7話 お家騒動
その後……
俺は王家御用達の治癒院に運び込まれた。
スフィアとセリスは俺を治してくれと必死にお願いしていて……
さすがに騙していることが心苦しくなり、起き上がり、その場でウソをついていたことを白状した。
怒られることはもちろん、ビンタの一発や二発、覚悟していたのだけど……
「よ、よかったです……フェイトくんが無事で、本当によかったです……」
「くだらないウソをついていたなんて……ばかっ、起きるならさっさと起きなさいよ……ホント、ばかなんだから……ばかっ」
スフィアはぽろぽろと涙を流して俺の無事を喜び……
姫さまはばかと連呼しながらも、俺の無事を喜んでくれた。
ホント、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
それから寮へ戻り、俺の部屋へ移動した。
外だとまた同じようなことが起きるかもしれないし……
かといって、夜に女の子の部屋を訪ねるわけにはいかず、俺の部屋になったというわけだ。
「それじゃあ、事情を聞かせてくれませんか?」
「それは……」
姫さまが渋い顔になる。
「見なかったことにできない?」
「さすがにそれは難しいよ」
首を横に振る。
「あの黒尽くめの男は、明らかに姫さまを狙っていました。一国の王女を狙うなんて、とんでもない事件ですよ。見なかったことになんて、できるわけないじゃないですか。それに……俺たち、一応、クラスメイトじゃないですか。俺にできることなら力になりたいですよ。俺のことを、ここで逃げるような卑怯者にしないでください」
「……ありがとう」
姫さまがにこりと笑う。
姫さまが笑っているところ、初めて見たかも。
怒っているイメージしかなかったんだけど……
すごく綺麗な人だ。
その笑顔は宝石のように輝いていて、視線が勝手に吸い寄せられてしまう。
「どうしたのよ?」
「姫さまの笑顔がとても綺麗なので、ついつい見惚れていました」
「なっ……!? あ、あんた、そういうことをサラリと……!」
姫さま赤くなり……
次いで、気持ちを落ち着けるように深呼吸をした。
「落ち着いて、落ち着きなさい、あたし……これくらいで動揺していたら、王女なんて務まらないわ……すーはー、すーはー」
「あっ、照れるところもかわいいですね」
「ごふぅ!?」
姫さまがむせた。
「あ、あんたっ、わかってて言っていたの!? 確信犯だったの!?」
「え? わかっているというか……姫さまの顔が赤いから、てっきり照れているのかなあ……と。姫さま、わかりやすいんですよ」
「ぐぐぐっ……!」
「ひ、姫さま、落ち着いてください! 話がそれちゃってますよぉ!」
スフィアが必死に姫さまをなだめて、なんとか場が落ち着いた。
「話を元に戻すけれど……これは危険な話になるわ。それでもあたしの話を聞く?」
「もちろん」
俺はコクリと頷いて……
それを見た姫さまは覚悟を決めたらしく、ゆっくりと口を開く。
「部外者に話すのは恥ずかしいことなのだけど……いわゆる、お家騒動というやつよ」
ラナリア王国の王位継承者は、現在、五人いる。
王位継承権第一位の、第一王女。
王位継承権第ニ位の、第三王女。
王位継承権第三位の、第ニ王女。
王位継承権第四位の、第四王女。
王位継承権第五位の、第五王女。
基本的に生まれた順に継承権が与えられているのだけど……
一部で逆転している。
それが姫さま……セリス・アズ・ラアリアさまの部分だ。
姫さまの王位継承権は、姉である第二王女を飛ばして第二位だ。
そして、姉である第二王女の継承権は第三位。
姫さまは『紅蓮の舞姫』と呼ばれているくらいの力がある。
また、知識も豊富で聡明なところがあるらしい。
……やや短気なところがあるけどね。
逆に、第二王女はその地位に甘え、豪遊する日々。
研鑽を積むこともなくて、惰眠を貪っているという。
そして、それが当たり前と考えていて、自身を変えようとしない。
そのため、姫さまの継承権が上になったらしい。
