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5.異変

「――ごちそうさまでした」

「おう、お粗末さん」

 

――固いパンと干し肉、豆を炒ったものに薄味のスープという元の世界と比べるとかなり味気なく、質素な食事を終える。

 もし元の世界の感覚であれば不満を覚えそうな食事だが、ムツキはこの十六年で既にこの魔大陸の食事に慣れている事もあって大いに満足していた。

 

 魔大陸は元々魔石や鉄鉱石の産出は豊富だが、反面土壌の性質上作物が中々育たず、仮にじっくり育てようとしても魔物の襲撃があるため、兵士や冒険者による確固たる警備が行われている地域以外では中々に厳しい。

 そのため魔大陸の食料事情は他の大陸と比べるとあまり良くない。

 実際食糧不足に陥ってる村も少くはないのだから、それと比べれば食べられるだけ有り難い、とムツキは考えていた。


――ちなみに余談だが、今回の食事の材料にも魔石による保存魔法が使用されている。

 採れる食料が少ない分、魔大陸では魔石による食料保存や、水の浄化といった技術が他の大陸よりも進歩しているのだ。




「――おお、ムツキじゃないか。今日もこの脳筋と稽古か?」

 食事を終え、ムツキとボレズンがとりとめのない雑談をしていると、背後から声がかかる。

「あっ、イダリコおじさん。こんにちは」

 振り返ったムツキの前に居たのは茶色いローブを身に着けた老齢のオークだった。


 彼は占いを得意とする魔術師長ソーサラーのオークだ。このムツキという名前を付けたのも彼だった。

 どうやら彼は父親に名付けを頼まれた際にムツキに何かを感じ取ったらしく、占いにより奇しくも元の世界の名前と同じ名前を付けられた。その時はムツキは内心で大層驚いたものだ。

「けっ、誰かと思えばジジイかよ」

「誰がジジイだ。お前と大して年は変わらんわ」


「あ、仲良く話をしている所悪いのですが、イダリコおじさん、今日お時間は大丈夫ですか?」

「こ、コイツと仲が良いなんてありえ……ゴホン。大丈夫だが、なんだ?」 

「実は先程今日の剣の稽古を終えたので、イダリコおじさんが良ければこの間の続きを教えてもらおうかと」

「おお、良いぞ。お前は剣の才能だけじゃなく、その年で五つの基本属性魔法を『第八位』まで全て使える神童だからな。こっちとしても教えがいがある」

 イダリコはニカッと快活な笑みを浮かべながらムツキの願いを快諾してくれた。


――魔法や近接攻撃のスキルにはその性能や規模に応じてランクがある。

 それは第○位という形で表され、その数字が少なくなればなる程に強力だ。

 

 ちなみに優秀な兵士や魔法使いが一生涯をかけて習得出来るのが基本的に第八位まで。

 それ以上はごく一部の才能のある者や常人には耐え難い努力を重ねた者が覚える事が出来る。

 だがそれも精々が第六位までであり、それ以上のスキルとなると今は枯渇してしまった高ランクの魔石の恩恵により、現在より遥かに文明が栄えていたとされる時代のお伽話の英雄や神話級のレベルに踏み入ってしまう。

 そんな中でムツキは十六歳という若さで基本属性とされる『水、火、土、風、雷』の五属性の魔法を第八位まで習得しているため、非常に優れていると言える。


「ありがとうございますっ!」

「ふっ、そのうち私からは教えられる事が無くなりそうだ」

「ふんっ、お前が使えるのは基本属性魔法が第八位、得意な火属性魔法のみ第七位だもんな」

「だ、黙ってろ。お前だって使える近接攻撃のスキルは第七位までじゃないか。しかも魔法と同じく第八位までムツキは習得してるしな」

「うぐ……。ぼ、坊主は本当に成長が早いんだよ」


「そうだ、ムツキ。もし第七位まで魔法を習得したら王都の魔法アカデミーに行ってみたらどうだ? あそこなら第六位までの魔法を教えられる先生が居ると聞いたぞ」

「あー……」

 ムツキが神妙な表情をしながら唸る。


「どうした、ムツキ?」

「イダリコおじさんには悪いんですけど、俺はどちらかというと魔法より剣で戦う方が好きかなー……なんて。いや、魔法も好きなんですけどね。それに四年間アカデミーに縛られるのはちょっと……」

――確かにアカデミーに通えば確かに魔法の腕は成長するだろう。

 だが余程凄まじい成績を残さない限り、一度入学すれば四年間もそこで拘束されてしまう。


(せっかく元気な体を手に入れたんだし、運動も出来なかった前の体じゃ絶対に無理だった『冒険者』ってのをやってみたいだよなぁ……)

 

――オークや行商人として時折村を訪れる『モケノー』と呼ばれる獣耳を生やした少女の種族は、平均二百年程の寿命を持っている。

 長い者では三百年以上生きている者の居る程で、実際この村の村長のオークは今年で三百五十歳らしい。

 そんな彼らからすればアカデミーで過ごす四年という時間は短いのだろうが、人間のムツキにはその時間はあまりにも長過ぎる。


 そう、人の命は魔族と比べるとあまりにも短い。恐らく魔大陸という厳しい環境という事を加味すれば、長生き出来ても精々六十年がいい所だろう。

(冒険者として名を挙げればお金も稼げるし、そうすれば俺を育ててくれたこの村の皆に少しは恩返しが出来るはずだし……!) 


――冒険者

 それはこの大陸に跋扈する無数の魔物を討伐し、治安と安全を守りその対価に高額の報酬を得る存在だ。

 中には今より栄えていた過去の時代の遺跡を捜索し、当時の武器や魔石を手に入れ一攫千金を狙う者や、傭兵代わりに別の大陸へ出稼ぎに行く者も居るが、この魔大陸の冒険者は大半が魔物の討伐を行う。

 もし彼らが居なければ未だに原因が解明されず、何処からか無尽蔵に湧いてくる魔物の前に魔族は滅ぼされてしまうだろう。


「へへっ、流石は俺の弟子だぜ。やっぱり男は魔法なんかより剣術だよなッ!」

「うぐぐ……それだけの才能があるのに勿体無い……」

「ごめんなさい、イダリコおじさん」

「いや、良いんだ。気にしないでくれ。だが気が変わったらいつでも言ってくれよ。アカデミーには知り合いの伝があるんでな。入学の口添えくらいはしてやれる」

「ふふっ、ありがとうございます」

――ペコッ

 感謝の気持ちを込めてムツキはイダリコへと素直に頭を下げる。

「やれやれ、相変わらず律儀な奴だ。それじゃいつもの広場で魔法の訓練を――」




『――うわぁあああぁぁぁッ!!』

 イダリコがムツキと共に食堂から移動を開始しようとした直後、村の入口の方から悲鳴が響き渡る。

「っ!?」

「な、なんだっ!?」

 それを聞いた三人は直ぐに村の入口へと走っていたのだった。



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