4話 やらかしてしまわずにはいられない
不本意ながらもAクラスに振り分けられた俺は、教室へ移動した。
「あっ……フェイトくん」
スフィアの姿があった。
こちらを見つけると、トテテテと近づいてきた。
犬みたいだ。
「スフィアもAクラスだったんだ」
「は、はい……これから一緒ですね。よ、よろしくおねがいします!」
「そんなに緊張しなくても。よろしくね」
苦笑しながら、スフィアの挨拶に応えた。
「それにしても、フェイトくんはすごいですね」
「え? なにが?」
「試験のことです。私、あがり症なところがあって、ちょくちょく失敗しちゃうんですけど……それでも魔法には自信があったんです。それなのに、フェイトくんはあっさりと私の上をいっちゃうなんて……本当にすごいと思います」
嫌味ではなくて、本当にすごいと思っているらしい。
スフィアの目はキラキラと輝いている。
でも……
やめて!
こんなところでそんなことを言わないで!
「おい……今の聞いたか? あいつ、ハーヴィンさんよりも強いらしいぞ」
「え? 本当に? ハーヴィンさんって、あの賢者の娘さんよね? そんなハーヴィンさんよりも強いなんて……」
「俺、試験を見ていたけど、あいつ、無詠唱で、しかも杖なしでハーヴィンさんと近い数値を叩き出していたぞ」
周囲がざわついた。
ほら……
こうなるような気がしたから、そういう話はやめてほしかったんだ。
「え、えっと……すみません。注目されてしまいましたね」
「いや……き、気にしてないから」
たぶん、俺の顔はちょっとひきつっていたと思う。
大丈夫……まだ大丈夫だ。
焦る時間じゃない。
今は目立っているけれど……
この先、おとなしくしていれば、ほどなくして目立たなくなるはずだ。
人の噂は75日っていうし、おとなしくしていよう。
「それで、ですね……その、あの……」
スフィアがなにか言いたそうに俺の顔を見た。
「実は、その……私の主が、フェイトくんに話をしたいらしくて……す、少しでいいのでお時間をいただけると……」
「あんたねっ、試験の主席のフェイト・アーデルハイド、っていうヤツは!」
大きな声でものすごくやめてほしいことを口にしたのは、赤い髪をした女の子だった。
クラスメイトなのだから、同い年なのだろうけど……
それにしては、ものすごく発育がいい。
どこが育っているのかというと……まあ、その……色々と。
凛とした表情。
眉はピンと伸びていて、瞳はしっかりと前を見ている。
意思の強さを表しているみたいだ。
スカートとポニーテールをなびかせながら、俺の前に立つ。
「えっと……キミは?」
「あんた、あたしのことを知らないわけ?」
「うん、知らないかな」
「むぎぎぎっ……!」
なぜか女の子が怒りに顔を赤くした。
特に失礼なことは言っていないのだけど……はて?
すると、スフィアが慌てる。
「ふぇ、フェイトくん……! こ、こここ、この方は……ひ、姫さまですよ!?」
「姫さま? ……えっ、お姫さまっ!!!?」
女の子が得意そうな顔になる。
「ふふんっ、そういうことよ! このあたしこそ、ラナリア王国第三王女、セリス・アズ・ラナリアよ!!!」
「……ぷっ」
「ちょっ……!? あんた、なんで笑うのよ!?」
「いや、だって……見え見えのウソなんだもん。こんなところに王女さまがいるわけないし。ウソをつくなら、もっとマシなウソをつかないと」
「ウソなんかじゃないわよ! あたしは本物の王女よっ!!!」
「はいはい、王女さま王女さま。すごいなあ」
「あわわわっ」
自称王女さまを軽くあしらっていると、スフィアが顔面蒼白になるのが見えた。
他のクラスメイト達も顔を青くしていた。
え?
なにその反応?
それじゃあ、この子が本物の王女さまみたい……え? マジ?
「ふぇ、フェイトくん! 姫さまは本物の姫さまですっ……わ、私が仕えているのも姫さまで……あうあう……と、とにかく本物ですからね!?」
「え……マジで?」
「ま、マジです」
「もしかして、もしかしなくても……本物の王女さま?」
「そう言っているでしょ! ほらっ」
彼女は指輪を見せつけてきた。
ラナリア王家の紋章が刻まれている。
当たり前だけど、王家の紋章を勝手に使用することはできない。
そんなことをすれば大逆罪で逮捕だ。
つまり……本物!!!?
