起きたら病院じゃなかった件
意識を失ってからどのぐらい経ったのかわからない
フッと意識が浮上する感覚と共に体がバネのように跳ね起きた
「プリンは無事か!!!」
そう言いながら周りを見渡す
薄暗く霧が濃い。
街中のようだがどこか寂れていて人気がない
病院ではない事は明らかだ
病院ではないならここはどこだ?
頭をよぎったのは死後の世界という言葉
まだ家族と話し足りないのに、プリンも食べてないのに私は死んでしまったと言うのか。
「みんなでプリン…食べたかったなぁ…」
そんなつぶやきは誰にも届かず霧の中に消えていく
ああ、そうか。自分は死んでしまったのか。
泣きそうになるのを堪えて一度自分の頬を勢いよく叩く。バチンといい音がした
「泣くなよ私!死んだのなら仕方ない、来世に期待しよ。神様がいたらホラゲ好きの家族じゃないところに転生させてもらお、そうしよう」
本当はあの家族の元に戻りたい、ホラゲ好きが嫌なだけであの家族は最高の家族だったからだ
また泣きそうになる
「泣くなよ馬鹿…!」
自分に言い聞かせるように呟いた
とりあえずここから移動するしかなさそうなので重い腰を上げ体についた砂を払う
生きていた頃の服とは違う服になっているのに今気がついた
血と泥で汚れたような汚らしい格好だ
せめて死んだのならそれなりに綺麗な格好にしてくれるもんじゃないのか?
これだけ汚いのだ、まさか臭いは…と心配になり体を臭う。特に変な臭いはしない
ほら、一応華の女子高生だからそう言ったところはしっかりしないとね、なんてくだらない事を考えながらぼちぼち歩き出した
霧が濃いとは言えある程度のものは見える。
日本とは違う建物が並ぶここは道も広いしメインストリートか
死んだら外国に飛ばされるのかすごいな、なんて悠長に考えていると目の前に人影が
第一村人発見!この濃い霧の中でも気付いてもらえるように手を振りながら走って向かった
「おーい!すみませーん。そこの人ー」
私の声に気付いたのか振り向いてくれた。
こちらを向いた瞬間構えられる黒いもの
バンッとすごい音を立てて何かが発射された。
街中にこだまする発砲音それが何なのかすぐわかって体が固まった
上手い事外れてくれたがあれは100%拳銃だ
ああ。普通にやべぇ
私は真顔で踵を返し走り出した。
どこまで走ったのか分からないがかなり走った
全力で走った。今なら陸上部入れてエースも狙えるんじゃないかってぐらい本気で走った
人間死を覚悟したらここまで体が動くんだな、と感心する
いや、よく考えろ。私死んでるじゃん。
そこでハッとした。
なんなら1発ぐらい当たってみてみるのも良かったんじゃないか…
日本にいる限り銃で撃たれる事ってそうそう無い
全く惜しい事をしてしまったのかもしれない
というかなんで死後の世界で拳銃?そんなに物騒なのかこの世界は。
ああでも地獄に落ちても鬼とかいるしそう言った類のものがいるのかもしれない
そんな馬鹿な事を考えながら歩いているとどうやらここは街の端まで来たようだ
ちなみに端はどうなっているかというと何もない。本当に何もないのだ
真っ暗闇でそちらに向かおうとすると見えない何かにぶつかる
ここから出たいとかそういうわけではないがこの先の暗闇が気になるのだ、単なる探究心
コンコンと叩いてみたり、張り手をしてみたりビクともしない見えない壁
いっそ石で殴ってみるか?とそこら辺に転がっていた石を持って投げつけてみる
もちろんビクともしない、なんなら弾き返ってビビった
どうする事もできない今の状況に溜息を吐き、その場にしゃがみこむ。
どこに向かえばいいのか、何をすればいいのか分からない
家は沢山あるが人の気配がないのは起きてから気が付いていた。勝手に家に入るわけにもいかないし手詰まりだ。
元の道を戻ればさっき銃を撃って来た人とは会えるだろうが冷静に考えてみよう
普通に危ない。
さっきまで撃たれてみてもいいかもなんて考えていたが冷静になってみるとなんとも馬鹿な事を思っていたんだと思う
手詰まりだ、完全に詰んだ。
