28話 非常事態
……生徒の様子を見守る教師たちは、あれこれと慌ただしく動いていた。
校外学習が始まり、3時間が経過した。
あちらこちらでギブアップする班が続出して、その対応に追われていた。
そのため、フェイトをしっかりと観察するように言われていた教師も、外に出て別の仕事をしていた。
そして……
「ふう……」
忙しい時間が過ぎ去り、ようやく余裕を取り戻すことができた。
疲れているが、泣き言は言っていられない。
まだ全ての班がギブアップしていないのだ。
残された班は……
「アーデルハイドくんがいるところ……ですね」
しばらく観察していなかったけれど、なにかやらかしていないだろうか?
一度気になると、妙に気になってしまう。
「おーい」
「あ、どうも。おつかれさまです」
用事を終えたらしく、同じく席を外していた同僚の教師が戻ってきた。
「そっちの様子はどうだ?」
「私も外の対応に追われていて……しばらく席を外していました」
「そうか……アーデルハイドは? それと、姫さまは?」
「これから確認するところです」
「頼む。まあ……相手は、あのゴーレムだ。さすがのアーデルハイドも、為す術はないだろうな。ゴーレムを倒せるとは思えないし、ダンジョンをクリアーすることはないだろう」
「そうですね、そんなことは……」
ありえない、と言おうとしたところで……
ぱぱぱらーん♪
気が抜けてしまうような、妙なファンファーレが鳴り響いた。
「「……」」
二人の教師が固まる。
そのファンファーレは……
ダンジョンがクリアーされた時に鳴り響くものだった。
「ど、どういうことだ!?」
「わ、わかりません!」
「すぐに確認しろ、今すぐにだ!」
「は、はいっ」
慌てて魔道具を起動して、フェイトたちの様子を見る。
すると、そこには……
「「うそぉ……」」
ゴーレムの手足を縛り上げて、その間にダンジョンの核を壊すフェイトの姿があった。
ありえない光景に、教師二人は唖然として、そのままフリーズしてしまうのだった。
――――――――――
ゴーレムは強大な力を持つ相手だ。
そんなやつとまともに戦う必要はない。
長い縄を用意して、ゴーレムの周りをぐるぐると回る。
幸いというか、ゴーレムの動きは遅いので捕まる心配はない。
そのままゴーレムの足を絡め取り、地面に倒す。
そうして動きを封じたところで、今度は手を縛り上げる。
命綱などに使われる特殊な繊維が練り込まれた縄だ。
いくらゴーレムといえど、そうそう簡単に破ることはできない。
そうして……ゴーレムの動きを封じた俺たちは、そのまま奥へ移動して、ダンジョンの核を砕いた。
「やったわ! クリアーよ!」
「なんで姫さんが偉そうにしてるんだよ。フェイトのおかげじゃねえか」
「フェイトはあたしのもの。それでもって、あたしのものはあたしのもの。つまり、あたしの功績ということよ!」
なにその理論、怖い。
「アーデルハイドくん、聞こえますか!?」
突然、先生の声が響いた。
でも、先生の姿はない。
どういうことだろう?
「あそこから聞こえるわ」
セリスが天井を指差した。
見ると、小型の魔道具が設置されている。
形状からして、ここを監視する魔道具かな?
監視するだけじゃなくて、声も届けることができるなんて驚きだ。
戦いの技術は衰えているけれど、文明レベルは発展しているのかもしれない。
戦う必要がなければ、その技術は衰退するけれど……
人は、より豊かな暮らしを求めるものだから、文明レベルは上昇したんだと思う。
「アーデルハイドくん! それに、姫さまとスフィアさんも!」
「俺だけ呼ばれてねえし……」
ノウンがちょっと拗ねていた。
「なんですか? 先生」
「よかった、ちゃんと聞こえていたんですね……今すぐにそこから避難してください!」
「え? どうしてですか? ちゃんとクリアーしたのに」
「それがいけないんですよ!」
「えっと……?」
「このダンジョンは、みなさんの育成のために学校が改造したもので……絶対にクリアーできないように設計していたんです。だから、核が壊される事態なんて想定していなかったんです!」
「言いたいことがよくわからないんですけど……別に核を壊したからといって、ダンジョンが消滅するわけじゃあるまいし……」
「そんな仕様にはしていません。ただ、ダンジョンの動力源たる魔力を確保するために、核一つでは足りなかったんです。そこで、強力な魔物を封印することで、魔力を確保していたのです。その封印に必要なのが……」
「……もしかして、核ですか?」
「そういうことです! つまり、今は封印が解けた状態で、魔物が……!」
なんで、そういう無茶苦茶な仕様にするのかなあ!?
なにかの弾みでクリアーされることだってあるだろうに!
戦術が衰退しているせいか、先の見通しが甘すぎるよ。
「フェイト、見て!」
セリスの悲鳴のような声。
振り返ると、ダンジョンに封印されていた魔物……ドラゴンが姿を見せたところだった。




