邂逅
その翼は純白ではない。硝煙と血で汚れきったおぞましき灰褐色。しかし、その足は美しい薄桃色で、さながら珊瑚のようだ。幾多の殺戮を成してきた鳩にはにつかわしくない、あえかな海の宝石……。
おれは、奴を思う。は31号、通称イーグル。
必ず仕留めてみせる。そのために、ここにやってきたのだ。
鳩軍中野学校。
やがて極秘任務を担うエリート戦闘鳩達が、訓練をうける施設。おれにとっては古巣で、そう、奴にとってもそれは同じだった。
……昔のことを思い出して感傷的になるのは今のおれににつかわしくない。感情を凍結させ、おれはその屋上へと舞い降りた。
「は27号!」
おれを呼ぶ声がする。ひどく懐かしい声。
「教官」
おれは無感情に敬礼した。
「なぜ貴様がここにいるんだ? もしや……」
「はい。そのもしやであります」
教官は、白い羽を震わせながら言葉を続けた。
「奴は……は31号は、生きていたのか?」
「生きています。そして、この東京に」
「なんてことだ……」
教官は、がっくりと肩を落とした。もともと肩幅のない鳩のであるから、その姿はほとんど円柱形だった。
「それで貴様は、あいつを追っているんだな? 所在はつかめたのか?」
「いえ、それがまだ。色々な噂は聞くのですが、なんせ錯綜しております。ですからここに来たというわけであります。ここが一番、情報が集約されているかと」
「ふむ……」
教官は羽先を嘴にやり、隣で控えていた俊敏そうな若鳩に目配せをした。
「とりあえず、今日はもう遅い。ここで休むといい。翌朝、話をきこうじゃないか」
「有難うございます。では……」
おれは、馴染み深い巣箱に向かった。
ちっとも、昔と変わっていないな。
そして、泥のように、眠りについた。
夢で奴が羽ばたいていた。お前は、どこにいる? どこに飛び立とうとしている? そして……おれの意識は、タールのような闇の底に落ちた。奴の鳴き声は、それでも木霊したままだった……。