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5話 うっかりさんの決闘

 勇者育成学校に通い始めて、初日……


 初日は試験とクラス分けで大半の時間をとられるため、授業は行われない。

 担任の挨拶と、クラスメイトの自己紹介。

 あとは簡単な連絡事項があり、それが終われば放課後だ。


 そして……


 俺は訓練場にいた。

 ……たくさんの観客に囲まれて。


「へえ、あいつが姫さまにケンカを売った命知らずか。姫さまの二つ名『紅蓮の舞姫』を知らないのか?」

「でもでも、意外といい勝負になるかもしれないよ? 挑戦者は、新入生試験の主席なんだってさ」

「そいつは楽しみだ! おい、新入生! がんばれよっ、俺はお前を応援しているぜっ」


 屋内訓練場は、実戦に近い戦闘訓練をする時に使用される場所だ。

 内部はコロシアムのようになっていて、観客席もある。

 ここで武闘会などが開かれることもあるため、そういう仕様になっているらしい。


 スケジュールさえ空いていれば、生徒が私的な理由で使うことも許可されている。

 生徒同士で競わせることで成長を促す目的がある、とのことらしい。


 で……


 どこから話が漏れたのか、上級生を含めてたくさんの観客がいた。

 満員御礼だ。


 俺、ものすごく目立っている。


「どうしてこうなったあああああぁっ!!!?」


 冷静に考えれば、姫さまと決闘なんてすれば目立つのはわかりきっているのだけど……

 ついついうっかり、そのことを忘れていた。


「ひゃっ!? ふぇ、フェイトくん……?」


 俺のセコンドを買って出てくれたスフィアが、突然叫ぶ俺を見て、ビクリと震えた。


「あ……ご、ごめん。ちょっと緊張してて、それで」

「そ、そうなんですか……でも、仕方ないですよね。なにしろ、相手は……ぐ、『紅蓮の舞姫』である姫さまなんですから」

「それ、さっきもチラッと聞こえたんだけど、どういう意味?」

「姫さまは、その、とても強い方で……数々の無礼者をその手で打ち倒してきたんです。その力と、炎を使った戦闘スタイルから、『紅蓮の舞姫』と呼ばれるように……」

「うん、知らなくてよかったかな、その情報は……」


 俺、生きて帰れるかな?


「ところで、姫さまの専属メイドなのに、俺のセコンドについてよかったの?」

「は、はい。姫さまは、私の自主性を尊重してくれますから……あ、あと……今の姫さまは怖くて、その、近くにいたくないといいますか……」


 なるほど、納得の理由だ。


「で、ですから……わ、私はっ、その……フェイトくんを応援していましゅっ!」


 惜しい。

 噛まなければ、最高にキュンッと来るセリフだった。


 でも、かわいいから別の意味でキュンッとした。


「が、がががっ、がんばってくだしゃい!」

「うん、ありがとう。できる限りやってみるよ」


 スフィアの応援を受けてリングに上がる。

 セリスさまはすでにリング上で腕を組み、仁王立ちで待ち受けていた。


「ふふんっ、よく来たわね、駄馬! あたしを前に逃げなったことだけは褒めてあげるわ!」

「駄馬? えっ、もしかして姫さまって目が悪いんですか? 俺が馬に見えるなんて、ちょっとやばいレベルの視力じゃあ……」

「単なる嫌味よっ、い・や・み!!! 真に受けないでくれる!?」

「あ、そういうことですか。それならそうと言ってくださいよ、紛らわしい」

「こ、こぉの男はぁあああああっ!!!」


 なぜか姫さまがわなわなと手を震わせて、憤怒の形相になる。

 俺、なにもしていないよな……?


 沸点低いのかな?

 あるいは、カルシウムが足りない?


「姫さま、俺からも一つ、いいですか?」

「あによ?」

「カルシウム足りてますか? あまり怒るとシワが増えますよ」

「コロスッ……こいつ、絶対にコロス……!!!」


 だから、なんで怒るの……?