「す、すみませんっ!!! こんなところに王女さまがいるわけないって、そう思っていたから……つ、ついっ!!!」
「王女でも、15歳になれば勇者育成学校に通わないといけないのよ。そこに身分の差はないわ。っていうか、あんたウチの国民のくせにあたしの顔を知らなかったの?」
「ホントすみません! その、田舎の農家の息子なので、そういう情報には疎くて……」
「ふんっ、まあいいわ。今の無礼は許してあげる。あたしのスフィアが世話になったみたいだし、特別よ」
「あ、ありがとうございます……」
よかった……
これで打首になっていたら、死んでも死にきれないぞ。
「えっと……それで、俺になんの用でしょうか?」
「あんたのせいで、あたしが主席の座に就けなかったじゃない! どうしてくれるのよ!?」
「え……? そんなことを言われても……」
「あんたがいなければ、絶対にあたしが主席になっていたのに! もうっ、悔しいったらありゃないわ!」
「ちなみに、王女さまの試験の点数は?」
「82よ」
「それ、スフィアよりも低いじゃないですか。自分のメイドに負けるって……ぷっ。っていうか、その点数なら俺がいなくても、主席にはなれなかったと思いま……あっ」
ついつい、うっかり本音を口にしてしまう。
王女さまは……
「……」
無言だった。
ジト目で、じーーーっとこちらを見つめてくる。
ややあって……笑う。
「あはははっ! このあたしにそんな口をきくなんて、あんた、変わっているのね!」
「ど、どうも……」
なぜだろう……
笑っているはずなのに、ものすごいプレッシャーを感じる。
「今まで、あたしにそんな口をきいたヤツはいないわ。だって、あたしは王女だもの。ふざけた口をきけるわけがないわよね。でも……あんたは、あたしに真正面からぶつかってきたわ」
「え、えっと……それはなんというか、事故みたいなもので……」
「気にすることないわ。あたしも気にしていないから。むしろ、あんたのことを気に入ったわ。あんたみたいなヤツ、あたしの周りにいないタイプなんだもの」
「本当ですか……!?」
「……なんて言うわけないでしょ」
王女さまは、人間ここまで怒りを露わにできるのかと思うようなとんでもない形相をして、俺を睨みつけてきた。
視線だけで人が殺せるのなら、俺はもう死んでいるだろう。
「あっっっっったま来た!!! 本気で、心底、完璧にムカついたわ!!!」
「完璧にムカついたって、言葉がおかしいのでは……?」
「そういうところにイチイチツッコミを入れるところもムカつくわ!」
藪蛇!?
「あんたっ、あたしと決闘しなさい!」
「け、決闘……!?」
「あたしの力で、あんたのことを叩きのめしてあげるわ!」
まずいまずいまずい。
王女さま相手に決闘なんてしたらどうなることか……!
というか、目立ちたくないのに、なんでこんなことに!?
はい、自業自得ですね。
色々と気をつけないといけないのに、本能のままに生きているというか、思ったことを口にしてしまう自分のことが憎い。
「あわっ、あわわわ……ひ、姫さま! その、あの、あのあのあのっ……!」
フォローしてくれるらしく、スフィアが話しかけようとしていた。
「……きゅうっ」
スフィアには荷が重かったらしく、目を回してしまった。
うん、そんな予感がしていたよ。
って……待てよ?
うまい具合に負ければ、俺の実力をごまかすことができるんじゃないか?
今は、スフィアより上の成績を叩き出したということで俺が目立ってしまっているが……
決闘で負ければ、「なーんだ、あいつ、やっぱり弱いのか」ということになって……目立たなくなる!
いいぞ、完璧だ!
逆境をチャンスに変えるなんて、冴えているじゃないか、俺!
きちんと決闘に負けて、妙な方向に上昇してしまった俺の評価をストップさせよう。
「わかりました。その決闘、受けます!」
こうして、俺は王女さまと決闘をすることになった。
しかし……この時、俺は気づいていなかったのだ。
王女さまと決闘なんてしたら目立って目立って目立ちまくる……ということを。
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