これに激怒したのが第二王女だ。
力はなくてもプライドは人一倍高いらしく、あの手この手で継承権を取り返そうとした。
自分を鍛えれば自然と周囲の評価も変わり、継承権を取り戻すこともできただろうに。
そのことに気がつかないなんて、かなりダメな王女らしい。
そして……第二王女はついに一線を越えた。
物理的に姫さまを排除しようとしたらしい。
事故を装い、高いところから突き落とそうとしたり……
病気を装い、毒殺を試みたり……
挙句の果てに、先日のように暗殺者を雇うなど。
腐っても第二王女。
頭はそこそこいいらしく、自分が関与しているという証拠を一切残していない。
おかげで姫さまも動くことができず、後手後手に回っていたらしい。
「……と、いうわけよ。身内の恥を晒すことになるのだけど、今、王室は混乱しているの」
「それ、王はどう思っているんですか?」
「苦々しくは思っているみたいだけど、証拠がないの。だから、父さまでもどうこうすることはできなくて……」
「なるほど……うん、なるほど」
姫さまの説明で大体のことは理解した。
それならば、俺がやるべきことは……
「なら、第二王女の証拠を掴んでしまいましょうか」
「「えっ!?」」
さらりと言うと、二人がぎょっとした顔になる。
「あんたね……あたしの話、聞いていなかったの? 第二王女……ロルム姉さまは悪知恵だけは働くの。いつも証拠を残していないわ。おかげで、父さまも母さまも、事態をなんとなく把握しておきながら動けないし……」
「証拠ならあるじゃないですか」
「え?」
「たぶん、その証拠をうまく利用して道筋を辿れば、第二王女のところへたどり着くことができますよ」
「ちょっ……え? それ、ホント? 本気で言ってるわけ?」
「こんなことでウソはつきませんよ」
念のために、頭の中で作戦を練り上げる。
それをシミュレート。
……うん。
9割の確率で成功する。
そして、失敗しても大して打撃を受けることはない。
ノーリスク・ハイリターンだ。
なんてすばらしい。
「というわけで、いきましょう」
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
慌てた様子でスフィアが止めてきた。
「うん? どうしたの? 急がないといけないから、のんびり話をしている時間はないんだけど……」
「えっと、その……フェイトくんは、姫さまに力を貸してくれるんですか?」
「そのつもり……あっ」
待てよ?
このまま姫さまに力を貸して、事件を解決したとする。
その場合、俺はどうなる?
お家騒動を解決した人物として、再び注目されてしまうじゃないか!
……なーんて。
今はどうでもいいか。
目立つとか地味に生きるとか、関係ない。
女の子が困っているのだから助けないといけない。
それが男ってものだろう?
「俺にできることがありそうだからね。だから、力を貸すよ」
「フェイトくん……あ、ありがとうございます」
「スフィアの力も貸してほしいな。試験の時に見せた力……えっと、姫さまのメイドだけじゃなくて、賢者の娘でもあるんだっけ? その力を借りたい」
「は、はひっ……! ど、どどど、どんなことでも申し付けてください!」
「ちょっと。スフィアはあたしのものなんだから、勝手なことしないでよ」
「そんなことはしないさ。あと、姫さまの力も借りたいです。みんなで力を合わせて、このお家騒動を終わりにしましょう」
「……不思議なヤツ。あんたがそう言うと、ホントにできそうな気がしてくるわ」
姫さまはそう言うと……
次いで、ニヤリと不敵に笑う。
「よーし。言ったからには、きちんと実行してみせなさいよ。あんたのことを信じるわ。だから……あたしたちを導きなさい」
「はい、おおせのままに」
今回ばかりは目立つとかなんだとか言ってられない。
姫さまのために、全力でやることにしよう。
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