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3話 なんでこんなことに……!?

明日からは1日1回、12時に更新します。

 大丈夫だ。

 まだ平気だ、そうに決まっている。


 アイクを相手にやらかしてしまったものの……

 でも、それを目撃したのはスフィアと、その他少数だ。


 それくらいなら問題ないと思う。

 俺が元勇者であることもバレないと思う。

 必要以上に目立つことはないと思う。


「よしっ」


 まだ大丈夫。

 そう自分に言い聞かせると、少しは落ち着くことができた。


 そうやって気持ちを切り替えて……

 俺は試験を受けることにした。


「新入生のみなさん。ようこそ、勇者育成学校へ!」


 グラウンドに整列する新入生たち。

 その前の壇上に、たっぷりの髭をたくわえた初老の男の人が登る。


「わしは、この勇者育成学校の校長を務める、デシル・アスベジオじゃ。これから3年間、よろしくな」


 心の中でよろしくおねがいします。


「では、これよりクラス分けのための試験を行う。この試験の結果次第で、諸君の未来が決定されるといっても過言ではない。各々、己の最大限の力を見せて、実力をアピールしてくれたまへ!」


 デシル校長先生の挨拶の後、俺たちはグラウンドの端に集められた。

 訓練用の木人が並んでいる。


「では、みなさん。今から順番に名前を呼ぶので、あちらの木人に攻撃をしてください。武具でも魔法でも、なんでも構いません。己の力をアピールしてください」


 あの木人は魔法人形だ。

 受けたダメージを数値化してくれるという優れもので、なおかつ耐久性が高い。

 力を測るにはうってつけ、というわけだ。


「次、ハイル・ソルトくん」」

「はいっ!」


 試験官の合図で、次々と新入生たちが試験に挑んでいく。

 武技を繰り出す人。

 魔法を使う人。

 色々な方法で木人に攻撃を与えていく。

 『46』『41』『36』という数値が続く。


「次、スフィア・ハーヴィンさん」

「は、はひぃ……!」


 スフィアの番がやってきた。

 ものすごく緊張しているみたいだけど、大丈夫かな……?


「スフィア、スフィア」

「え……?」


 木人の前に移動しようとするスフィアを小声で引き止めた。


「がんばって。応援しているよ」

「あっ……はい!」


 スフィアはにっこりと笑う。

 よかった、うまい具合に緊張が解けたみたいだ。


「スフィア・ハーヴィン……いきます!」


 スフィアは魔法使いらしい。

 杖を構えて、魔法を唱える。


「炎よ。我が呼びかけに応えよ。荒れ狂う紅蓮。猛る灼熱。今こそ力を示せ……紅の一撃!」


 ゴオッ! という音と共に、木人が炎に包まれた。

 炎は渦を巻いて、天に届くほどに高く上り……

 ほどなくして霧散した。


 プスプスと煙を上げて、黒焦げになる木人が残される。

 その上に『92』という数値が表示された。

 100点満点の表記で、他の人は50にも届いていなかったし……かなり良い成績じゃないだろうか?


 試験官も感心するような顔になる。


「ほう……まさか、90点を超える人が現れるなんて。すばらしいですね」

「は、はひっ……! ありがとうごじゃいましゅっ」


 スフィアは緊張のあまり噛んでいた。

 かわいい。


「おや? もしかしてキミは、ハーヴィン家の娘さんなのですか? あの偉大なる賢者、オズ・ハーヴィンの娘さん? 今はメイドをしているけれど、幼い頃から賢者さまの教えを受けていたという、賢者の娘さん?」

「はいっ……そ、そそそ、そうです!」

「なるほど。それは納得ですね。オズ様の娘さんだからこそ、この威力というわけですか。うん、実に将来が楽しみですね。期待していますよ」

「あ、ありがとうございます!」


 あれ?

 ついつい、かわいいスフィアをじっと見ていたのだけど……

 今、二人はなにを話していたんだろう?

 うーん、よくわからないな。


「次、フェイト・アーデルハイドくん」

「はい」


 俺の番になった。

 名前を呼ばれて我に返る。


「さあ。武技でも魔法でも、なんでもいいからキミの力を見せてください」

「わかりました」


 とはいえ、どうしよう?

 本気を出した方がいいのかな?

 必要以上に目立ちたくないけど、でも、落ちこぼれ扱いされたら素敵な学生ライフなんて送れないだろうし……


 そうだ!


 スフィアの真似をしよう。

 同じことをすれば、俺も高得点が得られるはずだ。

 スフィアという前例がある以上、それほど目立つことはないだろう。


「じゃあ、魔法を使います」

「わかりました、魔法ですね? フェイトくんは魔法使いなのですか?」

「いえ、どちらかというと剣の方が得意です。ただ、今は剣を持っていないので」

「貸し出しもできますよ?」

「大丈夫です。面倒なので、魔法でいきます。魔法はあまり得意じゃないですけど、それでも、多少は自信ありますから」

「ふむ。まあ、自信があるというのなら……では、フェイトくんの力を見せてください」

「はい、いきます!」


 スフィアと同じ魔法を選択する。

 その上で威力をちょっとだけ絞る。

 そうすれば高得点で……それでいて、スフィア以下ということで、目立つことはないだろう。


「紅の一撃!」


 木人が炎に包まれた。

 『87』という数字が表示された。


 やった!


 そこそこの高得点。

 それでいてスフィアよりも下だ。

 これなら目立つことはないだろう。


「え……詠唱なしで魔法を……? しかも、魔力を上昇させる杖も使わずに……?」


 しまったあああああぁ!?

 詠唱を忘れていた!

 杖を使うことも忘れていた!


 で、でも、数字はスフィアよりも下だから、まだ大丈夫……!


「しかも、あの賢者の娘さんであるスフィアさんに匹敵する力……しかも、得意ではないという魔法で、ほぼ同じ数値を叩き出すなんて……と、とんでもないですね……」


 賢者の娘ってなに!?

 なにそれっ、聞いてないんだけど!?


 俺、そんなすごいスフィアとほぼ同じ数値を出しちゃったの!?

 しかも、得意じゃないって言っちゃった魔法で!?


 やらかしたぁあああああっ!!!?


 心の中で絶叫して、俺は思わず頭を抱えて、その場でうずくまってしまうのだった。




――――――――――




 試験が終わり……

 しばらく待機した後に、クラスが発表されることになった。


 クラスはAからEの五つだ。

 Aは優れた成績を出した、エリートが集められるクラス。

 Eクラスはその逆だ。


 Aクラスに配属されたら、絶対に目立ってしまう。

 イヤだ。

 絶対にイヤだ。

 勘弁してほしい。


 でも、Eクラスになると、それはそれで逆に目立ってしまうかもしれない。

 あと、素行が悪い人が集められると聞くし……


 中間のCクラスがいいな。

 きっと普通のクラスだろう。

 目立つことなんてなくて、穏やかに過ごすことができるはずだ。


「それでは、これからクラスを発表していきます。まずはAクラスから。試験で最高の成績を収めた、今、もっとも力のある生徒を発表しましょう」


 C、C、C、……Cクラス!

 心の中で必死になって祈る。


 その結果は……


「栄えある主席は……フェイト・アーデルハイドくん!」


 ですよねっ、そうなりますよねっ!?

 ある程度、予想していましたとも!


 ちくしょおおおおおっ!!!


 ……こうして俺は、目立ちたくないのに、もっとも目立つ方法で勇者育成学校に入学してしまうのだった。

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