26話 ガーディアンゴーレム
2時間後。
「ここが地下五階……ゴールがあるところか」
俺たちは最下層に到達していた。
途中、たくさんの魔物に遭遇したり、色々な罠に襲われたものの……
いずれも大したことはなくて、進軍の足を止めることはなかった。
おかげで、かなりのハイペースで最下層に到達できたと思う。
目立つことは嫌いだけど……
でも、俺って、負けず嫌いなところもあるんだよな。
ここまできたら、せっかくだからクリアーしたい。
「みんな、がんばろうか! あとちょっとだよ」
「「「ぜぇっ、ぜぇっ、ぜぇっ……はぁ、はぁ……ひぃ……」」」
なぜかみんな、疲労困憊だった。
膝に手をついていて、肩で息をしている。
顔は汗がたっぷりだ。
「えっと……どうかしたの?」
「フェイトこそどうしたんだよ!?」
ノウンがなぜか声を荒げた。
「連戦に次ぐ連戦。それでもって、さらに連戦。休む間もなくて……こんなの、体力が削られる一方だろうが……なんで平然とした顔をしてるんだよ?」
「それに、罠も山みたいにあって……はぁ、ふぅ……全部、回避することは不可能で、いくつか引っかかったていうのに……フェイトはなんてことない、って顔をしてるし……」
「はぁ、ひぃい……落とし穴に落ちた時、ラッキー♪ ショートカットだね……なんて言えるフェイトくんは、めちゃくちゃだと思いますぅ……」
「えっと……そんなことはないよ。俺、普通だよ?」
「「「異常だから!!!」」」
揃ってツッコミを入れられてしまった。
むう。
これくらいは、なんてことないと思っていたのだけど……
これでもダメなのか?
わりと力を抑えたり、加減をしたつもりなんだけど……
うーん、さじ加減が難しいなあ。
でも、もういいや、と投げ出すわけにはいかない。
のんびり平穏ライフがいいんだ。
しっかりと勉強して、目立たないようにしないと。
「あ、他の班の人かな?」
少し歩いたところで、大きな広間に出た。
地下なのに天井も高く、前後左右に空間が拡がっている。
そこに見覚えのある顔が4つ、並んでいた。
クラスメイトだ。
四人共疲れたような顔をしていて、地面にへたりこんでいる。
「どうしたの?」
「あ……アーデルハイドくん。それに、姫さまも……」
「なんか、やけに疲れた様子ね? でも、こんなところでへばっていたら、魔物の餌になっちゃうわよ」
「あ、大丈夫です……心配してくれて、ありがとうございます」
「俺たち、もうギブアップしたんで……すぐに先生が迎えに来てくれるかと」
「え? ぎ、ギブアップしたんですか……?」
「マジかよ。ゴールは目の前じゃねえか」
スフィアとノウンが驚くが、その反応は予想していたというように、クラスメイトたちは乾いた笑みをこぼす。
「ははは……僕たちも、そう思っていたんだけどね。あとちょっとでクリアーできる。攻略不可能なんて大げさじゃないか、ってね」
「でも、それは現実を知らない、てんで見当違いの考えだったっていうことを思い知らされたよ……」
「まさか、あんなものが用意されているなんて……こんなの、どう考えてもクリアーできるわけがない……」
なにがあったのかわからないけど……
クラスメイトたちは、すっかりと心が折れてしまっているみたいだ。
この先になにが待ち受けているのか?
さすがに、少し緊張してきた。
「この先に行くなら、覚悟を決めた方がいいよ……」
「うん、そうするよ。ありがとう」
脱落したクラスメイトたちに見送られながら、俺たちは奥へ進む。
ほどなくして輝きが見えた。
まるで、太陽が地面に埋まっているかのような……
まぶしいと思うほどの光が奥であふれていた。
しかし、その手前に……
「おいおいおい……なんだよ、こいつは……」
ノウンの声はわずかに震えていた。
それも仕方ないかもしれない。
奥にある光……ダンジョンの核となる魔石を守るように、巨大な影があった。
大きさは5メートルくらいだろうか?
丸太のような手足に、頑丈な石で作られた体。
そして、人の大きさ以上もある巨大な剣。
「うっそ……こいつ、ゴーレム……?」
「古代文明の遺産……その力は一騎当千と言われています。その攻撃力は常識を疑うようなもので……それだけじゃなくて、ありとあらゆる攻撃、魔法に耐性があると言われていて……ま、まさか、こんなところで遭遇するなんて……」
みんなは驚いているけど、俺にとっては懐かしい顔だった。
昔は、ゴーレムに警備を任せて、人々は農作をしていたからなあ……
ゴーレムはとても優秀な兵士だ。
スフィアが口にしたように、とても戦闘能力が高い。
そこらの魔物では歯が立たないだろう。
仮に、百対一になったとしても、ゴーレムが打ち勝つだろう。
それだけの力がある。
それと、命令に対して絶対服従だ。
主の命令を忠実に守り、実行する。
力だけではなくて、忠誠心も持ち合わせているのだ。
「えっと……」
試しに、横から回りこんでダンジョンの核に近付こうとした。
すると、ゴーレムが動いて俺の行く手に立ちはだかる。
「こいつ、ダンジョンの核を守っているみたいだね。今はなにもしてこないけど、必要以上に近づくと……おっと」
ゴーレムが巨大な剣で薙いできた。
後ろに跳んで避ける。
「この通り、攻撃してくるみたいだ」
「お、おい、フェイト。大丈夫か……? っていうか、今の攻撃、よく避けられたな……」
「え? そりゃ避けられるでしょ」
ゴーレムは力はとてつもないけれど、速度はそれほどでもない。
慎重に攻撃を見極めることができれば、避けるのは困難じゃないはずだ。
「すげえな……あんなバケモンを相手にして、まだ余裕があるのかよ。さすがだぜ」
「うんうん、フェイトはすごいんだから♪」
なぜか褒められてしまう。
俺、当たり前のことをしただけだよね……?
なんで……って、そうか!
ゴーレムについての詳しい情報なんて、みんなは持っていないか。
それなのに、俺が初見で攻撃を避けてみせたものだから、当然のごとく驚いて……
あああぁ、またやってしまった!?