どうすりゃいいんだよ、と悪態をつきながら小さな石を見えない壁に投げ続けた
この街は日が暮れる事もないようで時間の経過が全くわからない
ぼーっと石を投げ続けた結果は特にない
ただ無駄に時間が過ぎたようだ
どうしようかと、立ち上がった時古びたアパートのドアが開いた
人がいたのか!ありがてえ!と慌ててアパートに走った
そこに立っていたのはなんとも言えない、うん本当に何とも言えない
顔面は焼き爛れ、服も焦げてそのグラマラスなボディが所々さらけ出されている
うーんファビュラス。
頭には看護帽か?とりあえず焦げているが間違いなく目の前にいるクリーチャーは看護師だ
片手には包帯が沢山入った籠を持ち、もう一方の手にはありえなく大きい鉈
私は思わずフッと笑い、銃と対峙した時より早く走り出した
死ぬ。殺される。コロコロされちゃうっ。
あれは完全にあかんやつだ
あかんて言うか、あかんやつ。
語彙力とかもうどうでもいい
あれは対峙しちゃいけないやつ。
私が嫌いなアレだ
アレがアレでコレがコレなもんでってもう言いたいことは伝わったよね
とりあえず逃げろ私
「あ…走ってっちゃった…」
ここのエリアは危ないのに。
残されたクリーチャーはどうしようとオロオロしていた
「ねえどうしたの?立ち止まって」
後ろから声をかけられそのクリーチャーは振り向いて困ったように言った
「さっきね。女の子がいたんだけど走って逃げちゃって。このエリアって基本私達の住居区域じゃないから色々危ないじゃない?追いかけようかどうしようかなって」
「それは追いかけてあげようよ!ここアイテムエリアだから危ないわよ!」
「やっぱりそうよね…その子あっちに走っていったの!行きましょう!」
そう言い走り出した
ここまで来れば安全だろ。全力で走りきり路地に逃げ込んだ。
息が出来ない。元々引きこもり体質で運動は得意じゃない
先程からの運動神経は生命の危機に瀕した時に出た火事場の馬鹿力と言えるだろう
怖さと体力切れでガタガタと体が震えた
どうしてこうなった
怖い。怖い。怖い。
「帰りたい…帰りたい…こんな怖いのやだよ…」
蹲って動けない
涙も止まらない
子供のようにわんわん泣いていると発砲音と少しずれて足に何か当たる感覚がした
血が飛び散る
完全に腰を抜かした。
痛い、足が熱い。
ガタガタと震えながら顔を上げると、目の前に銃を構えた女性が立っている
彼女の手も震えている
やめてよ、私が何をしたって言うの?
そんな言葉さえ出てこない
引き金にかける指に力が入って行くのが何となくわかった
終わった。また私の人生は終わるのか
下唇をグッと噛んだその時目の前の女性が悲鳴を上げた
釣られてこちらも悲鳴を上げそうになる
突然叫ばないでくれ!
目の前にいた女性が腕を怪我している
なんだ?なにが起こった?
周りを見渡した
霧の向こうからずっと現れたのは先程の看護師クリーチャーとまた別のクリーチャー
どうやら鉈を投げつけたらしい
オイ危ないだろ。
いやまて、もしやこれは、私を助けてくれたのか?
銃を構えていた女性が慌てて逆の方向に逃げて行く
完全に腰を抜かした私はその様子をぼけっと見つめるしかなかった
クリーチャー2体が私の顔を覗き込む
だからこえーってばよ
「可哀想に足を撃たれちゃったのね…ごめんね私がもっと早く追いかけていれば…」
この人?このクリーチャーがさっき会った方か
いつのまに影分身したのか全く同じように見えるクリーチャー(もう一人の方)が手際よく足の手当てをしてくれる
「貴女馬鹿なの?ここはアイテムエリアでしょ?入っちゃいけないところじゃない」
あ、性格が全然違うのね。
そしてこっちのクリーチャーはおっぱいが小さい。
「あの…助けて頂いてありがとうございます。でもなんでクリーチャーが人間の私を…っていうかアイテムエリアとか入っちゃいけないとかってどういうことですか」
クリーチャーが顔を見合わせた
「なんでって。おかしなことを言うのね」
「貴女もクリーチャーじゃない」
あ。まじか。
そう思った瞬間意識がなくなった