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7.旅出の時

「――本当に行くのか、ムツキ?」

「うん。父さん、母さん」

「辛くなったらいつでも帰っておいで。たとえ種族が違っても私達は貴方の家族だから」

「ありがとう。何というかその……今まで本当にお世話になりました」


――クリスタルボアを撃退してから数日の時が流れた今日、ムツキは夢であった冒険の旅に出ようとしていた。

 そんなムツキを見送りすべく、村の全てのオーク達が出口へと来ていた。 

 ちなみに旅に出る話をした際に、こちらの世界での両親であるノモスとアモルには危険だからやめなさい、と当然反対された。


だがムツキは――

 『こんな辺境の村にまで強力な魔物が現れたんだ、多分守るためには今まで以上に魔石も強い力も必要になる。だから俺は冒険者になってこの村を絶対に守れるくらいに強くなる。そして沢山の魔石とお金を稼いでくるよ。それはここまで俺を育ててくれた父さんと母さんへの恩返しにもなるしっ。――あと昔何度も話したけど冒険ってのにやっぱり憧れてるんだ、俺!』


――こう言って紆余曲折の末に納得して貰った。

 元の世界では碌に運動する事すら出来ない程に病弱だったムツキは昔から両親に『将来は自分の足で冒険に行って、世界を見てみたい』と話しており、両親もそれを覚えていたのだ。



「体には気をつけるんだよ。あと魔物とか悪い人にも、ね」

「そうだ。お前は年齢のわりに能力も優れているし、精神も成熟している。だけど少し人が良すぎる所があるからな。騙されたりしないようにしろよ」

「わかってるよ、父さん、母さん」

(一応元の世界とこっちの世界の年齢を合わせたら三十年以上生きているからな……。まぁこっちの常識とか考え方が違い過ぎたり、数百歳の魔族の人がザラに居るこっちじゃあまり意味はないような気がするが)

 いくら見た目のほぼ二倍の年数を生きているとは言っても、両親は勿論、村のオークのほとんどは年齢が三桁だ。

 彼らからすればムツキは子供のようなものだろう。


「坊主、その剣と魔法の袋(インベントリ)がきっとお前を守ってくれる。だから死なない程度に頑張れよ」

 ボレズンがぶっきら棒に口を開く。


――ボレズンはこの数日間でムツキは彼にエナのフォームを徹底的に教えこまれた。その結果完璧ではないが、彼からある程度の及第点を貰うことには成功した。

 そして昨日、彼の師の形見らしい『ヘクトール』という名の片手剣バスタードソードと、魔法袋インベントリと呼ばれる魔法付加品マジックアイテムを貰った。

 ヘクトールは一見すると鍔に狼のような装飾と魔石が埋め込まれている以外にはこれといった特徴はないごく普通の剣だ。

 だが彼に言われるがままに昔教わった、物品鑑識スペクタクルズというスキルでその効果を見ると、なんとその剣は『七等級』というランクだった。


――この世界では武器や防具、アクセサリーのような装備品からありとあらゆる魔法付加品マジックアイテムに○等級と呼ばれるランクが割り振られている。

 これらは魔法などと同様に、数字が小さくなればなる程強力であったり高価だ。

 

 魔大陸では一般的な兵士が使うものが十等級であり、上から認められた優れた兵士や並の冒険者が使うものが九等級や八等級である。

 つまり七等級とはそれ以上のランクであり、中~高位の冒険者が装備する事が多い高価な装備品だと言われている。

 そのためこの武器はまだ駆け出しにすらなっていないムツキにはかなり破格の装備だと言える。

 

 そして魔法の袋(インベントリ)も同じく彼の師の形見らしく、これは一定の個数までのありとあらゆる食料や装備、魔法付加品マジックアイテムを自在に収納出来る袋型の魔法付加品マジックアイテムだ。

 取り出すときには袋に手を入れる。すると視界に収納されている物品のリストが浮かび上がる、といった仕組みだ。

――まるでゲームのようだな、とムツキはこれを最初見た時に感じた。

 

 だがこの小さな袋に旅の道具を収納する事で、重量の心配をする必要がなくなるのだから非常に便利だと言えよう。

 故に高位の冒険者ともなればほぼ全員が所持している魔法付加品マジックアイテムだが、その利便性から非常に高価だ。

 それを譲ってくれたのだからムツキの心には感謝しか無かった。


――ちなみに魔法のインベントリの中には数日前に倒したクリスタルボアの牙が入っている。

 この牙は魔力を持った水晶であり、クリスタルボア自身の強さも相まって非常に高い価値を持っている。

――これを売れば質素ではあるが、恐らく一ヶ月は生活出来る程に。

 そのため村長や両親から貰った魔大陸の通貨とは別に、いざという時の換金用のアイテムとして魔法のインベントリの中に納められている。


「なにからなにまでありがとうございます、ボレズンおじさん」

「いいって事よ」

「――ボレズンにばっかり良いカッコはさせられん。ほれムツキ、私からこれをやろう」

 そう言ってイダリコが差し出したのは先端に緑色の魔石が拵えられた三十センチメートル程の短杖ワンドだった。


「い、いいんですか?」

「うむ。これは奇跡サヴマという名の霊杖だ。等級はアイツの片手剣バスタードソードと同じで七等級。魔石が特殊らしく私では扱いきれなかったが、魔力の過負荷で私の杖を破壊し、詠唱無視チャントネグレストを使えるお前ならきっと扱えるだろう。取り回しも良いから邪魔にならんだろうし、まぁ剣が折れた時でも使うといいさ」

「……ありがとうございます、イダリコおじさんっ」

 こんな物まで貰っていいのか一瞬ムツキは迷ったが好意を無駄にするのも、万が一これを受け取らずに死んでしまっても意味がないので、素直に受け取る事にする。


「あと、村を出たらまず一番近くの『ランコンの街』へ向かうといい。あそこなら冒険者ギルドもあるし、肉や工芸品を何回も売りに行っているから道もわかるだろうしな」

「わかりました」


「ああ、それと。一応占いもしたのだが、あそこにはきっとお前の味方になってくれる人が居るだろう。出会えるかはわからないが、まぁ頭の隅に留めておいて欲しい」

「わかりました。――それじゃあ俺は行きます。父さん、母さん、そして皆、今まで本当にお世話になりました」

 そう言ってムツキは全員に一度深く頭を下げると、村に背を向け荒野を歩き始めた。

 その背中に投げかけられた村のオーク達の声援はその姿が見えなくなるまで続いた。


――ムツキの冒険の日々が今日、この瞬間始まったのだった。



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