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2号:超銀河原人

貴方は瞑想の夜の端に、柔らかな、そして輝ける羽根がくすぐるのを見るだろう。まどろみと瞳を開ければ幻だったと気がつく。


貴方は虚空に漂う。虚空は宇宙と言い、遥か彼方の星が小さく煌めく世界、貴方には見慣れたものだ。星の箱庭には巨大、荘厳、しかし野卑にも見える荒らしいデザインの宇宙船が浮かぶ。それはデータが編んだ映像だ。貴方はそれを見ていると、古式ゆかしい前装銃の勇者に「救出で援軍ということを忘れるな。槍と鉄の仲間はまだ生きて戦っているんだ」まどろみが払われ、貴方の思考が現実へと伸ばされる。


もしーー物語力に収まれば、貴方は思い出す。大事の前の小事だと、話を受けた時に羽の乙女から聞いている。乗り込む宇宙戦艦を巣食うスライム達がいずれ、大きな災いとなるということも。君は彼女らとの【小さな約束】として、これの撃滅に参加したのだ。もしーーそうでないのなら【貴方の生き様】は戦いと直結したらしい。


狭く、暗く、淡いモニターの緑光、小さなポットに貴方は座っている。強襲魚雷の弾頭という、宇宙船から宇宙船へ射出され、船殻を突き破る荒っぽい乗り物だ。貴方は居並ぶ面々に言われるだろう。「武器は選んでおけ」貴方の持っている得物は、何だろうか。


もしーー個人動力炉を持ち武器を見直すならば、ガンラックに戦いの手が幾らか揃っている。スキャッターライフル(K3T3E3)、トランスフォーメーションガン(K0T1E4)、いずれも強大な武器だが、パワースーツを着ているだろうか?勇者でさえ、これらに供給できるエネルギーと反動に耐えられる体はない。


もしーー個人動力炉が無いなら、単分子スリケン(K1T1E1)、フォースガン(K1T2E0)、ワイドカッターガン(K2T0E0)、リムペットガン(K1T1E0)があるが、何にせよ大量に持ち込み、大量に使うほど腕も脳も骨も肉も無いことは忘れないでくれ。


貴方の指と足は千年の中でも変わった進化はほとんどなく、武器とは先にあるだけで良いものではない。敵を打ち倒せない武器などであるはずでなく、それは勇者を生かし、勇者を殺すそれなのだ。


貴方が自分以外を気にすれば、ファーガソンライフル(K3T3E1)を抱える緑服のシャープシューターが仲間なのだと気がつけるだろう。後装式ではあるが、単発で火薬を筒から直接注ぐ、原始的という点では石斧と大差ない。「なんだ?」興味を引いて話かければ「戦いに集中しろ」とたしなめられる。貴方はシャープシューターから、何か使命のようなものを瞳で燃やしているのを感じる筈だ。


【シャープシューター】物語力3、街角仕立ての軍服(Y1S5)、標準人型1()


さぁ、乗り込むべき、スライムに乗っ取られた戦艦が迫っている。シートベルトを締め、シートを揺り籠とし、運命を全て幸運の一言で片付けてしまえる強襲乗船のロケットが火を噴いた。天使の手には固い肩を押さえる固定具の中で、ポット先端から突入レーザーが照射され、装甲にを搔きわける、あるいは溶融した構造材を泳ぐ。


衝撃……ハッチは三方に花開き、貴方達の正面にそびえた遮蔽は全て無くされ、死んだ照明の中で貴方は飛び出し駆ける!戦友とともに!低重力が足を浮かべるが、それでも貴方と、そして戦友は『踏み込み』足をつけた。突入、そしてハッチが開く直前のフラッグシェルの炸裂でズタズタに引き裂かれていた艦内は荒れ、しかし不気味な沈黙と停滞した空気だけが粘土をもって貼り付く。


もしーー物語力、あるいは空気や音を聞き取れるものに成功すれば、貴方はどろりとした粘性を感じる大気の動きを錯覚する。【粘性の大気】が気のせいと思うには、確かな重さとして体を沈めている。


艦内は静かで、鋭く、そこにはフラッグシェル以外の弾痕が壁面に穿たれ線を引き、おびただしい量の血がどこかへと引き摺られ、焼け焦げた煤が黒々と舞っている。先遣の戦い、あるいは敗北、あるいは勝利の痕跡を前にして、しかしだが勇敢な貴方に、足がすくむという迷いはないだろう。敵がいる、それはわかっていることだ。