「審判っ、始めてちょうだい!」

「は、はい! では、これより決闘を始める……開始!」


 姫さまに促される形で決闘が開始された。


「さあっ、あたしの力を目にやきつけなさい! そして、後悔と恐怖の渦に飲み込まれながら死になさいっ!!!」

「それ、完全に悪役のセリフですね」

「やかましいっ!!!」


 姫さまは怒りの形相で剣を抜いた。

 赤く輝く刀身が特徴的な剣だ。


「我が声に応えよ。我が心に応えよ。我が魂に応えよ。汝、全てを飲み込む紅蓮の刃也。顕現せよ……イフリート!!!」


 剣が業炎をまとい、激しく燃え上がる。

 空気が一瞬で変わる。

 離れているのに、チリチリと肌が焼けてしまいそうだ。


「それは……」

「ふふんっ。これこそ、ラナリア王国に伝わり、代々の王女に受け継がれてきた伝説の武具……魔剣イフリートよ!」


 姫さまが魔剣を構えると、会場がざわついた。


「あれが魔剣イフリート……斬れないものではなくて、また、その炎は全てを焼きつくすと言われている」

「すさまじい力を感じる。まさか、これほどのものなんて……」

「おいおい、やばいんじゃないのか? 決闘を止めなくて平気か? あの新入生、下手したら死ぬぞ」


 観客の人たちはとても驚いているけれど……

 そんなに驚くようなことかな、あれ?


 確かに熱量はすさまじい。

 剣の威力も確かだろう。


 でも、肝心の姫さまに圧を感じない。

 おそらく、姫さまにそれほどの力はない。

 技術もない。

 そこに付け入る隙があるだろう。


「いくわよっ!!!」


 姫さまが突進してきた。

 右から左に大きく魔剣を薙ぐ。

 軌跡に従い、業炎も後を追う。


 かなりの一撃だ。

 なかなかの脅威と判定するが……


 やはり技術が足りない。

 圧倒的に足りていない。


「ふっ!」


 俺は一撃目を余裕で避けた。

 続いて、縦に振り下ろされた一撃を……


「なっ……!? し、真剣白刃取りですって!!!?」


 両の手の平でしっかりと魔剣を挟んで受け止めた。


「あ、あんたどういう反射神経をしているの!? あたしの剣を受け止めるなんて……!」

「別に難しいことじゃないさ。これくらいなら、目をつむっていても白刃取りできる」

「で、でも、魔剣イフリートに直接触れたら、火傷じゃ済まないはずなのに……!」

「うーん、ちょっと熱いかな? 汗が出てきそう」

「あ、汗ぇ……!? えっ、ちょっとまって!? 本気でそのレベルなの!?」

「そうだけど?」


 こんな時にウソなんてつかない。


 というか、結界を展開すれば、この程度は造作もないはずだ。

 それなのに、どうして姫さまは驚いているんだろう?


 そういえば……

 試験の時に絡んできたヤツも、結界を展開している俺に、素手で殴りかかるというバカなことをしていたな?

 もしかしてもしかすると……結界を知らない?


「くっ、ならば直撃させるまでよ!」

「おわっ!?」


 姫さまが縦横無尽に魔剣を走らせた。

 さすが、『紅蓮の舞姫』と呼ばれているだけのことはある。

 それなりに剣筋は鋭い。


 でも……やっぱり、まだまだかな。


「はっ!」


 気合を入れて……魔剣を手で鷲掴みにした。


「なぁっ!!!?」


 さすがに熱いけど、これくらいなら我慢できる。

 驚いている姫さまから魔剣を奪い……

 手の平を姫さまの顔につきつける。


「チェックメイト……ですね?」

「くっ……」


 姫さまは悔しそうに歯噛みして……

 やがて、がくりとうなだれた。


「……あたしの負けよ」


 瞬間……


「「「うぉおおおおおーーーーー!!!!!?」」」


 訓練場が歓声に包まれた。


「すげえっ、すごいぞアイツ! まさか、姫さまに勝つなんて……おいおい、こんな展開誰が予想したんだよ」

「常勝無敗の姫さまに勝つなんて……しかもあの子、圧倒してたわよね? すごすぎるわ……今、歴史が動いた瞬間になるのかも」

「あの新入生、何者なんだ? 主席って聞いてたからタダ者じゃないとは思ってたが……予想の斜め上……いや。遥か上を行く存在じゃないか」


 皆、口々に俺の勝利を称えて……あれ?

 俺……なんで勝利しているんだ?

 姫さまに負けて、実は大したことなかった、っていう予定だったんだけど……


 姫さまが魔剣なんてものを持ち出すから、ついつい白熱してしまい……

 気がついたら普通に戦ってしまっていた。


「しまったぁあああああーーーーーっ!!!!!?」


 今頃になって我に返るものの、時すでに遅く……

 俺の名は、姫さまを倒した期待の新入生として、学校中に広がってしまうのだった。

『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、

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