2.約束
カインはつかつかと騒ぎになっている方へ、少女を連れて歩いていった。
「あぁ、カイン。アインを見つけてくれたのか。」
騒ぎの中心にいた保護区の職員がカインを見つけて寄ってくる。カインは少女を自分の背中に隠しつつ、職員に言った。
「彼女、お腹が空いたみたいだよ。僕、食堂に連れてってもいいかな。登録とかは後にしてもらってもいいよね?」
淡々と言い放つカインに、職員は一瞬たじろいだ。保護区ではなによりも吸血鬼が優先であり、優位な存在だ。一般の職員は吸血鬼の言うことにはあまり逆らえない。
「まぁ、そう言うなら…食事が終わったら、登録手続きに来てもらうからな。」
しぶしぶ言って、職員は戻っていく。
ホッと息をついて、カインは少女に向き合った。
「えーっと、アイン、だったよね。改めて、僕はカイン。ここ吸血鬼第9保護区に住む吸血鬼だ。詳しいことは、今から説明しよう…僕についてきて。」
少女ー…アインは、カインを見て、恐る恐る頷いた。
カインは、アインを食堂ではなく自室に連れてきた。彼女が人間であったなら、食堂での光景は少なからずショッキングなものだ。
「君は本当に人間かい?」
単刀直入にカインは聞いた。彼女はビクッとしたあと、口を開く。
「どういう、意味…?わたしは人間よ…吸血鬼って、なに?作り話の存在じゃないの?ここは、なに…?」
混乱しているアインを見て一つ息を吐くと、カインは丁寧にここはどこなのか、吸血鬼の存在とは、そして彼女が人間とバレたらどうなるのかを説明した。説明すればするほど、アインの顔は青くなっていく。
「そんな、どうして私がこんなところに…!」
「その外見から、勘違いされたんだろう。たまに有るらしいんだ、僕も初めて見たけど…。とにかく、君が人間だとバレたら、確実に処分される。」
「そんな…!」
「そこで、僕に提案がある。ここでしばらく、僕の話し相手になってくれないか。ここにはあまり、僕と同じくらいの年齢の吸血鬼がいなくてね、ちょうど話し相手が欲しかったところなんだ。その代わり、いつかここから、バレないように逃がしてあげる。どちらにしろ、今すぐは逃げられない。職員に連れてこられたばかりだしね…僕のそばにいてくれれば、危ない目には合わせないよ。君を逃がしてあげられるその日まで、僕のそばにいてくれないか?」
淡々とカインが言うと、アインはぽかんとカインを見上げた。
急な提案だし、なかなか理解しがたいものもあるだろう。拒否されたらどうするか、どうしようかな…とカインがぼんやり考えていると、不意にアインが微笑んだ。花がふわりと咲いたような微笑みに、カインは一瞬見惚れる。
「おかしなことを言う吸血鬼なのね、カインは。ありがとう、あなたのそばでなら、ひとまず生活できそう。あなたのそばにいさせて、カイン。わたしをここから逃がしてくれる、その日まで。」
カインとアインの日々は、こうして始まりを迎えたのである。