光は無いが、貴方は闇を見通す。大気の中を泳ぐよう脚を運ぶ。音は無い、臭いもない。「不気味だ」シャープシューターがファーガソンライフルのグリップを強く握る。貴方は聞き返しかけた。近くにいるのに声が遠いのは、ただの大気ではないからだろう。


もしーー悪戯に繋がる物語に成功すれば、貴方はシャープシューターに話す。怖いのか、と。シャープシューターは呆れたように【面白いジョークだ】と言いながら「暗いのは苦手だ。月でもあれば別だが」艦内では望めないものだ。口元がピクリとヒクついて不器用に笑う。冗談だろう。


「お喋りは好きか?」シャープシューターの声が小さく響く。「ゴーストシップは半世紀前にも撃滅令がでているらしい。失敗した、らしいがな。五〇年越しでも滅ぼしたい敵が何かも知らないなんて変な話だ」乙女達の指示で勇者は戦いにおもむく。それが何か、どうしてかを考えないわけではない。だが、知れるかはまた別なのだ。貴方は宇宙戦艦に跋扈するスライムの脅威が何かも知らない。


照明が死んで久しい艦内の闇の中で何か、何かが蠢くのを感じるはずだ。壁や床を蹴る音の断続……下手な子供が砂利を蹴って遊んでいるようなそれに光が切り裂く。照らされたそれは、敵だ。静かに、素早く、言葉なく、それは襲いかかる!


【浮動する粘体】物語力3、不定の装甲皮(Y0S5)、筋腕(K2T0E0)、標準異形1()伸縮する腕あるいは足の擬似器官が作る力は恐怖的であり、生身程度であれば引き裂くだろう。それには牙や、目や、透けた体に覗く臓器も無い。だが明白な何かに突き動かされるそれは、貴方を見ている。


群がる、粘つく、スライムの津波を押し返せば貴方の鼻が効くだろうか。勝利の咆哮がどん闇に木霊する中で、奇妙に低重力環境を泳ぐスライムとは違う、脚のついた足音を聞いた。誰か生存者がいるのだ。


貴方は奇妙な邂逅に成功する。足音を隠されたが、しかし貴方は小さな背中を見つけるだろう。そのヘルムは獣の耳を縁取るような形をしている。毛むくじゃらの、背は小さく、顔は犬や猫のように長く鼻があるようにも見えるが、それは完全にマスクされた装備で中にいる顔は見えない。【セントリー】物語力3、ジャンクスチール(Y5S5)、武器はメルトライフル(K2T4E2)標準人型1()だ。


もしーーセントリーとシャープシューターがいれば、シャープシューターの骨董品と自身の持つメルトライフルの隔絶を指摘する。だが「神代の時代と槍みたいに、戦車砲並みの威力補正があるか。うん、問題なかった」何やら勝手に納得して、勝手に話題を切り上げていた。

 

鉄の四肢が敵を切り飛ばし、古めかしい兵器が白煙と鉛玉で衝撃する。皮と肉が赤い液体に浮かぶならこれを殺せない道理は無いのだ。「溶接されてるな。バリケードみたいだ」巨大な、おそらく資材搬送の隔壁耳を澄ませる。


もしーーくぐもる大気の中でも聞くことができれば、封印されていた隔壁を反対側から狂乱に叩きつける堅すぎる肉の音が、微かに聞こえる……。何かが隔壁を突破したがっているのは明白だ。【隔壁は長く保たない】!


【機甲喰う粘体】物語力5、取り込まれた屑鉄(Y3S6)、肉付き機関砲(K3T3E3)、腕が多いぞ。艦内の工作室、あるいは捕獲した人間の肉ごと利用して武装したスライムのようだ。巨大な質量を水分の体ではなく密度のある鋼鉄としている。スライムというよりは、大型重機、ただしこの機械のなりそこないで半生命は酷い武装を生やしている。著しい装甲を持ち、武装している。火力を集中して打ち砕け。


もしーー【隔壁は長く保たない】と気がついていなければ、完全に破壊された隔壁んp質量破片が貴方達を等しく襲う。多くの傷を負い、血を流し吐いても、迫り来る敵を獰猛に迎え、戦いにもつれこむ。


これを打ち倒せば機甲喰う粘体の巨体が……崩れる。繋がれていたものは解け、ゆるりと、落ちて煤を舞いあげる。貴方は残骸からデータをサルベージすることに成功し、先遣の足跡を辿り彼らの居場所へ辿り着くだろう。「驚いた、他に生存者がいたとは」


