第2話:僕らはここにこうして生きている。
では、もし引き返せたとして… 引き返す直前に、戻ることはできるのだろうか? どのようにして元の世界に戻るのだろうか? やっぱり、それは、難しいのだろうか。なにもかも初めからやり直して、その結果、一つ前の人生の方がいいなぁと思い直して、また元の世界に元にあったままの世界に状況にすっかり戻ってしまうことはできるのだろうか? 以前の記憶が残ったままだとして。以前の世界に戻ることはできるのだろうか。以前の世界と引き返したあとの世界は地続きなのであろうか。地続きであるなら全く同じことが全く同じように繰り返していくのだろうか。それとも、少しのズレで全てが少しずつ変わってしまって、全く以てすっかり違う世界が出来上がってしまうのだろうか。自分自身も変わってしまうのだろうか… 例えば、それが、目の前で微笑むキミの全て、キミの全てまるごと全ても。全てを道連れに、全てを呑み込んで、全てを変えてゆくのだろうか。忽然と現れた時空の歪み(ひずみ)のように。青空に広がった宇宙の暗黒のように。地面のアスファルトに開けられたマンホールの丸い穴のように。この足元からすっぽりと、僕らを呑み込むのだろうか。突如、一瞬にして、あっという間も無く、立ち尽くす逡巡さえ、与えられずに。何一つ、与えられずに、僕らはここにこうして生きている。