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13話 つきまとう影

 神経質そうな男の声が響いた。

 視線をやると、不機嫌そうな顔をした男がこちらに歩いてきていた。


 制服の上着を見ると、黒だった。

 学年ごとに制服の色が異なる。

 黒は二年生で赤が三年生。

 俺たち一年生は白だ。


 ということは、あいつは一つ上の先輩か。


「こんなところに……しかも、相変わらず姫さまと一緒にいるなんて! どこまで僕に恥をかかせるつもりだっ、こっちへこい!」

「きゃっ!?」


 男はいきなりスフィアの手を掴み、そのままどこかへ連れて行こうとした。


「ちょっ……あんた、いきなりなにすんのよ!?」

「姫さまは黙っていてください。これは、我が家の問題です」


 男はセリスの言葉も無視して、スフィアを連れて行こうとした。

 事情はよくわからないけど……

 うん。

 どうみても男が悪いよね?


 というわけで、スフィアを返してもらう。


「ちょっといい?」

「なんだ、おまえは? 僕は忙しい、用があるなら今度に……うおっ!?」


 スフィアに触れる男の手に触れる。

 クイッと捻り……

 瞬時に互いの位置が入れ替わり、俺がスフィアを掴む形になる。


「な、なんだと……今のは……貴様、いったいなにをした?」

「合気道という東の国の格闘技のようなもので……あっ、まった! 今のなし、なしで」


 危ない危ない。

 妙な技が使えるということが判明したら、また目立ってしまう。

 適当にごまかしておかないと。


「俺は特になにもしてないよ。そちらが手を勝手に離しただけじゃないかな?」

「そのような戯言を信じろと?」

「事実だからね」

「……くっ、底が見えないな。まさか、こんな男がいるなんて……」


 男は汗をかきながらも、忌々しそうにこちらを睨みつけた。

 俺も負けじと睨み返した。

 本気で睨むと威圧してしまいそうなので、ほどほどにとどめておく。

 ここでやらかすようなことはしない。

 俺は学習する男なのだ。


「ちっ……! スフィア、次、俺が来る時までに荷物をまとめておけっ、いいな!?」


 男は吐き捨てるように言い、屋上から立ち去った。


 男のことは気になるけれど……

 今はスフィアだ。


「スフィア、大丈夫?」

「は、はい……あ、あり……ありがとうございました……」


 スフィアはかわいそうなほど怯えていた。

 顔を青くして、手足を震わせて……

 迷子になり、途方に暮れた子供のような顔をしていた。


「大丈夫だから」

「あっ……」


 スフィアを抱きしめた。

 震えが止まるように、その細い背中に手を回した。

 それと同時に、ぽんぽんと頭を撫でた。


「ほら、もう怖いヤツはいない。だから大丈夫……大丈夫だ」

「……はい」


 スフィアの震えが止まる。

 穏やかな顔をして、こちらに抱きついてきた。

 そのまま……


「じぃぃぃーーーーー」

「はぅ!?」


 セリスの刺すような視線に気がついて、スフィアは慌てて距離をとる。

 その顔はリンゴのように赤い。


「ちっ、ちちち、違いますからね姫さま!? 今のは不可抗力といいますか、なんていいますか、決して姫さまのフェイトくんにちょっかいをかけていたわけでは、あわわわわわっ!?」

「慌てないの」


 セリスは苦笑しながらスフィアの頭の手を置いて……

 そのまま、よしよしと撫でる。


「変な勘違いなんてしないわよ。そりゃあ、ちょっとはモヤッとしたけど……でも、事情は理解してるつもりよ」

「あ、ありがとうございます、姫さま……あううう」

「よしよし、怖かったわね」


 その後、スフィアはセリスの胸の中で泣き出してしまい……

 そのまま昼休みが終わってしまうのだった。




――――――――――




 午後の授業は魔法の講義だった。

 壇上の上で、先生が黒板に魔法の式を書いて、あれこれと説明している。


 ただ、その説明は俺の耳にまるで入ってこない。

 昼休みに現れた男……気になるな。

 スフィアの関係者みたいだけど、彼女に高圧的だったし……いったい、何者なんだろう?


 セリスとの一件で、俺はかなり目立ってしまった。

 地味で安定した生活が遠のいてしまった。


 これ以上、やらかして目立つわけにはいかないのだけど……

 状況によっては、そんなことを気にしていられないか。


「……くんっ、アーデルハイドくんっ」

「えっ?」


 考え事に没頭していたらしく……

 気がつくと先生に呼ばれていた。


「は、はい。なんですか?」

「私の話をちゃんと聞いていましたか?」

「もちろんです」

「なら、この問題を解いてみなさい」


 まずい。

 本当は、まるで話を聞いていなかった。

 かといって、やっぱり聞いてませんでしたごめんなさい、で済ませられるとは思えない。

 なんとかならないものかと、とりあえず壇上へ移動して問題と向き合う。


「……あれ?」


 黒板に書かれていたのは、とある魔法の詠唱だった。

 ところどころ歯抜けになっていて、その部分を埋めなさい、という問題なのだろうけど……


「先生。この問題、おかしくありませんか?」

「え? どういう意味ですか?」

「だって、ほら……ここをこうして、さらにこうすると……」


 間違っている……というか、非効率的な詠唱が書かれていた。

 その部分を書き直して……


「これで、よりよい魔法になったと思えませんか?」

「ちょ、ちょっと待ちなさい。そんなことが……あ、あるわ……」


 書き直した詠唱を見て、先生の顔色が変わる。


「この詠唱、す、すごいわ……消費魔力が抑えられるだけではなくて、威力も倍に上昇する計算に……まさか、このような方法があったなんて……こんなこと、今まで考えもしなかったわ……」


 先生が驚いて……

 そんな先生の姿に、さらにクラスメイトたちが驚く。


 それから、先生とクラスメイトの視線が俺に集中したところで……


「あっ……!?」


 やらかした!?

 ぼーっとしてたから、特に考えることなく行動してしまった。


 この時代は力、魔力共に、1000年前と比べると遥かに衰退している。

 平和な時代だから必死に鍛える必要がなくて、緩やかに下降していったのだろう。


 そんな時代で、1000年前の技術、知識を披露したらどうなるか?


「す、素晴らしいわっ! あなたは……そう、あなたがフェイト・アーデルハイドくんなのね? 新入生試験でとんでもない記録を叩き出して、セリス第三王女との決闘にも勝ったという。ぜひ、今度魔法について語り合いましょう!」


 ……こうなるよね、うん。

 ダレカタスケテ。


 ……その後。

 必死に食い下がる先生をなんとか落ち着かせて……

 話をうやむやにするのに30分も使ってしまい、結局、授業はそのまま終わりになった。

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