【ナイト】支給板金鎧(Y5S5)、メイス(K3T0E0)。馬には乗らない下馬騎士らしい。降りる馬がそもそもいないが、馬はどうしたのかと聞けば「奴はついてこれない」とナイトは言った。


戦艦全体が汚染されたことは、すでに明白だった。スライムを全て撃滅することは不可能だ。「主動力炉の爆破に切り替える他無いが、生きて出られるかな」貴方は自身を持てないでいた。


動力炉に寄生していた女王、というには醜きが過ぎたそれの姿に見逃すという選択肢が無いと嬉しいのだが、遥かな巨体が艦内と一体化して天井に唾液で固めた樹皮状の物体で吊るされている。


【総体マザースライム?】天井から吊る巨体、支配者で中枢であることは疑いようがない。だがその質量だけで脅威であり、常人が生身で戦える相手としては難敵だ。樹脂状の何か(Y9)+分厚い粘皮(Y9S9)、衝撃起爆の体(K3T3E3)どうやら二重の体内構造を持っているようだ。今までの敵とは違う。スライム?のそれに貴方は小さな疑問を感じるだろうが、考える暇はない、爆発を繰り返す触手が迫る。


もしーー樹脂状の何かを破壊すれば、マザースライム?は震えるようなさざなみを引き起こし、攻撃パターンが変化する。艦の動力炉から吸い上げていたエネルギーを利用して、パワービーム(K4T4E4)が貴方に向かって照射される。また、強力な、しかしほころんだ磁気シールドの復活が貴方の攻撃を妨げる。貴方達はこれより奇数番号の手番でしか、マザースライム?に傷をつけられない‼︎


マザースライム?の撃破に成功したのならば、動力炉パイプをこれが落ちていき、寄生していた動力炉を破壊し暴走を始める。破壊された動力炉からプラズマ雲が立ち込め、エネルギーがあらゆるものを引き裂いていくだろう。


走る、走る……艦内に寄生していた粘体のことごとくを聖なる、あるいはおぞましい炎が飲み込む。あちこちで火の手があがり、ぐらつく足場のせいで弾かれ壁に全身を何度も傷つけるだろう。「脱出ポッドに期待するな、ハンガーまで走るんだ!」


貴方はハンガーに辿り着いた。だが、肝心の脱出に使える船が見つからない。「くそっ、どの船も脱出に使われているか⁉︎」まだ生きている小型船に転がりこむ貴方は、後ろを一切振り返ることなく脱出に最大速力を使う。躊躇いはなく、追っ手は竜のようにしつこくプラズマがうねる太陽と同じ炎だ。だが、そうだな、もう安心だろう。炎に巻かれながらも振り切った、ということだ。貴方はまた、生き残る。


貴方は帰ってきた。武器と鎧を置いて良い。奇妙な気怠さを貴方は感じるだろうか? ありふれた個人の身としては、刹那でも命懸けだったろう。ゆっくりと休んで貰いたい。貴方は食堂で腹を満たしながら傷を塞ぐ。ぼんやりと、食堂から周囲を見渡せば、貴方がやってきたことがまるで幻であったかのように、そこですごす人々は日常だ。


もしーーシャープシューターが生き延びていれば、この寡黙な勇者は貴方に、無愛想極まる手を突き出すだろう。手にはファーガソンライフルが握られている。「わかっている」それだけを言われると、貴方の手には【紫電の旋条銃】を握られている。


もしーーナイトが生きていれば、このお喋り筋肉達磨はガシャガシャと肩を鳴らして笑う。メイスで凝った肩を叩いてほぐそうとしているが、どうやら肩当てのせいでできないことに気がつき笑っているようだ。【窮屈な騎士の杖】


もしーーセントリーがそこにいれば、どこから用意したのか歪で、手作り感のある酒瓶を懐から見せる。悪巧みの猫耳が揺らめいて、懐からはさらに二つショットグラスの小さな器が現れた。【密造酒と友】


もしーー貴方以外に生存者がいなければ、ひっそりとした孤独でテーブルについている。多くを失い、貴方だけが残ったのだ。【孤独な生還者】の胸中は、貴方だけのものだろう。


戦い……そして勝利した。貴方はそれ以上に考える必要も悩む理由もない。ハンマーウォッチも悩まないだろう。彼らは隔絶した壁の外の人間であり、またそうであるべきなのだ。


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