!すいませぇん!!」


「とりあえず生で!!」


「俺も生で」


「僕も生で」


「じ、じゃあ僕も生で」


本当はウィスキーのソーダ割りが好きなんだけど、日本人の”とりあえず生で”の本能を抑えられなかった......


「さて!久しぶりのこの4人での飲み会だ!今日は飲むぞおぉ!!」


「「「「乾杯ー!!」」」」


その夜はとても盛り上がった、みんなお互い久しぶりなのもあってか話題に困らずに後三週間は話せるってくらいに話が弾んだ。そのせいか、気がついたらまた生を頼んでしまっていた。それを五回繰り返して飲み会は終わってしまった。


「ふぅ....今日は飲んだなぁ」


「てゆうかうっちー、ビールジョッキ8杯分も飲んでよくスタスタ歩けるね。」


「おぉゔよ!!俺の肝臓は琵琶湖並みに毒を吸収しても問題ないからな」


「そうなんだ、でもうっちー。 胃袋は限界を迎えてるようだよ...... ゲップ堪えれて無いし。」


「それより、けんちゃんはどうだった? 久しぶりの飲み会だしリフレッシュ出来た?」


「うん!勿論だよ!!」


「そっか良かったぁ!!何か緊張?してるぽかったから心配してたんだぁ!! 何も無いなら良かったよぉ!」


「う、うん。 大丈夫だから泣かないで」


そうだったいけっちは泣き上戸だったんだ。いつも飲み会の帰りには泣いてたなぁ。 唐揚げを見て泣いてる時は流石に心配した。


「......ありがとう。 うっちー、 えいちゃん、 いけっち。 急に誘ったのに来てくれて。 正直全員は集まらないと思ってたけど...何か神様が手助けしてくれたのかな? タイミングよく皆んな集まってくれて良かった!」

「最近大変なことばっかりだったから...もう会えないかもってばっかり思ってた。 だから今日会えた事は本当に嬉しかった!! ありがとう!......ありがとう!!」




それは僕が出来る一番のお別れの言葉だった、直接さよならを言えるほど僕の心は強く無い。さよならを直接言っちゃったら僕はこの場で泣いてしまうだろう。


それは嫌だ。今日の思い出は笑顔で終わらせたい。走馬灯によぎるのは皆んなの泣き顔じゃなくて、笑顔がいい...


「......あぁん!? なんだよけんちゃん!? 急にそんなこと言いやがって!! びっくりするじゃねぇかよ!!」


「そっそうだよ!!僕たち親友なんだから誰かが呼べば集まるのは当然だよ」


「一々お礼言われてちゃ俺たちが恐縮するよぉ!だからよ、お礼は言葉じゃなくて今度の飲み会で一杯奢ってくれよな。」


どうしよう......もう諦めていたのに...仕方のないことだと考えていたのに。 また生きたくなっちゃったよ......。


本当に素晴らしい友を持ったと改めて感じる。過去のことを許してくれるどころか、先のない僕に未来の約束をしてくれる。


「......大好きだ」


最後は笑顔で別れたかった。 でも僕の目からは暖かい血が流れていた。 止めようと思っても止まらない、むしろもっと湧き出てくる。 これだけの深い傷跡を残されては敵わない。 


僕は泣きながら笑顔を見せて彼らにハグをした。側から見たら変な光景だろう、もうすぐ三十路になる男達が道路で抱き合っているのだから。


でももう周りの目は気にしてられない。僕は気づくのが遅かった、遅すぎたんだ。だから取り戻すしかない、あの数日1週間もない残された時間で、僕は今まで手に入るはずだった記憶を取り戻す......


「......涙は止んだか?」


「うん、ありがとう皆んな」


「ったくよ!野郎が急に抱きついてきてんじゃねぇよ!!」


「ご、ごめん。 ちょっと酔いすぎちゃったみたい。」


「抱きつかれんのはお前の彼女の仕事だ。早く家に帰って抱き締めてやんな。 俺らも、もう解散するから」


「......うん!分かったよ。皆んなありがとう。またね!!!」


「おう!!じゃあな!!」


「さようなら!!けんちゃん!!」


「じゃあね、けんちゃん」


—————————————————————


「良かったんですかぁ? 俺もうすぐ死ぬって言わなくて。」


「言えないよ、あんなに楽しそうなんだから。 それに最後にお別れを言ったじゃないか。」


「あれはお別れとは言いませんよ。 自己満足です。勝手に自分1人で良しとしてるだけですよ。 綺麗事並べて残される人たちの気持ちを考えないようにしているだけですよ。 あなたが死ねばあの3人は間違いなく悲しみます。でもどうせ悲しむのなら後悔のない悲しみを背負わせるべきです。」


今まで静かだった悪魔は息を切らすほど早口で喋った、理解するのに時間がかかったほどだった。 それほどに彼は怒っていたのだろうか? 


暗い路地、灯はオレンジ色に光る街灯のみ。 街灯には小さな虫達が群がっていたがそんな物は僕の目には映らない。今僕の目に映るのはたった一つ。 泣いている悪魔の姿だった。










いつもより長めに書いてしまいました。これが所謂筆が乗ってしまったというやつなんでしょうか?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